第44話 明日なき戦いに挑む機人たち 11


 僕は起き上がってショウの勝利をたたえると、そそくさとリングを後にした。通路に出ても人間側観客が勝利に酔いしれる声は一向に止まなかった。


 僕は控室には向かわず、徹也と拓さんが待つ裏口へと急いだ。あと少しで出口という所で突然、人影が行く手を塞ぐように現れ、僕ははっとして足を止めた。


「久しぶりだなあ、基紀。……よくも姉に大損をさせてくれたな」


 僕の前に立っていたのは、生島とブランシェさんだった。


「何の話だ」


「とぼけてもらっちゃあ困るぜ。今日のファイトは機人が勝つことになってたはずだ」


「そうだったかな。僕は機人の誇りを賭けて精いっぱい戦っただけだ」


 僕が強気の台詞を口にすると、生島が「ふざけるなよ。また鬼藤……強化人間をけしかけられたいのか」と凄んだ。


「あんなやつ、怖くも何ともないよ。今日戦った人間たちに比べれば、ゴミさ」


「いい気になるなよ……凰児さんを怒らせたらお前なんて即座にスクラップだ」


 生島が僕の襟首をつかみかけた。その時だった。


「何の騒ぎですか」


 背後から突然、現れた人物を見て僕は思わずあっと声を上げた。なんと目の前に立っていたのは、あのスティンガーだったのだ。


「あなたは……」


「私は諜報部機人特務課のスティンガーという者です。ブランシェさん、思いがけない損害をこうむられたことには同情します。ですが、今回の試合結果は我々のあるプロジェクトが関わっているのです」


「あるプロジェクト?」


「はい。我々は、こちらの基紀君の力を借りて、ある人物の身柄を確保するという任務を負っていたのです……来たまえ」


 スティンガーの呼びかけに応じて姿を現したのは何と、試合を終えたばかりのチャンピオン――ショウだった。


「彼があなたを賭けに勝たせるため、八百長試合を企んでいたことは承知しています。ですが我々も彼を手に入れる千載一遇のチャンスを逃したくありませんでした」


「あの……ええと、あなたの言うことはわかったわ。それで、私の損害はあなたの組織が肩代わりしてくださるってことかしら」


「できる限りの補償はさせて頂きます。この機人には、そのくらいの価値があるのです」


 スティンガーはそう言い切ると、感情のない目で僕を見つめているショウの方を見た。


「ショウ、いったいどうなってるんだ。僕にはもう、何が本当で何が嘘だかわからないよ」


 僕が思わず詰め寄ると、スティンガーがショウになにやら目で合図を送った。次の瞬間、ショウが何かを取り出し、僕の方に向けるのが見えた。


「ショウ……」


 ショウが手にしていたのは、対機人用拳銃だった。小型のエネルギー弾を装填する銃で、ブラスターほどの破壊力はないが、一発でも喰らったら機能停止に陥ることは間違いない。


「やめてくれ、ショウ。僕がわからないのか」


 僕が叫び、銃口が輝いたと思った瞬間、激しい衝撃が僕を襲った。僕は後ろに吹っ飛び、床に叩きつけられてそのまま深い闇へと落ちていった。

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