第33話.軍議
軍議が始まった。
その場には、リガルもいる。
ただ、流石にレイとレオは追い出されてしまったようだ。
今回の戦略に関するトップシークレットを、おいそれと要人でもない人間に流すことは出来ない。
それでも、リガルだけは王子という事もあり、役に立たずとも同席を許されている。
まぁ、許されているというよりは、強制的に同席させられているといった感じだが。
リガル本人としては、可能ならばこんな軍議になど、傍聴していたくはない。
まぁこれも、リガルに少しでもあらゆる経験を積ませたいという、アドレイアの親心だろう。
実際、軍議を傍聴しているだけでも、リガルが王になった時に役立つはずだ。
「では、まず新たに入手した情報を伝える。まず――」
この行軍中の4日の間に、ランダルには戦況についての情報が届いているようだ。
内容は、大きく分けて3つあった。
まず1つ目が、敵軍の総数。
相手の兵力は、およそ4000とのこと。
これまた、地球の常識で考えると、非常に兵数が少なく感じられるが、軍が貴重な存在である魔術師だけで構成されているこの世界では、非常に多い。
そして2つ目が、相手の軍の同行。
これは、流石に大雑把な情報しか分かっていないが、敵はどうやら兵力を2分割しているらしい。
一方は、アルザートとエイザーグの国境に存在する都市、ハーフェンに向けて進軍。
もう一方は、西南に向かったことだけ確認できたようだが、そこから姿を見失ってしまったようだ。
最後に3つ目が、ロドグリス軍にどういう動きをして欲しいか。
これは、ハーフェンに向かっていない方の敵軍の同行を見失ってしまったので、一旦王都に来て欲しいとのことだ。
細かい話は、そこで直々に話し合う予定らしい。
(アルザート単体で、4000の兵力は、自国の守りをほとんど放棄しない限り不可能。やはりどこかの後ろ盾を受けているな)
元より、
そして、まず最初にアドレイアが話し終えて、口を開いたのは、この国の将軍の1人、ハイネス・ルイン。
「それにしても、ハーフェンとは奇妙ですな。あそこの都市を占領しても、軍事的な旨味はない。それにハーフェンは地形にも恵まれていて、まさに難攻不落。攻めるなら補給を気にせず戦えて、かつ軍事的価値の高い、リュウェールでしょう」
――ハーフェン。
海に面していて、大陸でもトップクラスの大きさの港がある都市だ。
そのため、経済的価値は高い。
しかし、アルザートは大きな港を北西部に一つ持っている。
エイザーグの中心部からはかなり離れているので、「取れたら取る」くらいの気持ちでいいはずだが……。
「そうだな。となると、少し敵の内情が知れたかもしれないな」
「「「……!?」」」
将軍の言葉を聞き、そう呟くアドレイア。
これには、一同も驚きを隠せない。
皆、これで一体なにが分かったと言うんだ? とでも言いたげな顔をしている。
リガルも驚いている。
「陛下、一体何が分かったのですか?」
「あぁ。まず、相手は
「「「……?」」」
アドレイアはヒントを出してみるが、一同は首をかしげるばかりだ。
しかし、そのヒントで、リガルは気が付く。
「そうか。ハーフェンを取りたいのは、アルザートではなく、メルフェニア。メルフェニアがこれからもアルザートと同盟を組んでいくとすれば、ハーフェンを大陸侵攻への足掛かりとすることができる……!」
頭の中で考えているつもりだったリガルだが、考察に集中しすぎて、呟きが心の外に漏れてしまったようだ。
リガルの呟きに、一同の視線が集まる。
「あ……」
ワンテンポ遅れて、リガルも自分が口に出してしまったことに気が付いた。
リガルはこの場にいることを許可されてはいるものの、軍議に参加しているわけではない。
よって、これは軍議への水差し行為となる。
だが……。
「おお! そうだ、リガル。その通りだ。日々の授業で、近隣諸国の情報は頭に入っているようだな」
「あ、ありがとうございます。軍議につい水を差してしまい、申し訳ありません」
「気にするな。別に急ぎの軍議ではないのだからな」
アドレイアは、むしろリガルの正確な考察に、気を良くしたようだ。
リガルも、一応謝ってはおく。
「そう。今リガルが言った通り、私はメルフェニアによって、ハーフェンを攻めることを強要されているのではないかと考える」
(なるほどな。俺はヒントを出されて、ようやく理解したが、父上はあの情報だけで、すぐにこの可能性に行きついた。凄い考察力だ……)
メルフェニアは、大陸に領土を広げていくことを、数十年以上前から試みている。
しかし、その試みは未だに全く成功していない。
その理由は、共和制国家であるがゆえに、内部が一枚岩になっておらず、足の引っ張り合いが行われてしまい、その国力を生かせていないためだ。
だが、実は理由はそれだけではなく、この世界において、上陸作戦が難しいというのもある。
この世界の船は、地球の戦艦などと違い、木造である。
魔術を食らえば、簡単に沈んで、海の藻屑となる。
つまり、上陸するためには、大量に襲い来る魔術を全て船に着弾しないように防御しなくてはならないのだ。
一つの漏れも許されない。
はっきり言って、無理ゲーだ。
そこで、メルフェニアは考えたのだろう。
真っ向から侵略するのではなく、まずはどこかの国と同盟を組んで、港を使わせてもらえるようにする。
そして、安全に上陸することが出来る状況を作った上で、侵略を開始しようと。
今回は、その「安全に上陸することが出来る状況」を作ることが目的なのだろう。
だからこそ、メルフェニアはアルザートに、メルフェニアから近い位置にある港を取ってほしいわけだ。
「なるほど。もし、その考察が当たっていたとすると、アルザートとしての、本命の動きはハーフェンに向けている軍ではないかもしれませんな」
「あぁ。途中で同行が分からなくなったというのも奇妙だ。敵の別動隊については、しっかりと気に留めておく必要があるだろう」
アドレイアの言葉に、一同は神妙な表情で頷く。
「これからの動きについては、まだ詳しいことは何一つ決まっていないし、決めることが出来ない。ひとまずは
「「「了解!」」」
「では、以上とする。解散!」
アドレイアの一声で、静寂に包まれていた室内に、一気に雑音が広がる。
皆、椅子から立ち上がり、次々と部屋を出て行く。
(ここからエイザーグの王都までは、4日ほどかかる。さらに、そこからすぐに交戦する訳でもないから、実際に俺たちの軍が戦闘するのは、まだ1週間くらいは先になりそうか)
リガルは、今回の軍議で狙撃夜襲作戦を行うのが、まだまだ先になりそうなことが分かり、落胆する。
そして、与えられた自室へと帰っていくのだった。
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