第42話 海へ

 ブルースカイの調整を幾度となく行い様々な天候でシミュレーションを経てついてに調査部隊としてステラも活動が認められるようになった。

 長距離の飛行を安全に行うためにサポートが選ばれた。 

 マスターとサポートにとって大事なのは信頼。

 どれだけ的確な指示をしても現場の状態を把握しながらマスターの精神状態や体調を考慮してマスターを導かなければならない。

 そこでステラのサポートに選ばれたのは一年第一通信隊ミライだった。

「ステラ、今日は通信室からサポートするからデータベースからすぐに情報を出せるから何でも頼ってね。飛行ルートと大まかな地図を送るよ」

 ステラにアイシールドモニターにマップが表示される。

「もしかして海に行くの?」

「そうみたい。孤島で怪しい動きがないかを確認するらしいよ。その辺は海原学校の

警戒範囲の外だから私たちが回るの」

「了解。ステラ、ブルースカイ発進します!」

 カタパルトから勢いよく射出され大空へと飛んだ。


 しばらく飛行すると海へと到着した。

「すごーい! 全部水で溢れてるよ!」

「そういえばステラって海見るのはじめてだったね。海は陸地よりも多いんだよ。この星の裏側まで続いてるんだよ」

「へぇ~。こんなに綺麗だなんて知らなかったよ」

 ステラはまるで無邪気な子どものように海の上を低空飛行した。

 スカイドレスでは海中に入ることは基本出来ないがステラは海面を飛び回るだけでも楽しそうだ。初めて見た新しい自然の風景にステラは興奮を抑えられなかった。

「ねぇ、ちょっと素手で触ってもいいかなっ?」

「もぉ~、調査中なんだよ」

「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

「仕方ないなぁ。いいよ。時間はまだあるしね」

「やったー!」

 ステラはさっそく左右の手のパーツのみを外し素手で海に触れた。

「すっごく冷たいよ!」

「海だからね。舐めるとしょっぱいよ」

 ペロッと自分の指先を軽く舐めると想像を超えたしょっぱさに驚いた。

「うえぇ、結構しょっぱいねー」

「不思議だよね。――ほら、調査に戻るよ」

「はーい」

 ステラはまだ名残惜しそうな表情を浮かべるが調査任務を遂行するために空へ浮上した。


 30分ほどルートに沿って飛行しているといくつかの家屋がある小さな島を見つけた。

「あれ、あそこってルート上に記載されてないけど」

「本当だ。島に変なところはない?」

「う~ん。特に変わったところはないかなぁ。あえて言うならどうやって生活してるのかなって」

 調査任務としては確認しなければいけないが危険が潜んでいる可能性もあるために安易にステラを行かせいいかを迷っていた。

 しかし、ステラはすでに島へと向かっていた。

「あっ……。まぁ、大丈夫か。一応警戒しながら向かってね」

「うん。森の方に着地するね」

 少し開けた森林にスカイドレスをスタンバイモードで待機させ島を散策することに。

 左手首には緊急時にスカイドレスを呼んだりスカイドレスに入る通信やデータを見ることのできるデバイスを装着する。それと、スカイドレスのアイシールドモニター部分を取り外し装着しミライと通信を取りながら進む。

 田舎育ちのステラであるものの町の周りは草原だったため森には慣れておらずゆっくりと抜けていく。

「なんか見たことない虫が多いよ……。それに暑い……」

「ボディスーツ着てるから無理もないよね。家屋見えたら少し遠くで様子見して。もしかしたら部族とかいるかもだし」

「仲良くできるかな……」

 草をかき分け浜辺のほうへ出る。

 外周を回りつつ道を探し先ほど空から見えた家屋のある場所へ行くと人影が複数あった。近くのちょうどいいサイズの岩に隠れ様子をうかがう。

「ステラは小柄だからその岩でちょうどいいね」

「むぅ……。みんながスタイルいいんだって。私は普通だよ」

「平均よりは低いらしいよ」

「うっ……。いいの! そっちほうが細かい繊細なうごきができるから!」

 ついついステラをいじってしまうミライだったがしっかりと映像は見ており気になる動きを捉えた。

「ステラ、浜辺の方を望遠で映す」

「わかった」

 望遠で浜辺の方を映すとそこにはスカイドレスのようなものがコンパクトモードのようにしておいてあるがわかる。

「あれってなにかな」

「もしかしてアクアドレスかも。海原が来てるかもしれない。ちょっと調べるから待機してて」

「うん」

 今までにない飛行時間の影響かステラは疲労を感じていた。

 静かに岩に腰をかけ座っていると波の音が心地よく空を飛ぶ鳥は気持ちよさそうな鳴き声てどこかへ飛んでいく。ちょうど日陰になっており爽やかな潮風がステラの疲れを癒してくれる。

