第151話.終結
「……まぁまぁ、そう
「ほう」
どうやら、リガルの強気な姿勢に、ランドリアは折れたようだ。
いつも通りの、どこか軽薄に見える表情で、ランドリアは言う。
しかし、目は笑っていなかった。
つまり、リガルに一本取られたということである。
「そこで、だ。まず一つ目に、我が国の魔術師すべては、貴方の統帥権に属そう」
「は?」
しかし、そこから新たに
一つ目のプランが失敗したのなら、新たなプランを。
この切り替えの早さも、ランドリアの持ち味の一つと言える。
ランドリアの言葉に、リガルは呆然として固まる。
だが、そんなリガルを無視して、ランドリアはなおも続ける。
「そして2つ目。我が国が外交交渉を行う時は、必ず貴国を通すことを約束する」
「は?」
再び驚愕。
「そして最後。我が国の関税率を協定関税とする」
「は?」
完全にリガルは圧倒されていた。
(い、いやいや、これは
一瞬ランドリアの意図が理解できなかったリガル。
しかし、少し考えれば、簡単な事だった。
(あぁ! そうか! むしろこいつらは、自分たちを属国にして欲しいのか!)
そう。
王都以南などという広大過ぎる領土を、ロドグリス王国に
となると、これまで敵国を
他の国に狩られることに怯えながら過ごしていかなければならない。
その上、ロドグリス王国と和平を結んでも、根本的な関係が改善されていなければ、軍事的な面以外での妨害をされてしまう。
つまり、ここで講和を結んだとしても、このまま何の手も打たないと、ヘルト王国は遅かれ早かれ滅亡してしまう。
――
そんな国が生きていけるほど、この大陸の列強は甘くない。
そこで困ったランドリアが打ち出した手が、ロドグリス王国の属国のような扱いになる事。
属国と聞くと、非常に聞こえが悪いが、裏を返せばそれは庇護下に入るという事。
虎の威を借る狐のようなもので、これから大陸有数の大国となる予定のロドグリス王国の属国になれば、他の国もそう安易に手を出すことは出来なくなる。
ヘルト王国に攻め入れば、その親玉であるロドグリス王国が黙っていないのだから。
(なるほど、考えたものだ。普通、こんな大胆な手を思いついてもやろうとするかね)
ランドリアの意図を理解し、素直に感心するリガル。
これまでヘルト王国は、帝国に
属国になることがメリットのある事だとしても、大国から属国への急転落など、簡単に下せる選択ではない。
正直なところ、リガルなら思いついても
(しかし、そういうことなら……)
「なるほど……。貴国の誠意はよく伝わってきた。そこまでの姿勢を見せられては、我々も折れないわけには行かない。今後、貴国が我々に逆らったりしない限りは、攻撃することは一切しないと誓おう」
「ありがとう」
こうして、あっさりとリガルはランドリアの言葉に頷いた。
最初から、ヘルト王国をある程度掌握できるような条件を取り付けておきたいと考えていたリガルにとっては、最高の結果と言える。
ヘルト王国の全ての魔術師が、リガルの統帥権に属すると言うだけでも大満足なのに、おまけに外交の手綱を握る権利を手に入れ、関税自主権を奪い取ることに成功したのだ。
流石にこうなると、ロドグリス王国に逆らうことは難しい。
また、互いにメリットがある条約であるため、裏切られる可能性も低い。
最も、ヘルト王国とてロドグリス王国の属国として生き続けることなど、まっぴらごめんのはずなので、将来的にはどうなるか分からない。
大人しく従いつつも、淡々と隙を伺い続けるはずだ。
そのため、ロドグリス王国にとっても、メリットばかりではなく、爆弾を抱えるリスクも伴う。
だが、それはリガルの管理次第でどうにでもなること。
リスクと言うほどではない。
結局、その後細かい条文の擦り合わせなどを行う事一時間。
無事に話はまとまり、最終的に以下のような条文となった。
第一条.ヘルト王国(以下「甲」という)の魔術師は、本日以降全てロドグリス王国(以下「乙」という)王リガル・ロドグリスの統帥権に属する。尚、魔術師の定義は乙の基準に準拠する。
第二条.甲の関税率は、本日以降、甲、乙双方の定めた協定関税とする。
第三条.甲は、本日以降、乙を除く外国との外交交渉を行う際、乙に許可を取らなくてはならない。尚、外交交渉の定義は、国が主導して外国に連絡を送ること、及び面会を行う事とする。
第四条.以上全ての条文を、甲が厳守している限り、乙は甲に対して攻撃と
と、こんな感じになったわけだが……。
実際、変わったのは第一条と第三条だけ。
魔術師の定義やら、外交交渉の定義やらを定めただけだ。
こういうのははっきりさせておかないと、後々屁理屈によって痛い目を見ることになる。
というか、実際ロドグリス王国はこれで痛い目を見ている。
最も、それはリガルのミスではなく、先代の王にしてリガルの父であるアドレイアのミスだが。
しかし、第四条については、「攻撃と
こんなのでヘルト王国が納得したのは、ロドグリス王国があんな条文がなくとも、この約束を破らないことを分かっているからだ。
ロドグリス王国は、今回ヘルト王国を倒し、その国力を大きく高めた。
しかし、それと同時に、他の国のヘイトも集めることになってしまったのだ。
アスティリア帝国は、これまで周辺国の一つ程度にしか考えていなかっただろうが、これからは間違いなく最も警戒する国になるはずだ。
婚姻関係なども結んでいる、アルザート王国やエイザーグ王国だって、これからは高い好感度を
つまり、だ。
これからは当面、ヘルト王国とやりあっている場合などなくなってしまうのだ。
少しこの戦争の余波が落ち着いたからと言って、ヘルト王国を滅ぼそうなどと考えたら、あっという間に、生じた隙に付け込まれてしまう。
少なくとも、ヘルト王国を滅ぼそうと出来るのは、帝国の領土をいくらか奪って、「向かうところ敵なし」状態になってからだ。
そして、そうなった時には、もはや条約をきっちり定めていようが、簡単に
だから、結局この第四条は存在する必要性すらないのだ。
条約に
まぁ、そんなことを言ったら、その他の条文も存在する意味がないのだが。
ヘルト王国も、別に嫌々結ばされた条約という訳じゃなく、むしろ自ら望んで結んだのだ。
仮に、今日の話し合いで両国の間で交わされた約束が、条文という形で残っていなくても、それを破って困るのは、ヘルト王国だ。
かくして、リガルとランドリアの話し合いは終わった。
そしてそれと同時に、ロドグリス王国とヘルト王国の長きに渡る戦争が、終結したのだった。
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