第67話 ドラゴン輸送

「護衛依頼が一つも無い!」


 俺は冒険者ギルドの掲示板を前に声を上げた。

 ポリゴンの囮が無理そうなので、本物の隊商を囮にしたいと思ったのだが。


「ほんとだね。盗賊が怖いのかな」

「囮の隊商を仕立て上げるのがいいかな。でも出てくるのがザコだと赤字になるな」


 積み荷を都合して黒字にするか。

 商業ギルドに行きカウンターで受付嬢に俺は話し掛けた。


「輸送の仕事がないかな」

「坊やには少し早いわね。それに今は盗賊が出没するのよ」

「うーん、駄目かあ。あれっ、それにしては商業ギルドの様子は普通だね。ねぇ、どうして」

「ここだけの話。バッファ家の隊商は何故か襲われないのよね。100人態勢で護衛していると言っていたけど、胡散臭いでしょ。坊やもそう思うわよね」

「うん、そうだね」


 あの、糞親父、盗賊と協定を結んだな。

 輸送で荒稼ぎするつもりなんだろう。

 普通、街道を封鎖したら商人は通らなくなるから、盗賊は仕事にならない。

 でも輸送で稼ぐなら別だ。

 100人の人件費を請求したら、凄い金額になること間違いない。

 実際の輸送は10人ぐらいの護衛でも驚かない。


「貸し馬車は余ってないかな」

「それは余っているわよ。なに坊や、借りてくれるの」

「うん」

「高いわよ」

「お金はあるんだ」

「惜しいわね。坊やが後20歳ほど歳を重ねていたら、お付き合いを申し込むところなのに。坊や、兄さんはいないの」

「いるよ。でもどこにいるのか分からない」


「こら、仕事しなさい」


 中年のギルド職員が受付嬢の後ろから声を荒らげた。


「はい、すいません。坊や、馬車の大きさと台数は」

「一番小さいので一台」


 馬車は上手く借りられた。

 荷物はポリゴンで作った道具だ。

 馬もポリゴンの馬だ。


 出発の準備は整って早速行く事にした。

 道中、盗賊や魔獣も出て来ない。

 平和な物だな。

 そう思って橋に差し掛かると橋が落とされていた。

 川には渡し船があり、バッファ家所有と書かれていた。

 あの糞親父め。

 この道に盗賊が出て来なかったのは、橋が落とされていたからか


 ポリゴンで橋を架けるのは簡単だ。

 だが、作成依頼で金貨を使うのは嫌だ。

 輸送コストが上がるのは勘弁してほしい。


 だが、何もしないというのも業腹だ。

 せめて汎用性のあるものを作成依頼にだそう。

 船が最初に頭に浮かんだが、海に行く予定は今のところない。

 陸が駄目、海が駄目なら。

 こうなったら、とことんやってやる。


「【作成依頼】馬車を運べるドラゴンを」

「作成料として金貨45枚を頂きます」

「やってくれ」

「作成完了」


 輸送機やヘリコプターも頭に浮かんだが、ファンタジーならドラゴンでしょ。

 その方がしっくりくる。


「【具現化】ドラゴン。馬車を掴んで運べ」


 10メートルを超えるドラゴンが馬車を掴んで街まで飛ぶ。


「最初からこうすれば良かったんだ」

「ディザ、目的を忘れている」

「盗賊を退治するんだった。すっかり忘れてた」

「もう、ドラゴンに夢中になっちゃって。まったく、子供なんだから」


 街には着いてポリゴンの商品を渡した。

 親父の輸送業を妨害してやる。

 輸送用にドラゴンを貸し出そう。

 俺達はとんぼ返りして、冒険者ギルドに顔を出した。


「鷹みたいな物で荷物を運べたら便利だと思わない」

「ええ、思うわ。貸し出してくれるの」

「うん、ドラゴンを貸し出す」


「それはまた思い切ったわね。確かに空を飛べば盗賊は関係ないわ。ボーナスアップの予感」

「ここは狭いから、門の外で出すね」


 ギルドの幹部が見守る中、ドラゴンのお披露目が始まった。


「【具現化】ドラゴン。ドラゴン挨拶をして」


 お辞儀するドラゴン。

 おおと歓声が聞こえる。


「馬車を掴んで浮かんで」


 ドラゴンが馬車を掴んで浮かび上がる。


「画期的ですな。しかし、普通の馬車では痛んでしまう」

「木箱を運ばせるのがよろしいですな」

「それとゴンドラを運ばせるのも良い」


 どうやら運用は任せていいみたいだ。


 ドラゴンが荷物を運ぶようになって、早い安い安全が売り言葉で流行った。

 荷物だけではなく人もドラゴンが運ぶようになった。


 さて、糞親父はどういう手を打ってくるかな。


 なんと盗賊は村を襲い始め、身代金を領主に請求し始めた。

 そう来たか。

 領主としては村人を見捨てたいのだろうけど、見捨てると評判も下がるし税収も下がる。

 なんと糞親父は盗賊の仲介人として領主と交渉にあたっているらしい。

 盗賊の一味なのがバレバレだけど良いのかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る