第41話.祝勝会
エイザーグの王都に帰還した、その夜。
リガルは、アルディア―ドと共に城内の大広間に居た。
一体、こんな場所で何をしているのか。
それは……。
「いやぁ、まさか祝勝会をやるなんてね。確かにもう勝利は目前っぽいけど、それでも戦争はまだ終わってないのに……」
「それな。変なフラグにならなきゃいいが……」
勝利がほぼ確定、という状況で宴会などをしていると、突然大変な事態が発生する――なんてことは、物語の上ではよくあること。
それを危惧したリガルであったが、流石に現実ではそんなことは起こらないだろう。
仮に、ハーフェンで敗北した敵本隊が、息を吹き返してきたりしたとしても、ここエイザーグの王都までは、余裕で1日以上かかる。
何か予想外なことが起きても、十分に対応可能だ。
リガルの心配は杞憂に終わることだろう。
「ふらぐ……?」
「あ……い、いや、何でもない」
地球の言葉を使ってしまい、誤魔化すリガル。
ともかく、そんなわけで、アルザートとの戦争の祝勝会が行われることになったのだ。
アドレイアやエルディアードは、エイザーグの貴族たちと、今回の戦争の話をしている。
祝いの場ながら、政治の話をしている者もいるようだ。
しかし、リガルとアルディア―ドの子供組には、それらの話は一切関係が無い。
なので、リガルたちはひたすらに料理を楽しんでいた。
リガルも王族なので、普段から高級料理を口にしている。
だから、別に料理が特別美味しかったから、楽しんでいたというよりは、好きなものを自分で選んで食べられる、ビュッフェ形式なのが、新鮮で楽しかったのだ。
それと、最近は戦争のせいで、満足な食事にありつくことが出来なかったというのもある。
とはいえ、40分以上も夢中で食事をしていたら、流石に腹が限界に達するというもの。
やがて……。
「ふぁー。食った食った。もういいわ」
「俺も」
ギブアップする2人。
だが、この祝勝会は2時間も続く。
当然、腹が満たされたからと言って、私室に帰っていい訳ではない。
結果、暇を持て余す。
「はぁ……。後1時間、どうするか……」
「そういえば、まだそんなにあるのか……」
さっきの楽し気な雰囲気はどこへやら。
急にテンションを落とす2人。
やることが無さすぎて、徐々に口数が減っていった、その時だった。
「あ、アルディア―ド殿下!」
「おお、クリストスとカインじゃねぇか」
突如、リガルたちの席に、2人の少年がやってくる。
彼らは、アルディア―ドによると、どうやらエイザーグ王国の上級貴族の子供の様だ。
歳はリガルたちに近く、上級貴族と言っても、年相応の振る舞いを見せている。
アルディア―ドとも、非常に親し気だし、そこまで気を遣う必要も無いだろうし、遣われることもなさそうだ。
その後、リガルと彼らは面識がないため、どちらとも付き合いのあるアルディア―ドが互いを紹介した。
そして、アルディア―ドの力により、あまりコミュニケーションが得意でないリガルも、2人とそこそこ仲良くなったところで……。
「じゃあ暇だしさ、4人でオーガごっこでもやんない?」
(オーガごっこ……?)
アルディア―ドの放った、聞きなれない言葉に、一瞬首をかしげたリガル。
しかし、すぐに思い出す。
(そうだ! そういえば、前に何回かグレンに無理矢理やらされたことがある。鬼ごっこみたいなやつのことだ!)
「って……馬鹿か! それは絶対ダメだろ! 怒られるとかいうレベルじゃ済まされねぇよ!?」
だが、冷静に考えて、アルディア―ドが頭のおかしいことを言っていることに、ワンテンポ遅れて気が付く。
現在は祝勝会の途中であるため、ここから出ることは出来ない。
となると、鬼ごっこもとい、オーガごっこは、ここでやるということになる。
王城の中で鬼ごっこをすること自体、頭が狂っているというのに、さらに貴族たちが一堂に会しているのだ。
そんな場所で走り回る鬼ごっこをやるなど、正気の沙汰ではない。
「ははは、冗談だよ……」
しかし、口では冗談だというアルディア―ドだが、その様子を見ると、とても冗談で言っているようには思えない。
本気でやろうと思ってたけど、言われてみると確かにマズイかも……、といった感じだ。
まぁ、リガルとしても、アルディア―ドのこういうアホなところは、もう何度も見てきているので、いちいち突っ込んだりはしないが。
とはいえ、リガルもこのままボーっと残り1時間を過ごすというのは、勘弁してほしい。
(となると、なんか4人で簡単にできるゲームでもやるか)
だが、あまり必要なものが多すぎたり、ルールが複雑すぎるものはダメだ。
物を用意する必要性が無い――もしくは、ここにある物だけで遊べるゲーム。
そして、シンプルだが面白い……。
そんな都合のいいゲームは……。
(あ、思いついた!)