「ちょっと……目を瞑るだけ……」

 ステラはそのまま眠ってしまった。


 ミライは海原学校の予定を確認するがこの島に上陸する予定は公式ではないと返事をもらい海軍にも問い合わせたが同じ回答をもらった。

 そのことから警戒をする必要があると判断しステラへと通信を入れたが映像が映らず音声も届かなくなっていた。

「ステラ! ステラ! ――ちょっと連絡とってた隙にいったい何があったの……」

 サポートとしては大きな失態を犯したミライ。

 慌てずに対応しようとするが友人のステラとなってしまうと普段通りに思考が回らず何をすればいいかわからなくなってしまった。

 そんなとき、通信室にミソラが入ってきた。

「ステラと通信繋がってる? 少しお話したいんだけど」

「ミソラ! 助けてぇ!!」

「えっ?」

 そこまで多くの面識をもっていないがステラの信頼しているミライの頼み。

 話を聞くことにした。

 

「ん……。あれ、私寝てたんだ……」

 ステラは目覚めると木製の家のベッドで寝ていた。

 まだ状況がよくわかっていないステラはとりあえず体を起こして周りを見た。

 すぐ横に窓があり、窓の向こうでは子どもたちがボールを蹴って遊んでいる。

「あら、起きたかい? 女の子があんなとこで寝てたらだめだよ。そんなんじゃ陸のほうで騙されちゃうよ」

 ステラに声をかけたのはエプロンを着たふくよかで柔和な雰囲気のおばさんだった。

「私、さっきまで岩陰に」

「そうだよ。たまたま薬草を取った帰りに見つけてね。ここまで連れてきたのさ。固いベッドだけど寝てたかい?」

「は、はい。十分寝れました。私、ここに来てからどれくらい時間が経ちました?」

「せいぜい40分くらいじゃないかね。そういえば顔に着けてた眼鏡みたいなのさっきスイちゃんが取っていったから回収した方がいいよ」

「あっ、ない! 手首のデバイスも取られてる!」

「スイちゃんは危険がないか調べるって言ってたからちゃんと説明すれば返してくれよ」

「取りに行ってきます!」

 おばさんから場所を聞きちょっと奥まった場所へ行くと小屋がありそこにスイという人物はいた。

 外のガレージのような木でできた屋根と椅子に作業道具がおいてある場所でスイはアイシールドモニターを覗いていた。

「あ、あの! スイさんですよね。それ、大事なものなので返してくれませんか?」

「君、青空の子なんだね」

「えっ? あ、はいっ。青空航空科学高等学校一年第一航空隊ステラです。調査の一環でこのルートを通ってたんですけどマップにない島だったので探索してました」

 スイは話を聞きつつアイシールドモニターを机の上においた。

「ほら、返すよ」

「どうも。――スイさんは何をしてる人なんですか?」

「私は海軍。ここは私の生まれ故郷。任務中だけどたまに寄って様子を見てるの」

「そうなんですね。じゃあ、浜辺にあったドレスってもしかして」

「うん、私の。と言っても無断で来てるからバレたら怒られるんだ」

 軍人ということもあり常に淡々と話すスイだったが、そんなスイにステラは意外な言葉をかけた。

「スイさんは優しい人なんですね」

「はぁ? なんでそうなるの」

「だって故郷にこうやって顔だして、私が危険人物じゃないか調べてたんですよね。スイさんは優しいですよ。私なんか死にそうになったのにまだお母さんに顔で見せてないですから」

「君一年でしょ。なのに死にそうになったって。――ステラってまさかスカイシティの危機を救ったあのステラか!」

「は、はい。一応そういうことになってます」

 すると、スイは立ち上がりステラを手招きした。

 小さな小屋のおくに厳重に保管されているアタッシュケースがあった。

 ガラス扉の向こうにそれはあり、ガラスは防弾で対衝撃用の特殊なものだ。生体認証でガラス扉を開けると中はひんやりとしている。

 アタッシュケースを側の台の上におき16桁のパスワードを入力するとスイは慎重に開けた。

「これをみてどう思う?」

「こ、これは……! どこでこれを?」

「空から落ちてきたんだ三つは爆発してこれだけ回収できた。軍の機関で解析したが私たちの知っている物質ではなかった」

「リバース……」

 ステラはその言葉を自然と呟いた。

「この海域でこういった未知の物質の発見が相次いでいる。海軍は近い内に本格的な調査を始めるだろう」

「なぜこんなことをするのでしょう」

「牽制ってところだろう。向こうには向こうの問題がある。それを探らないといけない」

 フロントとリバースの溝はステラが想像していたよりも大きいものだった。

 しかし、同じ自然の上で空の下で育ったものたちが争うなんてのはおかしいとステラは思った。

 フロントにはフロントの、リバースにはリバースの問題があることを理解している。だが、表と裏の戦いが始まったならそれは大規模な戦争になる。

 関係のない人々が、この広大な自然が、空が汚れてしまう。

「戦わなくていい方法を模索しながら調査しましょう。せめて、それくらいの希望をもってないと悲しいですから」

「そうだな。夢物語だとしても、どうせやるなら最善最良の結果を目指そう」

 空の少女と海の戦士の気持ちは一緒だった。

 空も大地も海もわかり会える。

 ならば、表と裏だって手を取り合えるはず。

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