第49話 いつでもどこでも駆けつけます! 3

 ミチが最初に選んだのはレースゲームだった。

 ゲームの映像に合わせ座席が揺れる臨場感あふれるゲームとなっている。

 大都市で行われるフォーミュラーMAXという実在するレースをもとに作られている。

「このハンドルで操作してこのボタンでブーストを発動できるの。飛んだり回転したりできるよ」

 体がずれない様にシートベルトを締めてゲームを開始すると超高速で走るレースカーにステラはギリギリで対応していた。平均時速300㎞のレースカーはスカイドレスと比べると遅いが地上を走るために避ける物が多くスカイドレスで鍛え抜かれた反射神経でさも一瞬動揺するほどのだが、ステラはなんとか壁や敵車両に当たらずに走らせることができている。

「やっぱステラはセンスの塊だね」

 実は店内対戦が行われているとステラは知らずにどんどん追い抜いていく。

 IDを作ってないNONAMEのプレイヤーが次々と追い抜く姿は観戦用モニターを見る人たちに驚きを与える。

「ミチ、あの車どれだけ追いかけてもまっすぐで離されちゃう!」

「あれはストレートでの伸びがえげつないタイプだね。今一番速いフォーミュラーだよ。コーナーなら追いつけるはず。このあとの連続複合コーナーで一気に前に出ないと勝ち目がないよ」

 相手のフォーミュラーは車体が重く身軽な動きは取れないがストレートになると部類の強さを誇る。そこに減速をしすぎないテクニックが加われば勝利の望みは薄い。

「わかった! やってみるよ!」

 ステラの表情はレースを楽しんでいた。

 高速で迫る障害物に鳴り響くアラート音。コース上に配置されている加速区間などを見逃さずに利用する。ここはさすがスカイドレスのマスターと言える。

 連続複合コーナーに差し掛かると前を独走するフォーミュラーは減速しコーナーに備えた。

 しかし、ステラは減速をあまりせずに突っ込む。

「ステラ! そのままだと壁に当たっちゃうよ!」

 観戦モニターを見ている人もこのままじゃ絶対に壁に当たると思い、一位の独走で終わると考えていた。

 完全にアウェイなムードの中、ステラの闘志はまだ消えてなかった。

「何台かの走りを見ててわかったの。ゲームならではの強引な走り方をね!」

 コーナーに差し掛かるアウト側へと車体をぶつけると減速しつつ車体は衝撃でインコースへと追いやられる。

「そうか! ゲームならではの走行法! 壁に当たると耐久力が削られてスピード落ちる。さらに衝撃でコントロールがブレるところをあえてコーナーで利用したんだ。しかも、意図的な減速と違いエンジンはまだ短い時間で加速を駆けられる状態! 身軽なフォーミュラーだけの技だ!」

「そういうこと!」

 コーナーでステラと一位のラインがクロス。 

 ステラは内側から一位を追い抜きコーナー出口でフルスロットル。

 複合コーナーではステラのフォーミュラーが圧倒的に有利なためそのまま独走。

 ステラが一位となった。

 観戦モニターを見ていた人たちは大盛り上がり。


「はぁー面白かった!」

 ステラはご満悦の様子だ。

「いやぁ、まさかあんなにすぐ慣れるなんて思わなかったよ。まぁ、盛り上がりすぎてあの場所から抜け出すのには苦労したけど……」

「みんなが楽しんでくれたみたいでよかった。私も楽しかったし。ゲームって面白いね」

「喜んでくれてよかった。じゃあ、ほかにもっと遊んでみよっか」

 そのあとはスカイファイターのゲームやゾンビを撃つゲームに魔法を使って戦うゲーム、それにリズムゲームなど様々なゲームをプレイした。

 すべてが初めての体験でステラにとっては新鮮であり驚きの連続だった。

「私、お手洗い行ってくるね」

「うん、ここで待ってるから」

 ステラは一人トイレへ向かった。 

 その後ろに怪しい影は忍び寄る。


 手を洗いミチのもとへ戻ろうとした時だった。

 出口に体を向けるとそこには知らない男が立っていた。

「あ、あの。ここ女子トイレなんですけど……」

「見つけました。処理します」

 男は冷たい声でそういうとナイフを取り出した。

 ステラは悟った。この男は本気で殺しに来ると。

 簡単な体術なら学校で習っているが頭一つ分以上差がある身長に体格差もある。

 じりじりとトイレの奥へと追い込まれていく。

「くっ……」

 壁際まで追い込まれたステラ。

 ここには窓はない。叫んでもゲームの音にかき消され声など届くはずがない。一か八か体術で対抗してみようと考えたがまったくもって逃げられる気がしなかった。

 圧倒的案殺気と感情を感じさせない目つきはスカイドレスのでの戦闘では感じたことのない圧だった。

 男はステラの首を掴み軽く持ち上げ壁へと押し付けた。

「うぐっ……」

 抵抗してもびくともしない。少なくとも正面から何をしてもいなされる。

「我々の計画をつぶしてきたお前の最後がこんなあっさりなんて、現実というはのは情け容赦ない。我々が正義だというつもりはない。悪でいいさ。でもな、光というのは常に誰か導く。今は悪を導いてくれたということだ。お前は散々計画をつぶし人助けをしてきた。逆に言えば我々を痛めつけてきたわけだ。その償いを受けてもらう。エトワール」

