第36話 破壊神降臨①

「まだまだっ、やらせるか!」


 みつるは現在文字通り孤軍奮闘していた。

 ダルゴは今扉の解除で手が離せないし、エルレインにいたってはもう魔法を使う気力も体力も残されていなかった。

 そしてそんな二人を守るため、真琴は戦っている。無論心中穏やかではないだろう。普通なら攻撃特化の光をカバーするのが真琴のポジションだ。それはゲームでも、こちらの世界でも変わりはない。

 だが限りなく押し寄せてくる死霊人形アンデッドールを相手に、しかも他の人間を守らなければならないのだ。

 内心では光の側に駆け付けたかった。

 元はと言えばこの迷宮に挑んだのも、この奇妙なカップルの結婚を認めさせてやる事で、自分達には関係ないとさえ思っている。

 だが自分が好きになった男は、そんな救いを求める人間を決して見捨てたり、見逃したりはしないし、出来ない。

 その原因を作ったのが自分のせいだと、今は後悔している。

 あの時ただ一言「助けて」と言っていれば、また違ったのかもしれない。それだけが今の真琴を責めさいなむのだった。




「先輩!」


 叫んだ時はもう遅かった。両手を鋭い爪にした人形が光の脇腹を切り裂いたのだ。

 だが、光は死霊を切り裂く神刀小烏丸と人形本体を一撃で破壊する妖刀村正を巧みに使い、カウンターの要領で敵を仕留めていた。


「どうしたオラ! かかってこいや、クソ人形ども!!」


 満身創痍になりながらも『戦士の咆哮ウォークライ』を上げながら尚も敵の注意を引きつける。

 もはや意地で立っているのがやっとの有様なのに、その闘志は益々燃え上がっていた。

 そんな光の姿に、真琴は焦りを覚えた。

 このまままでは光が死んでしまう。


「ダルゴ君! まだなの!?」


 真琴は半ば怒声になっていることにも気付かずに叫んだ。

 だが、ダルゴはここに至るまで、懸命にやっている。


「ちょともまて! ここで音がして、こうなるから……よし出来た!!」


 何度も試行錯誤を繰り返してようやく出来たその人形の格好を見て、真琴はつんのめりそうになった。


「ダルゴ君! ふざけているの!?」

「ふざけてねぇよ!? 音を頼りに動かしてみたら、こうなっちまったんでぇ!!」


 その人形は、両手で太ももを持ち上げ、秘所がまるっと見える、いわゆるM字開脚のポーズをとっていたのだ。これで正解というのなら、制作者の嗜好を疑う。


 だが、この迷宮の制作者は真っ当な趣味嗜好を持ち合わせていなかったらしい。


 人形が取り付けられていた柱が、音を立てて壁に収納されていく。そしてその柱の跡には階下に続く、隠し階段が現れたのだ。


「……嘘でしょ?」


 真琴は開いた口が塞がらないといった様子でポカンと見つめていた。

 だが、ともあれ光の殿しんがり役はお役御免となる。

 ダルゴとエルレインの二人を先に行かせ、真琴は光の元へと駆けていった。


「先輩! 隠しドアが開いたよっ! もうここはいいからっ、あたしたちも早く……っ!?」


 その時真琴は見た。

 傷付きながらなお、笑っている光の壮絶な姿を。

 獲物を捕らえた野獣のような、狂喜に満ちた笑みを。


 真琴は思わず目をそらし、光の腕を掴んで叫んだ。


「正気に戻って先輩! もういいからっ、もう戦わなくていいから!!」

「……あ?」


 その叫びに、光は我に返ったようだった。


「……真琴?」


 それはいつもの光の呼び声だった。


 よかった。本当に。

 

 だが、その一瞬の隙をついて、両腕を短槍にした人形の突きが光の胸を貫く。


「か……はっ」


 光は吐血しながら倒れた。


 悲鳴が木霊する。



 その悲鳴が自分の物だと、真琴は気付く事は出来なかった。

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