第23話.昼食
午前中の自由時間が終わり、昼食となった。
あの後リガルは、何度もしつこく、決闘をやろうと、アルディア―ドに誘われて、結局計10戦ほどやる羽目になった。
結果は、リガルが6勝4敗。
最初の6戦は、リガルが危なげなく勝利を収めたが、徐々に体力差が
そして、5敗目を喫することになるか? というところで、昼食の時間がやってきて今に至る。
リガルとしては、これ幸いと言ったところだろう。
昼食は、中庭で取ることになった。
ロドグリス王家5人と、エイザーグ王家4人の、計9人で食事を取るのに、ちょうどいい大きさの部屋が無かったのだ。
ロドグリス城の中庭は、毎日数人の、熟練の庭師が手入れをしているため、非常に美しい。
他国の王族と食事を取る場所として相応しいだろう。
それに、庭でパーティーというのはよくあることだ。
「では、昼食としようか。席についてくれ」
アドレイアの言葉に、長机にセットされた椅子に、全員が腰を下ろす。
席は、子供たちは子供たち同士。
大人たちは大人たち同士で固まって座っている。
全員が席についたのを確認すると、アドレイアがワインの入ったグラスを手に取って……。
「それでは、我ら両国が一層友好を築けることを願って! 乾杯!」
その言葉に、アドレイアに
大人はワイン。
子供はジュース。
いくら文明が遅れているこの世界と言えど、子供に酒は許されないようだ。
こうして、食事が始まった。
ロドグリス王家の使用人が、次々と料理を運んでくる。
全員が、それを上品に口に運びながら、談笑が始まった。
「そういえば、さっきまで兄上は全然見なかったけど、一体何してたんだ?」
「おい、おまっ……」
グレンが早速、タメ口でリガルに話しかけてきたを聞いて、リガルが慌てる。
だが、すぐに注意しかけて口を噤んだ。
(まぁ、もういいか。どうせアルディア―ドの事だ。グレンが王族らしい態度を取ってなくたって、何も疑問に思わないか)
エイザーグ王家には、リガルの婚約者――フィリアもいるが、彼女は、普段からアルディア―ドと過ごしているのだ。
グレンの態度など、大して気に留めないだろう。
「なんだよ? 兄上」
「いや、何でもない。さっきまでは、アルディアードと決闘してたんだよ」
「おぉ! エイザーグの王子様と決闘してたのかよ!」
興奮気味にグレンが叫ぶ。
「そうそう。いやぁ、リガルは強かったぜ。完敗しちゃったよ」
「おぉぉ! 流石は兄上! 武勇に優れるエイザーグの王子様を倒すなんて、流石だぜ!」
そこにアルディア―ドが口を挟む。
戦績的には、リガルの6勝4敗と、拮抗して見えるが、実際はリガルの体力負け。
それを分かっているから、完敗と言ったのだろう。
アルディアードは、謙遜するような性格ではない。
「ははは、今度はグレンともやりたいな!」
「おお! 是非、お手合わせ願います!」
(こいつ……。コミュ力高いなぁ……)
グレンとの会話に自然に入ってきながら、いつの間にかグレンとも意気投合してしまっている。
恐らく、リガルが逆の立場だったら、ここまで打ち解けることは出来なかっただろう。
リガルも、アルディア―ドのコミュ力の高さは、素直に認めるしかない。
「凄いですね。リガル殿下。うちの兄上に、決闘で勝てる同年代の方などいないと思ってました」
グレンとアルディア―ドが謎の盛り上がりを見せているのを、ただ眺めていたリガル。
しかし突然、隣の席に座っていたフィリアに話しかけられる。
アルディア―ドやエルディアードと同じ、金髪にコバルトブルーの瞳。
髪は長く、背はレイよりも小さい。
リガルの中の王女のイメージそっくりの見た目だ。
(そういえば、この子が俺の婚約者なんだよな……)
自己紹介の時は、特に結婚の話題は出ていなかったし、絡みも無かったから、頭の中になかったが、直接話しかけられれば、流石に婚約の話も思い出す。
「フィリア王女殿下。いや、戦績からも分かるように、本当に紙一重の勝負だった。次やれば、勝てるかどうかは分からなかっただろう」
とりあえず、アルディア―ドを持ち上げておく。
紙一重じゃないことは、戦った2人は分かっているが、他国の王女相手なら、謙遜しておくのが当然だろう。
アルディア―ドと接しておくと、その「当然」の指標が崩れそうになるが。
王族同士の会話なら、相手方を持ち上げる言葉選びが当然なのだ。
「ふふ、そんな硬い言葉遣いじゃなくていいですよ? いつも兄上があの調子ですから、硬い言葉遣いというのは苦手で……」
「あぁ、なるほど……」
これには、リガルも心底苦笑い。
アルディア―ドを持ち上げる言葉選びなど、すっかり忘れて、フィリアの言葉に同意してしまう。
「えぇ、ですから兄と話している時みたいに、私とも接してくださいね」
そう言って、フィリアはにっこりと笑顔を見せた。
その表情に、リガルはドキッとしてしまう。
「じゃ、じゃあ、そうさせてもらうとするよ」
言葉からも、動揺がよく伝わってくる。
フィリアは、リガルよりも1歳年下だ。
つまりは6歳。
それに対して、リガルは外見こそ7歳児だが、精神年齢は16歳。
日本にいたころのリガル――つまり想也は、若干
しかし、フィリアは年齢に比べてあまりに大人っぽすぎた。
外見の話ではない。
他国の王族と接しているという、普通は緊張しそうなシチュエーションであるというのに、非常に落ち着きがあるのだ。
どんな時も、堂に入っているというべきか、常に平常に見える。
とても、6歳とは思えない。
(そういえば、この子は婚約の話を知っているのだろうか?)
