やさしい気持ち




そんな風に、めぐ、は

特別に戦ってる訳じゃなくっても


やさしい気持ちでいるから


悪魔くんの、気持ちを変えるかもしれなくて。



少しづつ、やさしい人が増えてくれれば



いいこと、かもしれない。



めぐ、が

そう思ってる訳じゃなくっても



柔らかな気持ち、と


ふれあって


自然に、優しくなっていく.......



男っぽい、ハードな戦いではなくっても

柔らかな気持ちが、いつしか

尖っていた気持ちを、やわらかくしていく


そういう事もあるのだろう。



それは、やはりオキシトシンの働きで

ルーフィがしたような方法でなくっても



世界が、みんな

やさしくなれば、いいのだけど。





どうやら、めぐが図書館で

妙なトラブルに巻き込まれるのも

天使さんが宿っているので


その、優しさに触れたくて


トラブルを起こす人に憑依している

悪魔くんが、そうさせているのかもしれない。




言ってみれば、そういう人は

愛されたい訴求があるので



自然に、愛してくれそうな人に

近づいていく。




でも、ふれあいの方法が分からないので

トラブルを起こしたりする、らしい。





勿論、悪魔くんも

人間界から魔界に行く理由は

そうした救いが無かったので、よくない行いをして

魔界に行ってしまった、と言う事だろうから


それで、救いを求めて


なぜか人間界に居る天使さんに近づくのも

自然な事........。




さっきの化け猫ちゃんも。



天使さんは、それも仕事....。




でも、めぐにとっては

義務でも何でもないのだけど(笑)。









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いつもの放課後



その日も、めぐは

いつもみたいに、学校帰りに

図書館に行って、司書のお手伝いをした。


「ひろーい吹き抜けって、すてきだな」

なんて、見慣れてる景色なのに。


へんかな?なんて

ひとり笑い、くすくす。


きょうも、こども図書室のとなりを通って

ロッカールームへ。


それで、ロッカーにかばんを入れて。

いつもの黒いエプロン、むねのとこに

ひらがなで、オレンジ色に[としょかん]と

書いてある。


なんとなく、お気に入りの

それをつけて。


宰一図書室の、きょうは

返却カウンターで、受付。


夕方になるまでは、学生さんが主なので

そんなに、忙しくはないし


トラブルも少なくて、幾分気楽。


学生は、暇なのだ(笑)。



閉館に近い、5時を過ぎると

お勤め帰りの人、とか


バスや電車の時間の合間に、せわしく

駆け込んでくるので


そういう時、いらいらおじさんとか(笑)

こないだみたいに、来たりする。



「いい方法ないかなー。」なんて、めぐは思ったりしてて


カウンターに、人がいるのに気付かなかった。



「あ、あ、ごめんなさいっ」と、めぐはにこにこしながら

本を返しに来た人を見た。





大学を出たばかり、の人なのか

それにしては、地味な黒いスーツを着て

白いシャツ、短い髪。


就職活動かな?でも、もう夏.....。


と、めぐは思ったけど

この国は仕事が無くて、学校を出たばかりの

女の子でも、何か技がないと

就職できなかったりした。



この人も、そうかもしれなかった。




あまり、就職が上手くいかなかったのか

うつむいて、無言で


カウンターに本を返却。


就職に役立つ、面接の方法とか

そういった本ばかりだった。


でも、その中の一冊に

キュルケゴールの「死に至る病」があったので

めぐは、気になった。


悩みがもとで、命を絶つ事もある、と言う一節がある

哲学の本だ。




その人は、無言のまま

返却処理を待たずに、エレベータに向かって。


なぜか、昇りボタンを押して。


エレベータに収まった。



返却処理が終わって、気付くと


その人のものらしい、IDカードが本の間から。


「あ.....。」




返却を待つ人が居なかったので、めぐは

そのカードを、忘れ物を渡そうとして


エレベータに乗り、上へ登った。












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墜落



エレベータを5階で降りて、めぐは

営業を終えて、灯りが消えている喫茶室、

いつか、子供が落ちそうになって

トラブルになった、あのテラスの入り口を見た。

鍵はしっかり掛かっている。



もしかして、と思って来たけれど。



死、をイメージする本を読んでいたりして

気になって。



ここにいない、ってことは....屋上?!



屋上は、ふつう

昇れないように、ドアに鍵が掛かっている。




でも、もしかしたら。


エレベータ・ホールの隣の階段に戻って

屋上への階段にある、柵を見ると

動かされて、隙間が空いていた。



時々、図書館の職員さんが

屋上点検や、煙草を吸ったりするときに

あけたりするから....。



と、めぐは思って、不吉な予想を打ち消そうとした。




階段を駆け上り、屋上への鉄の扉を開いた。

無骨なオリーブの塗装だけの扉、ステンレスの鍵は

捻れば開く。



-開いてる。-



なんとなく、怖い。



扉を開いて、屋上、まわりにあるフェンスを見回した。



遠くのお山は、すこし日暮れに近づいて

あかね色に染まり始めている。




その、山を見上げている後ろ姿を見つけ.....めぐは


「あの!」と声を上げると


さっきの人、リクルート・スーツのひとは

びっくりして振り向いて。



「カード、お忘れ物です」と、めぐは


それでもこわばった声で、言った。



ちょっと、怖かったのだ。






「いいんです、それ、もういらない」と、

リクルート・スーツの人は振り返って、山に向かって

屋上を駆けだした。


柵を乗り越えて、飛び降りるつもり?




「だめ!」と、めぐは

たちすくむ。



不思議だけど、そんな時

動けないこと、ってある。




「そんなことしちゃ、いけない!}と、めぐは叫ぶ。








リクルート・スーツは、柵に駆けより

乗り越えようとした、その時。




何者かが押さえたかのように

右足が止まり。


つまづいたみたいになって、柵にぶつかって倒れた(^.^;)




呆然。



なにがおきたかわからないけど


めぐは、なんとなく笑ってしまった。


「ごめんなさい」と、いいながらも


その動きがコミカルで。




リクルートスーツの人も、おでこを

ステンレスのフェンスにぶつけて、痛かったのと


ドジな動きで、照れ笑い。










「ありがとう、わたし、ほんとうに。」

飛び降りるところだった、と

リクルート・スーツの女の子は言った。



めぐは、いいえ、と、かぶりを振りながら


でもまだ、少しくすくす笑っていた。




「就職が、うまくいかなくって.....。」と、リクルートスーツ姿の理由も彼女は告げた。


このところの不況で、学校は卒業しても

就職ができなかった、と。



「大変なんですね...わたしも、いずれは」と、めぐは

ハイスクールに行きながら、図書館でバイトしてるのは

司書になりたいから、だと


そんな風に告げた。




「いいわね、あなたは...もう、進路が見つかって。」と

その人は俯いて、コンクリートの屋上を見つめながら。



「いいえ、図書館のアルバイトもいつまで続くか...

それに、学生でなくなったらアルバイトだけ、と言うのも...。」と、めぐは、そう言った。




「そっか....。」と、リクルート・スーツの襟を

気にしながら、その人は視線を上げた。




「あなたも頑張ってるのね。わたし、少し驕ってたの。

たぶん。でも、それじゃだめだって、今思った。

なんでもして、生きていこう。よし。」と


きっぱりとした口調で、その人は空を見上げた。



めぐ、も

にっこり。


背中の天使さんも、にこにこ。




でも、不思議なのは


彼女の足を引き留めたのは、誰.....?





あの時、子供が5階のテラスから落ちそうになった時と

同じ...。










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