第69話 荒野の風に吹かれる機人たち 1
「俺の知り合いが住んでいるのは一種のゴーストコロニーで、元々は金属の採掘抗だった場所だ。資源を掘り尽くしてできた大きな穴に市場を作っていたんだが、ある時暴動が発生してね。一部の過激な連中が市場の人間と機人を片っ端から殺しちまったんだ」
「知り合いの方は、どうしてそんなところに住んでいるんですか」
「良くは知らんが、本人は墓守と称しているな。まあ、商売の点で色々と都合がいいってのもあるかもしれんが、いずれにせよまともな奴は近寄らないような場所だよ」
サスペンションの効かない車で未舗装道を走りながら、黒崎が言った。
「黒崎さん」
「なんだ」
「どうして僕らに親切にしてくれるんですか」
僕が尋ねると、黒崎は少し考えて「さあな。徳って奴を積んでるのかもな」と言った。
「徳?」
「俺は餓鬼の頃から、他人をぶちのめして這いあがるような仕事をしてきた。ここらで落ちつきたいんだが、何をすれば人のためになるのかがよくわからねえ。だから知り合いで困ってるやつがいたら、とりあえず手助けすることにしてるのさ」
「この人はねえ、商売って奴をやってみたいんだよ。自分の店を持ってさ。だけど荒っぽいことばかりしてきたから、客のあしらい方がわからなくてしくじるんじゃないかって心配してるのさ」
助手席のアマンダが保護者のような口調で言うと、黒崎は「今まで相手を殴ってた手でもみ手をしなくちゃならねえんだ。慣れなくても仕方ねえだろ」とぶっきらぼうに返した。
「見えてきたぜ、あれだ」
黒崎が指さした先に見えたものは、巨大な岩山だった。
「あれって、ただの岩山じゃないですか」
「中に街があるのさ。……確かこのあたりだな、『入り口』は」
黒崎は岩山のふもとで車を停めると、身を乗り出して岩肌をあらため始めた。
「よし、目印があった。トンネルのゲートを開けてもらおう」
黒崎は一人でうんうんと頷くと、エンジンを切って運転席から外に出た。よく見ると岩山の手前に何かの骨が突き刺さっている場所があり、黒崎の目的はその骨らしかった。
「なんだろ、あれ」
徹也が素朴な疑問を口にすると、アマンダが「あれが『呼び鈴』なのさ」と言った。
「呼び鈴?」
車内で僕が首をかしげていると、突然、骨が光りどこからともなく「誰だ」と声がした。
「黒崎だ。商売道具を仕込みに来た」
「ゲートを開ける。入れ」
声があたりに響き渡り、同時に岩肌の一部が開いてトンネルを思わせる通路が出現した。
「さあ、行こうか『死の市場』へ」
運転席に戻った黒崎はそう言うと、再びエンジンをかけはじめた。
岩山に穿たれた薄暗い通路を進んで行くと、ほどなく巨大なシャッターが僕らの行く手を阻んだ。黒崎が窓から顔を出し「開けてくれ」と叫ぶと、かちりと音がしてゆっくりとシャッターが開き始めた。
「さあ着いた。この奥に知り合いの住居、通称『ゴメスの館』がある。ゴーストタウンの実質的な支配者だ」
僕らの前に現れたのは、軒が一体化した低層住宅がどこまでも続く街だった。黒崎は長屋のような建物に挟まれた通りに車を入れると、奥へと進んでいった。
「このあたりはかつて大きなマーケットだったんだ。だが暴動のとばっちりで、店員も客もみんな殺されちまった。ここは至るところに死が転がってる呪われた街なのさ」
黒崎の語る不気味な歴史に震えていると、やがて車はある建物の間で停まった。
「さあ着いたぞ。ここが『ゴメスの館』だ」
黒崎は車を降りると、大きな門扉の前に立って「どうにか着いたぜ。中に入れてくれ」と叫んだ。すると重々しい音と共に鉄の門が開き、「入りたまえ」と声が響いた。
「車はここに置いていって大丈夫だ。なにしろ、この街には住人が一人しかいないからな」
戻ってきた黒崎は冗談めかして言うと、僕らに車から降りるよう促した。
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