常識的に考えれば、当然知っているだろう。
リガルに話が伝わっているのだ。
相手方にも話が通っていて然るべきではある。
だが、それにしては、婚約の話を知っているようには見えない。
(しかし、知ってるかどうかは置いておいて、そうなると、俺の方から少し歩み寄る必要があるか? いや、別に婚約だし、急ぐ必要は無いのか?)
どうすればいいのか、さっぱり分からず、頭を抱えるしかない。
アドレイアも、リガルたちにはあまり関与できないと、事前に言っていたし、手助けは望めないだろう。
(仕方ない。この訪問期間中、ビビってずっとフィリアを避けていたら、父上に怒られるだろうからな。コミュ障なりに頑張ってみますか)
気は乗らないながらも、覚悟を決める。
「ふぃ、フィリア王女殿下。良ければ後で、一緒にお茶でもしないか?」
唐突過ぎる誘い。
違和感はありまくりだが、コミュ障のリガルにしては、めちゃくちゃ頑張った方だろう。
日本にいたころは、ただ女子に話しかけることすら、高難易度に感じていたのだから大進歩だ。
この世界に来てからは、アクティブな生活をしていたことで、人と接する機会が増えた。
もしかしたら、この世界に来て、コミュ力が少しだけ上がったのかもしれない。
リガルの誘いにフィリアは……。
「フィリアとお呼びください。私も、リガル様と呼ばせていただきますので」
「そ、そう? じゃあそうさせてもらおうかな?」
呼び捨てにするなんて難易度が高すぎる、と思ったが、確かにこれから仲良くして行こうというのに、「王女殿下」という呼び方は硬すぎる。
リガルも、受け入れるしかない。
「それと、お茶でしたね。午後には特に用事もないですし、もちろん喜んでお受けさせていただきます」
そう言って、フィリアは優しく微笑んだ。
その仕草に、またドキッとしてしまった時だった。
「おい、リガル。俺の妹と何を話している?」
「え!?」
可愛すぎる反応を見せるフィリアに、
「いや、別に大したことは話してないよ?」
慌てて誤魔化す。
理由は不明だが、若干不機嫌そうな、普段のあるディア―ドとは異なる様子に、リガルは少しビビりながら返答した。
「ふーん、まぁいいけど。そんなことよりも、食事が終わったら、午前中の続きをしようぜ! 飯食ったら、体力も回復しただろ?」
しかし、すぐにいつもの調子に戻る。
そして、午前の続き――つまり決闘の誘いをしてきた。
当然、受けるわけがないので……。
「勘弁してくれよ……。それに、実は午後は父上に呼び出されているんだ。だから無理だ。悪いな」
断りながら、嘘も吐く。
アドレイアも同じ席にいるし、こんな嘘がバレたら怒られることは間違いないので、若干声の大きさを落とした。
それでも、フィリアには聞こえている。
しかし、フィリアの方は、空気を読んだのか、微笑んだまま静観してくれる。
本当に小さいのに頭がいい。
「まぁ、それなら仕方ないか……。俺はグレンと日が暮れるまで決闘をするとしよう」
流石のアルディア―ドも、アドレイアの名を出されては、諦めるしかない。
こうして、リガルの午後の予定が決定したのだった。
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