第51話 科学と魔法が交わる時 1

 肌寒くなり生徒たちは少しずつ冬服へと袖を通しはじめた頃。

 ステラは調査部隊からの指示によりかつてガイアドレスと模擬戦を行った峡谷へとやってきていた。

「にして本当に広大な場所ですわね。草もあまり生えていないというのになぜか自然の神秘を感じますわ」

 前回の異常事態を考慮し今回はステラが選んだパートナーとしてリリーカが同行していた。ドレスはVⅡ型ベーシックスカイドレスであるが航続距離などを伸ばし外でも使えるようにマイナーチェンジを施したタイプDである。

 本来はミチを誘おうとしたがすでにライカとの予定が入っていたらしくそこで現れたのがリリーカであった。

 今回は近場ということもありサポートはなしで調査を行う。

「で、今回はなんの調査ですの?」

「調査というよりも定期巡回なんだって。前回あんなことあったから近場に回されたのかもしれない」

「ステラさんは何かと問題に巻き込まれるみたいですかからね。この辺ならガイアの方々にも応援を頼めますから何かあっても安心ですわね」

「うん」

 安心なはずなのだが、ステラはどこか胸騒ぎを感じていた。

 何かが起きる。

 危険なことなのかどうかはわからない。でも、確かに何かが起きそうな予感がしていた。


 この峡谷はストーンヘブンと言われておりガイアドレスやスカイドレスに必要な特殊な鉱石の採掘現場でもある。基本的には一般人の立ち入りは禁止となっている。

 入り組んだ地形と遮蔽物の多さから演習場としても使える。

 二人は入り組んだ峡谷に入り器用に飛びつつ巡回を開始した。

「そういえば聞きましたわよ。都市で襲われたって。災難ですわね

「人違いで襲われるなんて思ってもみなかったよ」

「何かと物騒な世の中ですから気を付けないといけませんわね」

 大国がぶつかる世界戦争はしばらく起きていないがそれでも企業間の競争は激しい。技術力向上のため多少の争いは避けられないが、ここ数年で企業間の争いは規模を増し数も増えている。リバースが攻めてくるという嘘か本当かもわからない噂の影響もあり、様々な備えするものたちも現れた。

 そんな中、ファイターのパイロットやドレスのマスターというのは狙われやすい。

 青空航空科学高等学校は生活をよりよくするために最先端の航空科学を学ぶ場所であり、どのような民間企業でも働けるような学生を育成する場でもある。

 しかし、実のところは多くのマスターは空軍、警察庁、防衛庁のなどの傘下に入り戦うことが多い。

 警備局ができたことで武力を扱える組織が増えたと反発するものも少なくはない。

「きな臭い話ですがどれだけ命を張っても誰かからは非難されてしまう。そうなると何のために戦うわからなくなってしまいますわ」

「人がみんな同じ方向を見るなんて無理な話だからね。スカイドレスも空を自由に飛べる画期的な技術だけどファイター同様性別の縛りがある。そうなると対抗意識なんかも芽生えちゃうから。周りを見すぎると心がブレちゃうから、私は友達と自分の信念を信じてやってるよ」

「それがいいかもれしませんね。私もこの世に黄金郷を作ることが夢ですわ」

 リリーカは生まれてこの方一度もお金に困ったことがない。

 だが、世界にはその日を生きることさえ苦労している人たちがいると知り何かできないかと考えた。決して頭がいいわけではないリリーカだったが運動神経が高く小型マシンの扱いに長けていたことから危険を覚悟で空を飛び、現地で直接助ける道を選んだ。

 もちろん高貴な家柄だったために自ら危険な選択を取ろうとしたリリーカに対しいて父親はいい返事をしなかった。

 しかし、高貴で気高く羽ばたく娘の翼をもぎとることなどできないと判断し、全力で努めるよう約束し許可をした。兄は連邦国中央管理局で働くスーパーエリートでリリーカはマスターであり双子の妹は科学者を目指している。

