第62話 アクセサリーショップ、ディザマリー

「アクセサリーショップ、ディザマリー開店するよ」


 店のエレベーターの前でマリーが声を張り上げる。

 だが、客は一人もいない。

 しょげる、マリー。

 がっくりするなよ。

 俺が今から人を呼んでくるから。


「【モデリング】」


 球を作って、縦方向に伸ばす、そして紐を付ければ風船の完成だ。

 重さをゼロにしたから、プカプカと浮かぶ。

 柔らかさは無いが、どっからみても風船だ。

 それに作成依頼を使って店のロゴと宣伝文句のテクスチャーを作ってもらう。

 それを貼って今度こそ完成だ。


「アクセサリーショップ、ディザマリー本日開店。これお子様にどうぞ」


 風船とやはりポリゴンで作ったチラシを親子連れに渡す。


「良い匂いがするアクセサリーの玩具が銅貨10枚だって。行きたい。行きたーい」


 子供がさっそく親にねだり始めた。

 成功だ。

 俺、グッジョブ。


 100個用意した風船を全て配り終え店に戻る。

 エレベーターの前には子供が何人か入ろうかと躊躇していた。


「いらっしゃい。ディザマリーにようこそ」

「どうやって店に入るの」

「ここはね。秘密基地なんだ。扉に触って開けと念じてごらん」


「うわー、開いた」

「そして、上に行けと念じるんだ」

「凄い。動くよ」


「着いたよ。さあ、店に入って。この秘密は親しい人にしか喋っちゃだめだ。秘密基地だからね」

「うん」


 こうやって、プレミアム感を出すと、噂は広まるはずだ。

 子供の口コミも馬鹿に出来ない。


「あっ、ディザ。商品が無くなりそうなの」

「追加発注ね。【モデリング】」


 チューブを作って丸く繋ぐ、トップに半透明の宝石もどきを付ければ指輪になる。

 匂いテクスチャーで果物の匂いを付ける。

 赤い宝石だからイチゴかな。

 よし完成だ。


「【具現化】イチゴリング100個」

「ディザ、新作ね」

「ああ、さっき作った」

「一つもらっても良い」

「ああ、マリーの店なんだから好きにしたら良い」


 イチゴリングを指に嵌めてうっとりと眺めるマリー。

 客の相手をしないと。


「はいはい、ペンダント一つで銅貨10枚ね」


 あれ、大人が入って来た。

 見たら、王打おうださんじゃないか。


王打おうださん、どこでこの店の事を聞いたの。クランの人間には言ってないのに」

「娘が欲しいって、だだをこねるんでな」

「少し割引するので、沢山買ってて下さい」


「じゃ、全部の種類一個ずつだ」

「大人買いだね。21個で銀貨2枚と銅貨10枚のところ、おまけして銀貨2枚だよ」

「包んでくれ」


「やばい、包装紙を用意してなかった。プレゼントに使う人が現れるとはね【モデリング】」


 一枚の四角形を細かく分割して折りたたむ。

 ボーンを入れて、閉じるのと開くアニメーションを作って包装紙にした。

 テクスチャーはどうしよう。

 作成依頼でデフォルメした仔ライオンのバナナをテクスチャー用に作ってもらう。

 それを貼って完成だ。


「はい、包んだよ。触って念じると開くから、家でやってみて」

「ありがとよ。恩に着る。買えなかったら娘にどやされるところだった」


 王打おうださんが帰って行ったら、しばらくしてリーナさんがやって来た。


 リーナさん、遠征から帰って来たんだな。


「リーナさん、いらっしゃい」

「怪しい店があると調査依頼があったから、来てみたらディザの店か」

「この店は怪しくなんかないよ。一個銅貨10枚の明朗会計の店だよ」

「誘拐事件があってから、富裕層の親は気をつけているのよ」

「なるほどね。そんな事件もあったな」


 そりゃちょっとは怪しいけどさ。

 調査依頼を出すほどじゃないだろう。


「今回は楽な仕事で良かったよ」

「せっかくだから何か買っていってよ」


「アクセサリーは依頼の邪魔だからね。何か邪魔にならない物を」

「うーん、そうだ。キーホルダーなんかどうだろう。【モデリング】」


 輪っかをいくつか繋げてキーホルダーを作る。

 鍵を付ける場所はアニメーションで開閉できるようにした。

 仔ライオンのバナナを縮小して飾りとして付けた。

 うん、いい出来だ。


「【具現化】キーホルダー。金属ではないから音はしないよ。これなら依頼の邪魔にならない」

「ありがたく使わせてもらう」


 調査依頼が来るとはな。

 富裕層の子供達の間でも噂になっているらしい。

 何か非常に嫌な予感がする。

 嫌な予感が当たるのだろうな。

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