第22話 ラーメン

「お昼は、社員食堂かな」と、愛紗。



友梨絵は「いや、今日は愛紗くんの取り調べ室だ、青島刑事!」と、ふざける。


由香は本当に青島なので(笑)


「都知事と同じ、青島です」と、右手を挙げて



「キターーーー!」




愛紗も、笑ってしまう。「古いね、結構それ」


愛紗が、まだ故郷に居た頃だったような気が(笑)。




「ほんじゃ、あれか、烏骨鶏ラーメン」と


座敷のあるラーメン屋さん。



市立病院の側。



愛紗には思い出の道。

菜由と、自転車に乗って転んで


深町に助けられた、あの道の

交差点から、少し北のラーメンのおいしい。


烏骨鶏を飼っていて、その骨を

出汁にしてるので、さっぱりしてると

ラーメン好きの友梨絵。



「ラーメン好きね」と、愛紗。



友梨絵は「うん、忙しいからねー。

さっと食べられて美味しいの。あそこは

一杯入ってて安いし」



友梨絵は、実の所高校は途中から不登校であったが

卒業資格は持っている。



その為、不登校になってた頃から親の負担を考えて

アルバイトをしていた。

それで忙しかった、と言う訳。





普通のラーメンは300円と、特別安いので

なぜか、市立病院から

パジャマの人が食べに来たりしていて。


お医者さんも来ていて、一緒にビール飲んだりと(笑)


