第45話 明日なき戦いに挑む機人たち 12
ガタガタと揺れるトラックの荷台で僕が目を覚ますと、拓さんと徹也が「よう、お目ざめかなチャレンジャー」と擦り傷の残る顔で笑いかけてきた。
「ショウはどうした?僕は……どうして無事なんだ」
「さあな、帰ったら本人に聞いてみたらどうだ」
拓さんは悪戯っぽい口調でそう返すと、目で運転席の方を示した。トラックを運転している人物の後ろ姿を見て、僕は思わず「えっ」と声を上げた。
「ショウ……どうしてここにいるんだ」
「驚くのも無理ない、何もかもショウが敵を欺くためにこしらえたシナリオだったのさ」
「なんだって?じゃああの男……スティンガーもショウの仲間だったっていうのかい?」
「らしいね。本名はなんていうのか知らないが、少なくとも諜報部の人間じゃない。……いや、それどころか人間ですらない。ショウの古い友人だっていう話だ」
「どうしてそんな手の込んだことを……」
「一つはハンターをしばらく俺たちから遠ざけておくため、もう一つはファイトにリアアリティを持たせるためさ。万が一、八百長に気づく奴がいたとしても、極秘のプロジェクトが絡んでいるといえば相手を誤魔化せる。ショウの入念な仕込みがなければ、俺たちはどこかでぼろを出していたかもしれない。それだけ、油断がならない相手だってことさ」
拓さんが口許をゆがめて皮肉めいた笑いをこしらえた、その時だった。トラックが急停車し、運転席のショウがいつになく硬い表情でこちらを振り返った。
「みんな、聞いてくれ。先に戻っているはずの麻利亜と連絡がつかない。ちょっと速度を上げるから振り落とされないようにしっかり掴まっていてくれ」
僕らが荷台の縁に掴まったことを確かめると、ショウは再び前を向いてトラックのアクセルを踏みこんだ。
※
「いったいこりゃあ、どういうことだ」
めちゃくちゃにひっかき回されたリビングに足を踏み入れるや否や、ショウが叫んだ。
「ただの泥棒ってわけじゃなさそうだ。……ところで麻利亜さんは?」
拓さんが聞くと、ショウが「まるで気配がない。どうやらアジトにはいないたようだ」と言った。
「どうしよう、探しに行かないと」
徹也が泣き声混じりに言うと、ショウが「ちょっと待て」と宥めるような口調で言った。
「身の危険を感じて自分で姿を隠してくれたのならいいが、連れ去られたとなると厄介だ」
「今回のファイトに恨みを持つ人間でしょうか。……たとえば」
「朱雀凰児の部下か?担がれたと気づいてから動いたにしては早すぎる。まだ試合から一時間しか経っていない」
「凰児でもブランシェさんでもない人間で、茉里亜さんを連れ去りそうな奴となると……」
「ハンターか?だが麻利亜は一応、人間だ。闇世界の人間が同じ人間を誘拐したとなると、ハンターを続けられなくなる」
「でももし、イカサマが全てばれていたとしたら、ショウを恨んでアジトを襲う可能性が高いのは凰児かハリィですよね?」
「そうだな……」
ショウが腕組みをして唸った、その時だった。ふいにテーブルの上の端末が鳴り、耳慣れない声が飛びだした。
「久しぶりだな、ショウ」
「あんたは……」
「機人特務課長のゴドノフだ。どうやら朱雀のドラ息子を騙して一儲けしたようだが、やりかたが感心できない。軽々しく我々の組織を名乗られては迷惑なのだ。……そこでこういう仕事に慣れた連中の力を借りて、少しばかり君にお灸を据えさせてもらうことにした」
「なんだと?」
「お仕置きのやり方は彼らに任せてある。私はちょっと困らせてやれと依頼したにすぎん」
「卑怯者め……覚えてろよ」
「そんな捨て台詞を吐くより、お仲間の身を心配した方がいいのではないかね?」
乾いた笑い声と共に通話が途絶え、僕らは重苦しい沈黙の中、互いに顔を見あわせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます