第100話.王位継承の謎

《はじめに》

94話とそれ以降のストーリーで、リガルたちが倒した魔術師の人数に矛盾が生じていたので、【第94話.一勝からの一報】に、以下の通りに変更させて頂きました。


レオが倒せると予想した敵の魔術師の人数:400→500

実際に倒した魔術師の人数:300→400


2021/10/9(記)



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ――それから数日後。


 リガル達は無事にロドグリス王国に帰ってくることが出来、また何もない平和な日常がやってきた。


 まぁ、アドレイアや文官は、ヘルト王国と結んだ自由貿易協定によって、戦争中以上に忙しくなったが。


 最近のアドレイアは会うたびに疲れ切った表情をしている。


 まぁ、だからといってリガルに手伝えることは無いが。


 リガルは、戦争以外の分野でもそれなりに優秀ではあるが、実務を行う能力はない。


 あったとしても、文官一人分の仕事しかできないのなら、あまり意味はない。


 そのため、リガルは城内の慌ただしい様子を見ながら、退屈な日々を過ごすだけだった。


 特に、最近はグレンもいないし、授業も16歳になってからは受けていないため、本当にやることがない。


 毎日、本を読んで、軍事演習を暇つぶしに覗いて、たまに王都をフラフラする。


 それが今のリガルの日常だ。


「はー、暇だ」


 今日も今日とて、朝食を取った後ソファにだらしなく寝転がり、そう呟く。


 本当に暇すぎて、最近のリガルの口癖になりつつある。


 昔は忙しすぎるよりは退屈な方が良いだろう、など思っていたリガルだったが、今ではそれは無いと断言できる。


「だったらまたレオさんのところへ行って来てはどうです? もしくは街に出てみるとか」


「それももう飽きたんだよなぁ……」


 リガルの呟きに、食事の後片付けから帰ってきたレイが答えるが、無気力な表情と声音でリガルは一言返す。


 これも、もう何度も見られた会話であった。


「あ、そういうことなら、ちょっとこの前の戦争の話について聞かせてくださいよ」


 そんなリガルの様子を見兼ねたのか、レイがふとしたように言う。


「え?」


「いや、何だかんだ殿下が帰ってきてから何も教えて貰ってないし、暇なら話せることだけでいいので、話していただけないかなーと。ここでもそれなりの情報は入ってきますが、やはり詳しいことは分かりませんから」


「あー、そうだなぁ……。とりあえず今回の戦争で、軍を三つに分けたのは知ってるよな?」


 リガルは少しだけ考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと話し始めた。


「はい」


 レイも、リガルがヘルト王国との戦争に行く前にの話は、それなりにリガルから聞いているので、当然この事も知っている。


「そして俺はそのうちの一つを率いて、意気揚々と出陣したわけだが、戦争開始早々に、あまりに想定外すぎるイレギュラーが起きてしまった」


「あー、敵が大軍で待ち構えてたんでしたっけ? それはちょっと噂程度ですけど聞きました。けど、何で敵は大軍を編成出来たんですか? そもそもヘルト王国の王位継承者問題はどうなったんです?」


 敵が大軍を編成していたことは伝わっているものの、ヘルト王国の王位継承問題の概要は知らないみたいだ。


 ランドリアが新ヘルト国王に即位したことは、すでにかなり広まっているため、レイも知っているが。


 だが、その過程については知らないのも無理はない。


 何故なら、リガルでさえも詳しいことは、戦争が終わってからようやく少し分かった程度なのだ。


「俺もはっきりとしたことは分からないんだけどよ、実は先代のヘルト国王……えーっと、なんて言ったっけ?」


「ヴァラス先王陛下ですね」


「そうそう、そいつ。そいつが何か、実は王位継承者を遺書に書いておいたらしいんだよな。そして、死ぬと同時に全国のヘルト王国貴族に、それの写しを送り付けた」


 相変わらず、公的な場でない時は、目上の人間だろうが知ったこっちゃないとばかりに、敬称を付けないどころか「そいつ」呼ばわりだ。


 全く酷い。


「なるほど……。しかし、何故そんな回りくどいことをしたのでしょうか? 元々王位継承者をランドリア陛下に決めていたのなら、自らの口で言えばよかったのに……」


「それは知らん。だが、推測は出来る」


「え?」


「簡単だ。確かに、王であるヴァラスが王位継承者を選べば、満場一致で決定する。しかし、ヘルト王国はヴァラスの長男でるフレグリアと、その長男、ランドリアの派閥で二つに割れてたんだぞ?」


 そんな状態で、どちらかを選べば、当然選ばれなかった方は……。


「それは……不満が上がりますね」


「あぁ、不満を言ったってどうなる物でもないが、王にとっても無暗に貴族の反感を買うのは良くない」


 いくら偉大な王だったとしても、最悪誰かの手を借りて反旗を翻したりする可能性もある。


 まぁ、流石にそれは大袈裟だとは思うが、短慮に出る者がいないと、断言することも出来ない。


 後継者問題と言うのは、それくらいにデリケートな事なのだ。


「あれ? じゃあ、結局遺書で伝えたからって、何か変わるんですか?」


「伝える方法が、口頭か文章かは関係ないな。重要だったのはタイミングだ」


「タイミング?」


「そう、ヴァラスは自らが死んでから王位継承者を発表したからね」


「……?」


 しかし、リガルの考えていることはレイには伝わらなかった様だ。


 その反応を見て、リガルは少し考えた後……。


「つまり、恐らくヴァラスには見抜かれていたんだよ。俺たちロドグリス王国が、ヴァラスが死ぬ時を見計らって、ヘルト王国に攻め込もうとしたことを。そして、それを逆に利用したんじゃないかな?」