のどかなお店だ。




「そこにするか、あんまり時間、はあるな。

2時間」と、由香。



バスは、結構昼間は時間があるが



だいたい、学生送迎の貸し切りが入る。



小学校や高校生。



駅まで遠い学校とか、山に住んでいる別荘地の子供を送迎したり。




それで、昼休みが長いように見えて

そこに入れられてしまう。



時折、道路工事があったりすると


帰って来れない事もあったりするが。



それのせいで、みんなこれを嫌っていた。



本来、外部の業者とか、アルバイトに

行かせる仕事だが


それも、岩市が

経費を減らせる為に違法(である。本来は

禁止。現在は特に厳重になったが

この頃も違法であった、当然だが

昼休み労働なんて、違法で当たり前)。




「ラーメン屋さんまで、乗ってこ」




友梨絵は、自分で買った軽自動車、黒いスズキ、パレットに

由香と、愛紗を誘う。


従業員駐車場は、国道の側のスペースで


結構広い。


それなので、近所の工員が勝手に停めたりしていたが


そこはそれ、おおらかな田舎である。




その工場で、バスを観光に使ってくれれば


それもいい。




そんな感じだった。

軽自動車用のスペースから、車を引き出して


「乗ってー」と、友梨絵はにこにこ。




後ろに愛紗、隣に由香。


なんとなく、そうなる。


以前は愛紗の隣に、菜由が居たりしたし

時々、他のガイドさんと乗ったり。


「黒いクルマって流行りかな」と、愛紗。




友梨絵は「そうかも」と、あまり気にせずに

買ったらしい。これも、程度のいい中古だ。


どんなクルマでもよかったらしい。



「ラーメン、ラーメン」と、友梨絵は楽しそう。



女の子っぽい、そういう食べ物も好きだけど

仕事の合間に食べるのは、簡単なものがいいから。



愛紗にとって懐かしい、あの道を通ると

結構地盤が下がっていて、道がうねる。


それで、自転車で転んだのだけど。



その、思い出の日はもう結構前だ。



その頃一緒だったガイドの多くは、なんとなく居なくなった。



まあ、3年くらいで結婚したりするのは

普通。


だから、友梨絵や由香みたいなのは

派遣でも良かったのだけど。



何故か、バスガイドの仕事をしたのは


まあ、知り合いのバイト仲間の

深町が居る、と言う理由も大きい。



誰か居る会社って安心なのだ。



結構友梨絵はスピードを出すので、

エンジンがぶーん、と大きな音を出して


ラーメンのお店にすぐ着いて。

頭から道路沿いの

パーキングに入れた。



ドアを閉じて、友梨絵は「さ、いこいこ。」



痩せた、メガネのおじさんは白衣で


「いらっしゃい」



鳥ガラみたいなので、いつも友梨絵と

由香はくすくす。



烏骨鶏の雄鶏かな、なんて(笑)想像して。


トサカがないのかな、なんて


友梨絵はおじさんの後ろを見たりして。



「なにやってるの?」と、愛紗が

首をかしげて。


友梨絵は「なんでもなーい、あ、おじさん、あたしラーメンね」



由香は「あたしも」



愛紗は「あ、それじゃ私も」



ラーメン300円。



市立病院がよく見えるが


時々、パジャマの人が歩いている(笑)。




奥のお座敷は、個室が3つで

結構、人気だけど

今日は平日。



空いていて便利。



靴を脱いで見ると

愛紗だけスニーカー。



運動用だし、作業着には似合い。




「ま、いっか。」と


ちょっとクーラーが入ったお部屋で

涼む。



「さて、青島くん。」と、友梨絵は

まだ、テレビの続きみたいに。


「都知事と同じ、青島です」と、由香。



本当に青島由香なのだ(笑)。




「それはいいけどさーぁ。愛紗の好きな人って

本当にたまちゃんじゃないの?」


由香と友梨絵は、バイト仲間だった為か


年が離れた深町を、たまちゃんと親しみを

込めてそう呼ぶ。



その辺りは、まあ、所有権を主張している

みたいな雰囲気でもあったり。



愛紗より、少し後に入って来たから菜由

や、愛紗が

深町を仮装恋愛の相手に見立てていた事なんて

知らない。


いや、愛紗はともかく

菜由は、ファンタジーかリアルか解らなく

なってたような所もあって。


それもまあ、深町があんまり

人間っぽく感じられないあたりもあった。





「そう、なんか、恋人、みたいな

そういう気持ちと違う」と、愛紗は

言った。



友梨絵は「それ、解るな。あたし、抱き合って

思ったもん」と


烏骨鶏ラーメンを食べながら言うか(笑)。


愛紗はどっきり。「え」

お箸が止まる。


由香は「これ、誤解を呼ぶ」と、友梨絵の

頭を小突いた。


友梨絵は「痛いなーぁ、もう、バカになっちゃう」と。


由香は「それ以上なるか、地図読めない癖に」と、笑う。


友梨絵は「それは昔の話」と、ギャグが続くけど

愛紗は、ちょっと気になって笑えない。



由香は、愛紗の気持ちを読んで「ああ、コンビニのね、キッチンで、友梨絵が熱出して。

それで、熱を見て貰った時に、はぐしたの。友梨絵が、ねー。」


愛紗は「そっか。」と思ったけど

そんな事とっても出来ないと、思う。


元気で行動的な、友梨絵や由香が羨ましい。


私ってダメだ。


そう、落ち込みっぽく。


友梨絵は、その愛紗を見て「やっぱ、好きなんじゃない?別にいいんだ、あたし。たまちゃんは、自由にしてもらうのが一番いいって思ったから。だから、愛紗を選ぶならそれも

いい、って思う。愛紗、可愛いし。

あたしみたいな不良上がりより、お似合いだと」



愛紗は、解らない。その気持ち。


由香が「うん。友梨絵はね、その時すっごく

思い込んだの。ずっと泣いてた。

でも、なんで泣いてたかわかんなくなったの。

そう思ったら、なんか、好きな人に

いつか、自分を好きになって貰えばいいってそう思えたの。」


愛紗は、もっと解らない。


好きな人なら、自分だけを好きになって貰いたいと思う。




友梨絵は「うん、たまちゃんは自由にしてないと

魅力、ないんだ。そう思うの。家庭とか、会社とかがないからあの人なんだって。

結婚とかさせたら、つまんない人になっちゃいそうだから」



愛紗には、その友梨絵の達観は解らないけど

どこか、深いところで


理解しているのだろう、とそんな風にも思えた。



「でもね。愛紗ならいいけどさーぁ、営業部長ね、あの娘とかさ、運転の出戻りとかさ。

それじゃたまちゃんが可哀相。それなら

強引にもあたしが奪っちゃうから!」と、

友梨絵は笑った。



そんな元気が、キラキラしてて

羨ましい愛紗だった。


こういう子なら、バスドライバーも

勤まるんだろう、


私、ダメだ。


そう、愛紗は思い込んで。



友梨絵は「そんなに好き?」と、愛紗の

沈黙を誤解して。



愛紗は「ううん、そうじゃなくて。

友梨絵や由香の元気が羨ましいって」


と、バスのドライバーも。恋愛も。

いつだって、誰かに

気遣って貰っているのが


ダメだな、って言う気持ちを

そのまま伝えた。

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