第80話.到着
――翌日。
アルディアードを加えたリガル達
エイザーグの王都からアルザートの王都までは、ロドグリスの王都からエイザーグの王都までよりも距離が短いため、要する時間はこれまでよりは短く、1週間程度だ。
アルザート王国は魔物の出現頻度が高いという話通り、道中ではこれまで以上に多くの魔物と
しかし幸いなことに、余裕を持って対処できる程度の強さの魔物しか出現しなかったため、特に問題が起こることは無かった。
結局、予定通り1週間後の昼過ぎに、アルザート王国の王都に到着した。
城へ辿り着くと、丁寧に歓待され城内に通された。
しかし、エイザーグのように国王自らが出迎えてくれるという訳ではないようだ。
リガルは心の中で、扱いが少しぞんざいではないかと不満に思ったが、それは少し間違っている。
エイザーグとロドグリスは、非常に有効的な関係にあり、その関係を維持し続けるためにも、最大限の歓待をする必要がある。
対して今回の場合はと言うと、ロドグリス側は同盟を打診した立場であり、この訪問もこちらが望んでのこと。
ロドグリスとの関係を軽んじている訳ではないが、招かれざる客であるリガルたちを国王が出迎えては、逆に周囲から侮られてしまい面子が潰れる可能性まである。
それに、相手は国王ではなく王子だ。
アルザート側の対応は、至って普通のものである。
ともかく、リガルたちは城内に足を踏み入れると、まずは応接室に通された。
応接室に、現アルザート国王――エレイア・アルザートが待っているらしい。
迎えられるのではなく、リガル側から伺うのだ。
「こちらです」
案内をしてくれた、執事と思われる初老の男が深々と頭を下げる。
手で示した先には、いかにも高級そうな木製の扉が。
恐らく、ここが応接室なのだろう。
入室が許されるのは、リガル、グレン、アルディアードの3人のみ。
他のメンバーとはここでお別れだ。
(こちらです、なんて言われても、こういうのって勝手に入室していい物なのか?)
リガルが困惑して少し挙動不審になっていると、突然内側から扉が扉が開く。
それに対し驚いていると……。
「こちらへ」
中からメイドが出て来て、リガルたちに頭を下げながら室内に入るように促してくる。
言われるがまま、リガルたちは室内に足を踏み入れた。
案内してくれたメイドは、そのまま応接室から出て行く。
顔を上げてみると、中には既に一人の男が座っていた。
黒を基調とした、かなりオーソドックスな軍服のようなものを身に纏ったこの男こそ、アルザート王国国王――エレイア・アルザートである。
特別背が高かったり、ガタイが良かったりというわけではなく、体格は平均的に見える。
しかし何故だか、リガルには恐ろしいほどの迫力があるように見えた。
先ほどまでは別段感じていなかった緊張感に、リガルは身を包まれる。
「お初にお目にかかります。私はエイザーグ王国第一王子、アルディアード・エイザーグと申します」
リガルが緊張していると、隣でハキハキとアルディアードが名を名乗る。
「……っ! 私はロドグリス王国第一王子、リガル・ロドグリスと申します」
それを聞き、リガルも慌てて名を名乗った。
こういうのは、身分が低い側から行うのは常識。
立場の高い人が先に情報を知る権利がある、という法則があるからだ。
無論リガルも、それくらい王族としての教育を受けているため知っているが、この場の空気に呑まれて完全に忘れてしまっていた。
「お、俺――じゃなくて……。わ、私はロドグリス王国第二王子、グレン・ロドグリスと申します」
だが、グレンはリガル以上にテンパってしまったようで、普段の一人称で名乗ってしまいそうになり、台詞を修正している。
これにはリガルも、言わんこっちゃない、とばかりに早速やらかしたグレンを横目で睨みつける。
幸いにも、特にそれを追及されたりすることは無かったが。
「さて、早速色々と歓談したいところだが、あなた方も長旅で疲れているだろう。簡単に話を終わらせて客室に案内させよう。積もる話は、また明日あたりに時間を取るから、その時にでもじっくりしようじゃないか。今日は我が城でゆっくり疲れを癒してくれたまえ」
ーーーーーーーーーー
――日が完全に落ち、当たりが闇に包まれた頃。
リガル達は、アルザート王国にやってきて、一番最初のビッグイベントを迎えようとしていた。
そのビッグイベントと言うのは、リガルたちの歓迎パーティーである。
これは小規模なものでは無く、アルザート王国中の貴族たちがこぞって参加するような、かなり大規模なパーティだ。
どれくらい大規模なのか、例を上げるとすると、エイザーグの防衛戦争での祝勝会と同じくらいだろう。
ただし、あの時はリガルたちが主役という訳では無かったが、今回はリガルたちが主役である。
あの時のように、会場の隅でゲームをやっているという訳にはいかない。
大規模なパーティー自体は経験があっても、自分が主役として大規模なパーティーに参加するとなると、それは初めての体験となる。
特にリガルはこういった催しを苦手としているので、これから会場入りする訳だが、すでに胃が痛くなってきている。
グレンの方も、緊張しているというのは少し違うが、堅苦しいのは苦手なので、これまた不安げだ。
だが、3人の中でただ一人、アルディアードだけは堂々としていた。
「おいおい、ビビりすぎだろ。いくらアルザートの貴族が一堂に会すると言ったって、こっちは仮にも一国の王子だ。相手をするにも、相応の格が求められる。そんなに沢山の人間に囲まれることは無いって」
緊張してる素振りなど微塵も見えないアルディアードが、リガルとグレンに言い放つ。
「お前は相変わらずだな。俺としてはお前もグレンと同じくらい不安に思ってるんだが……」
なにしろ初対面で、他国の王子であるリガルに馴れ馴れしくタメ口を
他国の有力貴族だろうが、お構いなしに馴れ馴れしく話しかけたりしそうである。
しかし、そんなリガルに対して……。
「いやいや、俺だって使い分けることくらいできる。一応王族としての教育はちゃんと受けているし、何度も言っている気がするが、俺は父上や講師に優秀だと判断されている」
「んなもん信用できるか。初対面の時タメ口で話しかけて来ただろ。しかも、意味不明なタイミングで」
「あれはお前だからやったんだよ。ほら、俺とお前は親友になる
「あほか。意味不明なこと言うな気持ち悪い」
リガルはアルディアードの言葉を鼻で笑い、一蹴する。
しかし、アルディアードの言ったことは、実は間違っていない。
これはリガルの知り得ぬことだが、アルディアードとて、今回と似た規模のパーティーにはこれまで幾度か出席している。
だが、特に問題を起こしたりしたことは無いのだ。
それどころか、いつも上手くやっている。
まぁ、普段の態度からしてそう思えないリガルの気持ちもよく分かるが。
「ま、信じてくれなくてもいいけど、とにかく早く会場に入ろうぜ。のんびりしていたらエレイア陛下がやってきちまう」
アルディアードはそう言って会場の扉に手を掛けて、中に入ろうとする。
こういったパーティーには、基本的に身分の高い人間ほど後から入場するという、
国王であるエレイアよりも、王子であるリガルたちが後から入ったりしたら、それは不文律を破ったことになる。
「わ、分かってるよ。さぁ、行くぞグレン」
「お、おう――じゃなかった。分かりました、兄上」
そして、リガルやグレンも堂々とした振る舞いを見せるアルディアードの後を追って会場に足を踏み入れたのだった。
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