第68話 贋金を作る
「わたしにね。領主から相談が来たんだよ。村人の身代金をどうにかしてくれないかと」
クランマスターからそう言われた。
「まさか寄付してほしいって話じゃないだろうな」
「ないね。その線はない。領主としては身代金を払うのが、どうしても嫌で。村人を取り返してくれの一点張りさ」
「じゃあ、アジトを突き止めて強襲の線かな」
「できればね。それじゃ約束の期限までに間に合わない。困ってるのさ。無理な依頼だから出来ないと言いたいが、この街に拠点がある以上、近所付き合いはやっとかないとね」
「期限は」
「明日だよ」
「そんなのは無理だ」
「他のSランク共も同じ意見さね」
待てよ。ポリゴンで贋金を作って渡せば良いんじゃないか。
ポリゴンにも汚れは付く。
何かの塗料で少し汚せば、それらしい物になるはずだ。
重さも設定できるしな。
「贋金を作るのはどうだ」
「いいね。でも贋金は重罪だよ」
「時間が経つと金貨が石に変わるっていうのでどうかな」
「それなら、問題ないのう」
「決まりだね」
ふふっ、あの糞親父びっくりするぞ。
「【作成依頼】金貨。時間が経つと石に変わるアニメーションも」
「作成料として金貨10枚を頂きます」
「やってくれ」
「作成完了」
テストの金貨は10秒で石に変わるようにしてと。
「【具現化】金貨」
金貨をしばらく見ていると石に変わった。
領主が盗賊に恨まれるのも、あとあと大変だから。
一枚の金貨は『金貨は頂いた。義賊マウスキッド』と書いた紙に変わるようにしておこう。
後は金貨を少し汚すだけだ。
煤とか土で汚しておけばいいか。
「マリー、この偽物の金貨を汚して良いぞ」
「えっ、綺麗な物を汚すのって何となく後ろめたいような、快感のような。とにかく複雑な気持ち」
「何千枚とあるから好きにやれ」
「うん」
マリーが嬉々として金貨を汚す。
それと金貨が沢山あるのが、嬉しそうだ。
そして、身代金の金貨3千枚が出来上がった。
問題は音がしないんだよな。
それと噛んだりすると偽物だとばれる。
糞親父は貴族だから、金貨を噛んだりしないよな。
運ぶのも部下に任せそうだ。
底の方に銅貨を少し入れておくか。
そうすれば運ぶ時に音がする。
この銅貨はなんだと聞かれたら、急だったので金貨が集まりませんでしたと言っておけば大丈夫だ。
「お前も立ち合いな」
「顔を見られるとややこしくなる人物が一名いるんだけど」
「覆面をしていくんだね。兜でも良い」
「じゃ、兜で」
俺は取引の現場に立ち会った。
いるのは領主と思われる人と、でっぷり太った糞親父。
それに、クランマスターに俺だった。
金貨の入った箱が運び込まれ蓋が開けられると、糞親父は目を輝かせた。
「枚数を数えさせなくて良いのかね」
と領主。
「信用してますとも」
と糞親父がにっこり笑う。
蓋が閉められ、糞親父の私兵によって運び出された。
「話し合いが終わった記念に一杯どうですかな」
そう糞親父が持ちかけてきた。
「そうだな。一本開けよう。おい」
領主が手を叩くとメイドが来て要件を聞いてから下がった。
「そちらの婆さんはなんだね」
「クラン・ヴァルドのクランマスターだよ。金貨を集めるのに骨を折ってもらった」
「何だ。冒険者風情か」
「お初にお目に掛かる。予見のノーラだよ。デプス・バッファ卿」
「そうか。何か用があれば呼ぶかもな」
「依頼料は高いよ」
「やはりハイエナの類か。すぐに金の話を持ち出す」
「冒険者は依頼金がなければ仕事はしない。ただ働きは御免さ」
「そのちっこいのは何だ」
「護衛です」
俺は答えた。
「ふん、腕が立ちそうにもないな」
メイドがワインとゴブレットを持ってきた。
「では、取引成立に乾杯」
「乾杯」
「乾杯」
俺は笑いをこらえるのに精一杯だった。
後12時間後には金貨は石ころだ。
「では村人を迎えるとしよう」
俺達は門の所で村人の到着を待った。
糞親父は早々に帰った。
今頃は分け前の偽金貨を前に笑っているだろう。
日が暮れようとした時に歩いてくる村人達の姿が見えた。
偽物だとばれなかった。
金貨を手ですくってジャラジャラ落とすと一発でばれるけどな。
金貨の箱は重いから、運ぶのにも時間が掛かる。
頭目の所に着く前に村人は解放されると分かっていた。
そういう条件だったからな。
とにかく上手く行って良かった。
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