第65話 届かない荷物

「荷物が届ていない事が判明しました。損害は保険状況にそって補填します」


 商業ギルドの受付で男性の職員にそう言われた。

 ポリゴンの製品は元がただなんで保険を掛けてない。


「なんで届いていないって分かったの」

「鷹に手紙を運ばせました。冒険者ギルドも良い仕事をします」

「分かった。状況の情報を売って下さい」

「金貨1枚になります」


 高いが、ケチっている場合でもないだろう。

 俺は財布から金貨を出すとカウンターに置いた。


「はい、確かに受け取りました。被害は盗賊によるものだと思われます。盗賊団、明けの妖星の仕業だと判明しています。現在Sランク様に商業ギルドが指名依頼を出しているところです」

「ありがと」


 Sランクが出て行けば少し経てば解決するに違いない。

 しばらく商品を送らないが、手は打ちたい。


「イオ、カリスト、ガニメデ、エウロパ、雌ライオンを率いて盗賊を見つけてアジトを探せ。期限は門が閉まるまでだ」


 門の所でライオンの群れを見送る。

 盗賊の討伐を勝手にやって、依頼の横取りみたいになるのも嫌だ。

 これで良いだろう。

 盗賊のアジトが分からない場合は情報提供してあげよう。


「ディザ、ライオンさん達が活動しているって事は討伐依頼は受けないのね」


 マリーがそう言ってきた。


「盗賊と鉢合わせする事も考えられるから」

「じゃ、クランハウスでのんびり過ごしましょ」

「まあ、良いか。たまにはお休みしても」


 クランハウスの待機室でジュースを注文する。

 待機室では酒は出ないが、他の飲み物と軽い食べ物は提供されている。


「おい、聞いたか。ジュエルスターさんが盗賊の討伐に出たってよ」

「おう、聞いた、聞いた」

「討伐が成功するか賭けをしないか」

「よせやい。Sランクの負けに賭ける奴なんていないぜ」

「じゃあ、成功か、逃げられたかで賭けるか」

「おう、いいね。俺は成功に銀貨1枚」

「俺は逃げられたに銀貨2枚」


 賭けが始まった。

 討伐に行ったのはジュエルスターらしい。

 スライム使いだが、相性が悪いと負ける可能性もある。


「大変だ。ジュエルスターさんが幼児になっちまった」


 えっ、若返ったのか。

 ジュエルスターがぶかぶかの服を着て、クランハウスに入って来た。

 クランのメンバーは笑いをこらえるのに必死だ。

 頭は元のままで体だけ縮んでいるから、余計におかしく見える。


「ぶはははっ、ジュエルスターよ。情けねぇな。何だその様は」


 大笑いして、冷やかす剣聖。


「剣聖先輩、油断しました」

「まあ、命があっただけでも良かったな。男ならリベンジだ」

「盗賊は一人残らず、あの世に送ってやります」

「そうだ。その意気だ。だが、ちっこいなりで言われてもな。ぐはははっ」


「スライム回復液をありったけ持って来い」


 ジュエルスターがそう言い、何人かが倉庫に飛んで行った。


 スライム回復液を掛けられ、ジュエルスターの体はみるみる成長していった。


「ところで、結局のところ、討伐は成功したんで」

「逃げられた。手下は何人かやったが、頭目に抱き着かれたら、スライムが縮んだ」


 何の能力だろう。

 縮小の能力ではなさそうだ。

 スライムを溶かすなんて有り得るだろうか。

 どちらかと言えばスライムは溶かす方だ。

 乾燥の能力辺りだと相性が悪かったとしか言いようがない。

 しかし、盗賊団の頭目が乾燥などという戦闘力の低い事などあるだろうか。

 対戦してみないと分からないな。


「マリー、そろそろライオンを迎えに行こう」

「うん」


 門の所に行くとライオン達は既に帰って来ていた。

 雌ライオン達を消して、雄ライオン4頭を残す。


「アジトは突き止めたか」


 首を振るライオン。

 そうか駄目だったのか。

 仕方ない。


「頭目の能力は分かるか」


 頷くライオン。

 能力が分かったのか。


「乾燥か」


 ライオンは頷きも首を振る事もしない。

 そうであるとも言えるし、そうでないとも言えるのか。

 何だろう。

 後でゆっくり考えてみよう。


 俺が再びクランハウスに入ると、メンバーの動きが慌ただしい。

 何かあったのか。


「聞いたか、金貨1枚だってよ」

「おう、盗賊団の下っ端を誰でもやればな」

「ジュエルスターさんも太っ腹だよな。下っ端にも賞金を懸けるなんて」

「不正する奴を見張らないと」

「よせやい。自己申告だからって、嘘を付く奴なんかクランにはいないはずだ」

「そうだな。野暮を言った」


 俺も盗賊狩りをしてみようかな。

 死骸を持ち帰れれば、賞金が懸かっているかも知れない。

 そうすれば二重に美味しいな。

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