第21話 寄る辺なくさまよう機人たち 14
「今宵、野獣のごとき闘志を燃やしてリングにあがるのは、機人エレファント黒崎!」
マイクを手にした司会者はリング上に登場すると、派手な前口上で対戦を煽り始めた。
「来る日も来る日もスラムの自動車工場で人間が乗る高級車を組み立てる日々。いつかは機人レーサーになる夢を描きつつ、冷たい身体に沸騰寸前のオイルをたぎらせているマシンファイター、カモン!」
狂ったようなサックスの音色と共に現れた機人男性を見て、僕はおやと思った。リング上のマシンファイターは仰々しい口上の割には、徹也よりも小柄だったからだ。それでも盛り上がった肩の人工筋肉と不敵に光る眼は、黒崎が場数を踏んだ猛者であることをうかがわせた。
「さあ対するは前回、二メートルの機人を一撃で沈めたマシンファイトの新星、サーペント加藤だ」
人間たちの歓声と共にリングに姿を現したのは、ラメ入りの派手なガウンを羽織った浅黒い優男だった。
「強化人間ね。見ただけでわかるわ」
加藤がガウンを脱いだ途端、右隣の麻里亜がぽつりと漏らした。
サ―ペント加藤は対戦相手の黒崎とは対照的に、無駄な肉という物が一切ない体つきをしていた。
「さあ、文字通り鋼鉄のようなチャレンジャーを前回のチャンピオンは再び、オイルの海に沈めるのか?それともバイオテクノロジーを味方につけた人間のチャンピオンが、機人に倒されるのか。……運命のゴングだ!」
試合が始まると、先に動いたのは黒崎だった。黒崎はごつい体に似合わぬ敏捷さで加藤の懐に潜りこむと、加藤のこめかみに向けて正確なフックを放った。
「――なにっ?」
黒崎のフックをまともに受けた加藤は二、三歩後ずさると何事もなかったかのように不敵な笑みを浮かべた。
「あの野郎、わざと食らったな。最初からガードする気配も見せねえ」
左側で徹也が目に驚きの色を浮かべて言った。さらに連打を繰り出す黒崎に対し、加藤は反撃どころかガードもスウェーバックもせず、打たれるがままになっていた。
「骨だわ」
「えっ」
「加藤よ。全身の骨を入れ替えてる。これは厄介だわ」
加藤をコーナーに追い詰めた黒崎は、一向に反撃して来ない相手に業を煮やしたように続けざまにボディブローを見舞った。いくら強化人間でも、鉄球のような拳を立て続けに打ち込まれれば内臓が悲鳴を上げるはずだ。
何か秘策でもあるのか――僕がそう訝った直後だった。加藤の唇が「終わりだ」という形に動いたかと思うと、体が上下にぶれた。黒崎の目が一瞬、敵の姿を見失って不安げに揺れた瞬間、加藤の身体が半回転しながら蛇のように伸びあがった。
「なにっ?」
黒崎に身構える隙を与えず、蛇の拳が右下から顎を襲った。死角から来る異様な攻撃に黒崎はなすすべもなく吹き飛ばされ、ロープに激突した。加藤は死体のようにマットに転がった黒崎を見て、嘲るように口許をゆがめた。
「骨が、筋肉の動きに合わせてあらゆる形に伸縮するんだわ。腕を振るだけじゃなく、全身を伸び縮みさせて襲ってくるってわけね」
「機人の身体を破壊するほどの力を持ってるって事?」
「あるいはね。モーターとギアで体の向きを変える機人は、どうしたって反応が一瞬、遅くなるわ。どうやらこの試合、圧倒的に機人側に不利なカードのようね」
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