第23話 寄る辺なくさまよう機人たち 16
薄汚れた通路を不満気な人間たちに紛れながら進むと、やがてごみごみした往来に出た。
――まだそれほど遠くへは行っていないはずだ。
僕は足を止めると左右を見回した。車を停めるとしたら機人が多い体育館の駐車場ではなく、どこか別の場所ではないか。僕はそう推理すると、会場の周囲をぐるぐると歩きまわった。やがて僕の目が、見覚えのあるトラックに乗り込もうとする少女の背中を捉えた。
「――すみません、あのっ!」
冷静さを失った僕が思わず叫んだ、その直後だった。トラックのミラーが破砕音と共に吹っ飛び、火花が散った。
――まさか、ブラスターか?
僕は反射的に振り返り、気配を探った。が、見える範囲に不審な影は認められなかった。
あれはトラックを狙ったんじゃない、僕は咄嗟にそう確信した。うろちょろ逃げ回ると周りの誰かが巻き添えを食うぞという脅しに違いない。
僕は体の向きを変えると、でたらめな方向に向かって駆けだした。背後で「待って!」という少女の声が聞こえたが、僕は構わず土地勘のない街を闇雲に走り始めた。
――畜生、声をかける前に気づくべきだった。僕はハンターに追われる賞金首だったんだ。うかつに声をかけたりしたら、その相手まで命の危険にさらされることになる。
僕はモーターが灼けつくほど必死に駆けながら、どうかハンターが諦めてくれますようにと祈った。もし僕のせいで『天使』に何かあったりしたら、僕は自分をバラバラにしたくなるほど悔やむに違いない。
だが僕の疾走は数分後、まだそれほどトラックから離れていない場所で中断を余儀なくされた。ゴミ箱の陰で呼吸を整えていた僕に、脅しともとれる言葉が投げかけられたのだ。
「――出て来い機人!」
声はあの、立ち入り禁止区域で執拗に僕を追ってきた賞金稼ぎ――ハリィの物だった。
ゴミ箱の陰から声のした方を見た僕は次の瞬間、その場に凍り付いた。
「ようし、この娘の頭が消えて無くなるところを見たくないなら、おとなしく両手を上げてこっちに来い」
ハリィが背後から羽交い絞めにしているのは、僕の『天使』だった。彼女の頭にはブラスターがつきつけられており、僕は奴の脅しがハッタリでないことを悟った。
僕は自分が招いた事態の深刻さに、全身の電圧が急速に下がってゆくのを感じた。だめだ、何としても彼女を助けるんだ。でも……そうだ!
僕はふとあることを思いだし、いちかばちかの賭けでポケットに手を入れた。
「動くなと言ったはずだ!」
ブラスターの銃口がこちらに向いた瞬間、僕は指に触れた物体をハリィの方に放った。
――頼む、うまく行ってくれ!
僕は賭けが成功するよう、機械の神様に祈った。だが、次の瞬間僕が見たのは物体がブラスターで射貫かれ、煙と共に砕け散る映像だった。
「……はっ、ハンター相手に同じ手が二度通用すると思うなよ、機人」
僕は路上に散らばった閃光弾の残骸を見て、愕然とした。万が一の時のために麻利亜が持たせてくれた護身具は、あっけなく目の間で消滅したのだった。
「待ってくれ、彼女は何の関係もない。撃つなら僕を撃て」
僕は両手を上げ、目を閉じた。ごめんよみんな、僕が軽率な行動をとったばかりに――
ブラスターがかちりと音を立て、僕が死を覚悟した、その時だった。うっという声と硬いものがぶつかる音とが聞こえ、僕は目を開けた。驚いたことにハリィはブラスターを取り落とし、膝をついて苦悶の表情を浮かべていた。
「誰だっ」
ハリィが憎々し気に叫ぶと、近くに停まっていた車から見覚えのある人物が姿を現した。
「誰だだと?それはこっちの台詞だ。ここは俺たち機人の縄張りだぜ。物騒な物を振り回すのはよすんだな」
「あなたは……」
ハンターの手から武器をもぎ取ったのは、死闘を終えたばかりの顔の潰れた機人――
エレファント黒崎だった。
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