第63話 商売繁盛

「この店の商品全て頂くわ」

「えー、何よ。私達がこれから買おうっていうのに」

「黙りない愚民が。たった今、マガリーヌが買い取りました。土下座するのなら分けて上げてもよろしくてよ」


 なんかマリーの店に濃い子供が入ってきたな。


「ディザ、どうする」

「もちろん、全て売ってやるさ。えーと、全部で384点のお買い上げで銀貨38枚になります」

「受け取りなさい」


 そう言って紙をよこすマガリーヌ。

 おお、小切手だ。

 この世界で初めて見たよ。

 これ換金できるよね。

 玩具って事はないよね。

 まあ、良いか。

 今回、損しても一日寝ればポリゴン数は復活する。

 偽物だった場合は勉強になったと思えばいいや。


「まいどあり」


 俺は無くなった商品を具現化し始めた。

 忙しく並べるマリー。


「ちょっとちょっと」

「なんですか」

「これは一体どういう事。私は店の商品全てって言ったのよ」

「俺のスキルで商品は作ってる。無限に作れるのだから。普通は無くなったら、また作るだろ」


 無限に作れるとホラを吹いた。

 でないとイタチごっこだからな。


「ムキー、許せませんわ。お父様に頼んでこんな店潰してさし上げます」

「ディザ、ちょっと一人で店番お願い。私はこの子と話してくる」


 マリーとマガリーヌは連れだって出て行って、しばらく経ってから帰ってきた。


「ガリー、今度一緒にお洋服を見に行きましょう。品物は家に届けておくわ」

「ええ、マリー楽しみしておりますわ。ではごぎげんよう」


 どうしたんだ。

 マガリーヌの事を愛称で呼んで仲良くなっている。


「マリーが嫌いそうな女の子だと思ったよ」

「初めはそう思った。けど、買い物の理由を聞いてみたのよ。だって、あんなに買い占める理由が分からなかったから」


 そうだな。

 買い占める理由が分からない。

 買いたいのなら本物を親にねだれば良い。

 良い所のお嬢様なら、本物が買えるだろう。

 玩具を買い漁る気持ちって何かな。

 うーん、分からないな。

 降参だ。


「俺も分からない」

「両親がね。仕事で旅に出て寂しいんだって。友達を家に呼びたかったのだけど、理由が欲しかったらしいの」

「友達に自慢したかったのか。分かるような分からないような」

「店を貸し切り状態みたいなのがやりたかったみたい。店をそっくり持って来ましたと自慢したかったのね」


「それで全部お買い上げか。なんて言って懐柔したんだ」

「店長と友達になっておくと便利よと言ったの。新作が出たら一番に届けるとも。そうすればそのたびに友達を呼べると」


 なるほどな。

 寂しい子なんだろうね。

 両親が居ない寂しさがああいう行動を取らせたのか。

 きっとストレスも溜まってるんだろうな。

 尻を思い切りひっぱたいてやりたくなったが、どうなんだろう。

 マリーの対応の方が店をやる人間らしいな。

 マリーも成長してるんだな。


「きゃー」


 悲鳴がエレベーターの方から上がる。

 何だよ。

 今度は何が起こった。


 エレベーターの中でドンドンと壁を叩く音がする。

 むっ、閉じ込められたのか。

 そんな、馬鹿な。

 アニメーションがバグったのか。

 窓から外を見ると、エレベータの前に子供が一人。

 俺は梯子をポリゴンで作り、地面に降り立った。


 男の子がエレベーターのドアに手を置いている。

 こいつが悪戯していたのか。

 下降と上昇を繰り返していたんだな。


「駄目じゃないか」

「うるさい」


 ええと、殴る。

 優しく諭す。

 正解はどっちだ。


 どっちも駄目だ。

 俺は虫の集合体を出して男の子に近づけた。

 男の子は後ずさった。

 エレベータが正常に作動してドアが開いた。

 女の子が乗っているんだった。

 虫の集合体を慌てて消す。


「サム、またあなたの悪戯ね。もう許さない」

「まあまあ。サム、玩具を彼女にお詫びだと言って買ってやれ。買わないのなら虫いっぱいの部屋に閉じ込めるぞ」

「うん、買う。買わせて下さい」

「これで許してやってくれ。もし悪戯されたら、俺に言えば良い。そしたら今度こそ虫部屋行きだ。サム、悪戯したくなったら彼女をこの店に連れて来て何か買ってやるんだ」

「なんで」

「何でもだ。いう通りにしとけ。きっと、将来感謝するぞ」


 さあ、一組仲直りさせたし、俺はエレベーターのバグを直そう。

 ドアが閉じてから、上がってドアが開くまでを一連のアニメーションにして。

 途中でのアニメーションの切り替えは禁止にしよう。


 待機状態での設定が難しいな。

 エレベーターの制御ってこんなに難しいのか。

 こりゃ、色々とチェックしないとな。

 店が終わったらマリーと調べよう。

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