「あー、なるほど。殿下の言いたいことが分かりましたよ。つまり、戦争が起きたら貴族も不満を言っている場合じゃない。半強制的に一丸となって、外敵に立ち向かう必要性がある」


「そうそう。まぁ、全部俺の妄想かもしれないがな」


 リガルの説明は、理にかなっているし、実際すべてが真実だ。


 生前のヴァラスの意図を正確に読み解けるとは、流石としか言いようがない。


「なるほど。とにかく、敵が予想外に一枚岩になっていたから、大軍を編成出来たという訳ですね」


「そういうことだな」


「で、そこからどうなったんですか? 私はそれ以降のことは、不可侵条約と自由貿易協定を結んだことしか知りません」


 基本的に、レイのいる城に届く情報と言うのは、重要かつ短的な物だ。


 そのため、過程などの具体的な話は全くといって良い程届かない。


「うーん、簡単に言うとめっちゃ敗北した」


「え!? ……いや、でも結果的に五分の条件で講和してきたんですよね? 敗北したのに……」


「確かに敗北した。俺以外はな」


 リガルはそう言ってドヤ顔を見せる。


 正直リガルよりも活躍したのはレオ率いるスナイパー部隊なのだが……。


 まぁ、細かいことはどうでもいい。


 実際、リガルの的確な戦場選びや、素早い移動の判断なども勝利の大きな要因だ。


 今回はスナイパーが凄すぎて目立たないが、リガルも地味に良い働きをした。


 それに、レオはリガルの直属の部下であり、スナイパー部隊はレオの直属の部下だ。


 つまり、スナイパー部隊の活躍は、全てリガルの功績と言えなくもない。


「リガル殿下は勝ったんですか?」


「あぁ、こちらが兵を3つに分けたのに対し、俺たちは敵はこちらを各個撃破してくるのではないかと考えていたのだが、相手も同様に兵を3つに分けた。敵の軍は総勢15000だから、俺たちそれぞれ2000に対して、5000ずつ当ててきたわけだ」


「え、兵力差2.5倍じゃないですか」


「まぁな。流石に俺もこれは無理ゲーだと思ったんだが、何とか上手くこちらの土俵に誘い込んで、最後はスナイパーの力で大勝利って訳だ」


「スナイパー……。確かにレオさんがいれば勝てそうな気もしてきますね。今回も7年前のアルザートとの戦いの時みたいに、敵将を討ち取ったんですか?」


 7年前の戦いと言うのは、ロドグリス王国がアルザート王国に侵攻した時の戦いではない。


 その前の、アルザート王国がエイザーグ王国に侵攻してきた時の戦いの事だ。


 その時は、アドレイア率いる500くらいの軍勢で、エイザーグの救援に行った(形だけだが)訳だ。


 しかし、それが意外にも大苦戦を強いられることになる。


 戦いの過程で、ロドグリス王国の援軍は、数で勝る上に質でも同等の敵軍と戦うことになったのだが、どう戦おうかと考えている間に、奇襲を受ける。


 大混乱に陥るロドグリス軍だったが、アドレイアが何とか立て直し、一気に大打撃とはならなかった。


 とはいえ、劣勢であることには変わりない。


 そんな中、混乱に乗じて行方をくらましたリガルが、レオを使って見事敵将を討ち取ったという訳だ。


 レイは今回もそんな感じで勝ったのではと思ったが……。


「いや、敵将は討ち取ってない。こちらの誘いには乗ってくれたんだけど、意外とその後の対応が上手くてね。大勝利と言っても、敵兵を400ほど討ち取っただけで終わってしまった」


「確かに、殿下のこれまでの活躍ぶりから考えると、『400ほど討ち取っただけ』って言いたくなる気持ちも分かりますが、普通に異常なんですけどね」


「まぁ、それは確かに」


 魔術師は、地球の一般兵と比べて、戦死することが少ない。


 だから、400という一見少なく見える数字でも、その成果は地球の兵力で考えると、5倍以上の数に匹敵するだろう。


 それを考えると、リガルの感覚が軽く麻痺しているというのは、非常に最もだ。


「で、その後はどうなったんですか? 400討ち取られたとはいえ、それじゃあ敵も撤退はしないでしょう」


「いや、撤退はしなかったが、それ以降は無いな」


「え?」


「それからは膠着状態になったんだよ。ほら、数が少ないから俺の方からは攻めることは出来ない。かといって、敵ももう警戒しちゃって、嫌がらせはしてくるが攻めてはこない。そうこうしているうちに、父上が講和するって言いだした訳だ」


 そこからは、レイも知っている通り、色々駆け引きをしたものの、結局は講和は為され、ついでに自由貿易協定も結ぶ運びとなった。


 ランドリアとリガルとアドレイアの間で交わされた会話までは、話すことも無いだろう。


「なるほど」

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