「そういえばお兄様から聞きましたが防衛庁と警察庁の今年の予算すごいですわよ。前年度の倍はもらってるみたいですわ」

「なんで倍ももらってるんだろう」

「それはまだわかっていないみたいですが。少なくとも何かしらの事態に備えているみたいだとお兄様は言ってましたわ」

「不穏ではあるけど今はどうしようもないか」

 多発する企業間での争いと何か関係あるかもしれないとステラは考えたが今はどうすることもできない。ステラは1年にしては多くの戦いをしてきたがそれでもあくまで1年。優秀だろうと込み入った内情にかかわることはできない。

 今はただ、目の前のことに集中した。


 ステラとリリーカは一旦二手に分かれ峡谷を飛んでいた。

「ん? あれ人かな」

 峡谷の少し開けた場所にローブを着た見たことのない服装の人物がいた。

 顔を隠しており空からでは性別も区別はつかない。

「警戒させないようにゆっくり降りないと」

 音をなるべく抑えゆっくりと降下していく。

 地上に着地するとローブの人物がこちらに気づき杖をステラに向けた。

 ステラは何かしらの武器と思いシールドの展開を視野に入れローブの人物に言った。

「私は青空航空科学高等学校1年マスター科第一航空隊のステラです。あなたはここで何をしているのですか?」

 ローブの人物はその言葉を聞くと少し安堵したかのように杖を下げた。

「マスター……、ということはあなたはフロントの人なのですね」

 その声は女性のものだった。

 アイシールドモニターで相手大きさを測定すると160㎝とでる。体格からも女性と判断できる。

「はい。そういうあなたは」

 女性はフードをとり顔を表した。

 ウェーブがかった金髪は肩まで伸びておりその立ち振る舞いからどこか気品さを感じる。リリーカのように高貴な家柄だと察することはできるがリリーカとはまた違った風格を帯びている。

「私が顔を出したのはやましいことがないという意思の表れからです。しかし、今ここで名を名乗ることはできません。それはあなたに危険が及ぶ可能性があるからです」

「では、ここで何をしていたかだけでも教えてくれませんか?」

「……今はまだ」

 何を聞いても答えない女性にステラは困った。

 おそらくステラよりも年上なのだが何をしていたかわからないのならば放置するわけにもいかない。しかし、何も言わない。

「さっき私のことをフロントといった。ということはあなたはリバースの人?」

 ローブに杖、まるで貴族のような気品ある立ち振る舞い。どこかでみた魔法使いのイメージと合致する。

「そうです」

「でも、どうやって? オーロラベールの境界はあまりにも遠い。スカイドレスでと別距離じゃない。それにオーロラベールを越えたらお互いに力は使えないはず」

「……それくらいは言った方がいいかもしれませんね」

 女性は首からかけてる鮮やかに色を変化させ光る宝石を見せた。

「これはリバースに落ちるオーロラの結晶を集めたもの。リバース内の力を外で使う方法の一つです。あなたたちは科学を主に使い世界を動かしますが、私たちはリバースは魔力を使います。魔法というものですね」

「魔力……魔法……」

 魔法なんて空想の世界だけのものだと思っていた。

 だが、この女性は一切の躊躇もなく魔力と魔法という単語を口にした。

 もし、それが嘘なら誰だって騙されるほどの演技力を持ち合わせていることになる。

「その、見せてもらえますか? 魔法というのを」

 自分でもちょっとおかしいかなと思いつつステラは言った。

「いいですが。今は無理です。私、追われてるので。魔法を使うと魔力で探知されてしまいます」

 あまりのぶっとんだ話に信じてみたいという気持ちと疑いの気持ちが揺れ動き始めた。

「では――」

 ステラが言いかけた瞬間、リリーカが巡回している方向から大きな爆発音が鳴り響いた。

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