第20話 寄る辺なくさまよう機人たち 13


「機人喰らいのハリィか。こいつはまた厄介な奴に目をつけられたな」


 僕の話を聞き終えたショウはぽつりと漏らすと、ソファーに深く身を沈めた。


「どうする?出ていった方がいいならそうするけど」


「馬鹿なことを言うな。計画とハンターの件は別だ」


 ショウは不機嫌そうな顔をこしらえると、僕の申し出を一蹴した。


「だって足手まといなのは事実だろ?ファイトの台本も碌に覚えられないし、僕はインチキすらまともにできないんだぜ」


「それがどうした。できないならできるようにすればいい」


 僕はショウの言葉を聞いてはっとした。「だから何なの」は莉亜がよく使う言葉でもあった。麻利亜の言いぐさはきっとショウの口癖の受け売りに違いない。


「よく考えてみろ。お前が工場を追い出されて流れ者になったのはなぜだ?」


「それは僕が要領の悪い機人だからだ。不良品は弾かれても文句は言えない」


「機人であることを言い訳にするんじゃない。いいか、人間の中にだって要領の悪い奴はいくらでもいる。お前が人間で、そこそこの家の生まれでも同じ言い訳をするのか?運に恵まれない奴は努力しなくてもいいのか?」


「それは……」


「いいか、俺も機人だ。だが、ひどい仕打ちを受けたってだけで努力もせずに下を向いてばかりの奴は大嫌いだ。俺がなんのために骨を折ってやってると思う?自分自身に価値を見出せない奴はこの先、どこへ行っても同じ目に遭うに決まってるからだ」


「だけど僕は、あの指導員のようにいるだけで誰かを怒らせてしまうんだ」


「それは堂々としてないからだ。臆病な奴に限っておどおどしている奴に目をつける。そして徹底的に叩きのめすことで安心するんだ。……基紀、もしお前に好きな女がいて、告白するチャンスがあったらどうする?」


 ショウの唐突な問い賭けに僕は一瞬、沈黙した。咄嗟に思い描いたのは、あの『天使』の顔だった。


「……その子が僕を嫌ってなくて、その時、僕に勇気があったら告白するかもしれない。でもショウ、もし好きな人が人間の女の子だったら、僕はどうすればいい?」


 僕が逆に問い返すと、ショウは一瞬、難しい顔になって宙を睨んだ。


「そうだな、機人と人間でも心を通わせることはできる。機人と寄り添うことができる女なら告白してもいいだろう。そうじゃなければ――」


「諦めた方がいい?」


「残念だが、そういうことだ。だが、それは機人と機人の場合だって同じことだ。重要なのは結果が駄目でも自信を持つ事だ。自信と覚悟がない奴は何をやってもうまくいかない」


「――わかった、とりあえず恥ずかしくないファイトができるよう、頑張ってみるよ」


「そうしてくれ。……と、ずいぶん喋り過ぎちまった。今の話は忘れていい。……そうだ、こいつをやるから徹也か麻利亜とでも観に行ってこい」


そう言ってショウが僕の前に放ったのは、マシンファイトの観戦チケットだった。


「しけた試合だが、人間たちが機人の心理をどういう風に利用しているかがわかる。――うまい『負け方』のコツでも掴んで来るんだな」


「わかった、ありがとう。社会勉強だと思って行ってくるよ」


 僕が礼を口にすると、ショウは少しだけ厳しい表情になって「ただし、ハンターにだけはくれぐれも気をつけろよ」と付け加えた。


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