 ステラの知らない内容を淡々と話し最後に言った名前はステラではなくエトワール。ますますステラは状況がわからなかった。声を出そうにも首を抑えられ呼吸さえもできない。男の屈強の手をか細い指でなんとか振りほどこうとするがまったく歯が立たない。

 なにもなせずまま死ぬのかと思った瞬間だった。

 トイレの扉が力強く開いた。

 男はその扉にぶつかり一瞬怯み手が緩んだ。ステラはその隙になんとか手を振り払い出口側へと回った。

「ふぅ~、お腹痛かったぁ~。……ってあれステラじゃん! やっほー! サマフェスぶりだねっ」

 そこにいたのは七星の一年ノアだった。

 アイスの食べ過ぎで腹を下しトイレにこもっていた。

「あ、不審者だ」

 ノアは男を見つけると躊躇せずに護身用のスタンガンを放った。小型の銃の形をしており電気を帯びた針を飛ばしものだ。従来のように線を巻き取らずに撃ったらすぐに逃げることができる。

「ほら、ステラいくよ!」

 

 ノアに引っ張られ窓際にいたミチのとこに戻るとミチは外を眺めていた。

「ミチ! 早くここから離れよう!」

「あー、どうだろう。外もちょっといろいろあるみたいよ」

「えっ?」

 通りを見るとそこには無人の武装した車両が二台現れていた。

「なにあれ?」

「なんかこの辺を占拠したらしい。よくわからない演説してる」

「と、とりあえず上の階に行こう。事情を話すから!」

 四階へ来たところでノアが屋上への階段を見つけ上がってみると施錠はされておらずそのまま外へ出ることができた。

 落ち着いたところでステラはミチに経緯を伝えた。

「じゃあ、この人は七星の人なんだ」

「僕はノア。七星では一年のエースだよ。と言ってもそっちでいうエースよりは立場的には軽いけどね」

「私はミチ、最近第一航空隊になったのよろしく。――で、エトワールって誰なの?」

「私もわからない。でも、私と見間違えたってことを考えると思い当たる節はある」

「あっ! カフェの写真の人でしょ!」

「うん。今はもう空軍の人なんだけど。男の人が言うには我々の計画を潰したって」

「そのエトワールって人はかなり正義感が強いのかそれともそういう危険な任務にあたってたのか知らないけど、かなり恨まれてるみたいだね」

 外の武装車両が地域を占拠し緊張状態が続く中、人々は建物から出られずにいる。

 しばらくして、屋上の扉が開かれた。

 現れたのはさっきの男だ。

「外に出れないのなら室内にいるってすぐにわかった。だが、どこを探しても見当たらない。だったらもうここしかないよな」

「ステラ、下がって!」

「ミチ!」

「やらせはしない。まだ死線を越えたわけじゃないけどさ。未来に行くべき命はわかってるから」

「何を言ってるの?」

「運が良ければみんなで出よう。だめなら私を犠牲にして」

 ミチは自身が犠牲になることでステラを救おうとしていた。

 あまりにも唐突な判断にステラは驚いた。

「ミチちゃん、今あったばかりだけど命は大切にしなよ」

「大切にしてるよ。でも、もし犠牲になって救える命があるなら。ステラのために犠牲になる。それにノアも生きるべきだよ」

 ステラはミチの目が本気であることを理解した。

 なぜそこまでしてくれるのかはわからない。だけど、本当に命を落としかねないそんな風に思えてしまう。

 その時、下の通りで爆発音が鳴り響いた。

 三人は一瞬気を取られた隙を男は逃さなかった。

 一気に距離を詰めてステラの前にいるノアとミチを突き飛ばしステラのほうへと走る。ステラも逃げるがここは屋上。すぐに端まで追い詰められてしまった。

「終わりだ。エトワール!」

「私はステラです! エトワールじゃないです!」

「この期に及んでそんなでたらめを吐くか。命は惜しいんだな。だが、無理だ」

 ナイフをステラに向け近づこうとした瞬間。

「そこまでだッ!! バイオジニアスがこの付近に現れるのは調べがついていたわ!」

 ステラの後ろか現れたのはパトフライヤーを操るアカネだった。

「アカネさん!」

「ステラ、大丈夫? もう安心して。パトフライヤーはいつでもどこでも駆けつける! これが本当の初実戦よ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る