数秒考えたところで、リガルの頭に一つのゲームが思いつく。
そのゲームの名前は、――スカル。
ルールは、そこそこ簡単。
4人で遊べるゲームで、プレイヤーにはそれぞれ4枚のカードが配られる。
配られるカードは全員等しく、「薔薇」のカードが3枚と、「髑髏」のカードが1枚。
準備が整ったら、じゃんけんなどで、誰が一番最初に始めるかを決める。
それが終わったら、ゲームスタートだ。
全員のプレイヤーは、まず手札のカードを1枚伏せる。
薔薇でも髑髏でも、好きな方を置くことが出来る。
次に、一番最初になったプレイヤーが、さらにカードを追加で置くか、数字を宣言するかを選ぶ。
数字の宣言を開始すると、それ以降のプレイヤーはカードを追加で置くという行動が出来ない。
カードを追加で置くと、それ以降のプレイヤーは、さらにカードを追加で置くか、数字を宣言するかを選ぶことが出来る。
数字の宣言は、場に伏せられたカードの枚数以内の数ならば、どんな数を宣言してもいい。
その次のプレイヤーは、その数字+1以上の数字を宣言するか、パスするかを選ぶことが出来る。
これを繰り返して、数字の宣言をする人がいなくなるまで繰り返す。
数字の宣言をする人がいなくなったら、一番大きな数字を宣言したプレイヤーが、宣言した数字の数だけ、場に伏せてあるカードをめくる。
この時、めくる順番は、自分のカードから、さらに一番上からでなくてはいけない。
自分のカードを全てめくったら、あとは他の人のカードを誰でも好きにめくることができる。
この時、髑髏をめくってしまったら、その時点でアウト。
失敗となり、さらにペナルティとして、手札を1枚失う。
この時、基本的にはランダムに捨てることになるのだが、自分の髑髏をめくってしまってアウトになった場合は、自分で選んで捨てることが出来る。
ちなみに、手札が全てなくなってしまったら、当然ゲームを続けることが出来ないので、強制的に敗北(というより、脱落)となる。
そして、宣言した数字と同じ枚数のカードをめくって、それが全て薔薇だった場合は、1ポイント獲得。
これを繰り返して、先に2ポイントを獲得したプレイヤーが勝利となる。
以上のルールを、5分ほどかけて、リガルは説明した。
そこまで難しくはないとはいえ、意外と全員がすんなり理解してくれて助かった。
「へぇー。面白そうじゃん。シンプルながら、複雑な心理戦が出来そう」
「えぇ、アルディア―ド殿下の言う通り、これは意外に難しそうですね……」
「早くやってみたいです」
3人の反応も中々良い。
ということで、リガルは準備を始める。
必要なのは、薔薇と髑髏の計16枚のカードだけだ。
ちょうど、会場の端の方に、何かをメモするための紙とペンが都合よく置いてある。
リガルたちはそこへ向かい、素早く必要なものを準備する。
薔薇や髑髏は、描くのが面倒なので、〇と×で代用する。
これでも、ゲームをプレイする上で支障はない。
その後、再び元の食卓に戻ってきて、カードを分配する。
そして……。
「じゃあ、じゃーんけーん――」
ゲームは始まった。
ーーーーーーーーーー
《補足》
「オリジナルでもないボードゲームを小説に使っていいんか?」
そう思われる方、いると思います。
安心してください。
今回の話を書くにあたり、しっかり著作権について調べてまいりました。
どうやら、題名のような、「極めて短い文章」や、「ルール」というのは、著作物に該当しないようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます