第41話 赤い少女と青い少女 2 

 ミソラは冷静だった。

 いや、冷酷だった。

 自身にとって一番恨みを晴らしたい対象と出会ってしまった。かつては力がなく逃げるしかできなかったが、今は実力もありドレスもある。空での戦いなら負けなし。

 逃げる理由などなかった。

 逃げることなどできなかった。

「ここで終わらせる」

 謎の黒いパワードスーツは赤い目を光らせミソラを確認した。

 ステラたちのスカイドレスと違い標準的な体全部を纏うタイプのものだ。メタリックな黒い装甲に怪しく光る目。まるで人の気配を感じさせない。

 急降下しミソラはナイフを取り出し黒いパワードスーツへと特攻した。

 しかし、別の小屋から別の機械が現れた。

 小型のキャタピラに大砲と機関銃、三つのアームがついた特殊なものだった。

 人一人なら乗り込めそうだが兵器かパワードスーツかはわからない。

 小屋を破壊しながら飛び出してきた機械はミソラへ機関銃を放った。

「ちっ!」

 ミソラは角度を変えて空へと一時浮上する。


 ステラはその様子をミライに送っていた。

「ミライ、見えてる?」

「ええ、ばっちり。人型は見たことないやつだよ。キャタピラ付きは大地学校や陸軍の夜間強襲用に似てる。なんにしてもまだ戦闘力は未知数だから深追いしないで」

「わかった」

 ステラもミソラの下へと行くとキャタピラ付きがミソラとステラを同時に狙った。

 すれ違い様ミソラは言う。

「二機ともおかしい。人の気配を感じない」

「オートパイロット? でも、あんな重厚な兵器を扱うなんて」

「来るよ!」

 大砲と機関銃が二人を襲う。

 ミソラは上空へ一時撤退。ステラはミソラの前に出てエナジーシールドを展開しつつビームソードを取り出した。

「相手が人じゃないなら一撃機動力を落とせばいい」

 キャタピラを切断し機動力をそぎ落とす作戦に出たいステラだが黒いパワードスーツらしき相手がまだ動かない。

「ミソラに任せていいのかな……。でも、このまま引いてくれないならせめて一時でもまかせてみよう。――ミソラ! こっちは私がやるから黒いのを!」

「……わかった。すぐに終わらせる」

 ミソラは黒いパワードスーツへと向かった。顔だけを動かしそれ以外はまったく動かさないパワードスーツに対して高速で接近。突風で砂利が舞う。

「この速度なら反応はできないはず!」

 ミソラはナイフで攻撃を仕掛けたが相手は無駄のない動きでそれを丁寧に回避した。前腕の上部からナイフを取り出し浮上するミソラに対し追いかけてきた。

「その程度の速さ追いかけるなんて!」 

 急転回し黒いパワードスーツの腰を深く傷つけた。

「反応できない。なら、畳みかける!」

 黒いパワードスーツは攻撃を受けるばかりだった。

 しかし、突如別の小屋から飛行物体が飛んできた。

 飛行物体は機銃でミソラをけん制すると黒いパワードスーツの背中に合体。飛んできたのはパワードスーツのフライトユニットだった。

 肩には先ほどの機関銃が二門。腰にはアサルトライフルが二丁装着された。

「すでに飛行できてるというにあとからフライトユニット装着するということは飛行能力の向上が目的か。今のままじゃ追い付けないと判断したんだ。ならこっちに来るはず」

 フライトユニットを装着した黒いパワードスーツのスピードはプロトレッドガールに追いつくほどだ。

「速い……! だけどこっちだってスピードじゃ負けない!!」

 スラスター出力をさらにあげスピードを上げた。

 その速度マッハ3。現行平均的なスカイドレスのトップスピードである。

 さらにそれだけにはとどまらなかった。

「レッドガールの真骨頂はぁ! ハイスピード戦闘にあるのよ!」

 マッハ3ともなればミサイルの攻撃を回避するときに使う速度域だが、レッドガールはそれを戦闘のために利用する。

 体への負担は大きいが高速からのナイフで貫けないものはない。

 ミソラはたいあたりするように黒いパワードスーツへと向かいナイフを突き刺した。ナイフは深く腹部へと刺さったが相手は動きを止めなかった。

 赤い目が光りナイフを構える。

「やっぱり無人機なのか」

 ナイフを間一髪で回避しそのまま距離を置く。

 だが、このままではまずい。相手は無人機ゆえに心理戦やダメージで負荷をかけるても動揺しない。それに比べ速い。例え逃げるにしてもエネルギーが切れてしまう。

 

 一方でステラはキャタピラ付きの制圧に成功していた。

 ビームソードでアームをすべて切断し機関銃と大砲の砲身を切断。

 攻撃力と拘束力を失ったところでキャタピラを破壊し制圧した。

「ステラ、ミソラの状況は?」

「結構高いとこまで飛んでる。早く援護に行かないと」

「エネルギーが十分あるから早めにミソラを回収して離脱して。いつ格納庫に人が来てバレるかわからないよ」

「うん」

 黒いパワードスーツのほうまで行くとミソラが腹部を刺して相手から距離を取っているところだった。

「ステラ! こいつ無人機だ!」

「そうみたいだね。一撃で仕留めるしかないか。――Soraシステムスタンバイ!」

 Soraシステムはブルースカイ専用の太陽エネルギーを利用したエネルギー吸収機能だ。マックスまで溜めれば通常のスカイドレス二機分のエネルギーを保有することができるがそれを使用するためには一定以上まで太陽エネルギーを溜めなければならない。

「Soraシステム展開。スラスターをダブルブースト。一気に終わらせる!」

 ブルースカイの真骨頂。

 それは、通常のエネルギーと太陽エネルギーを同時にスラスターから放つことで溢れ出たエネルギーが翼の形となり圧倒的な機動力と防御と攻撃力を有することだ。

 ブルースカイのスラスターから青い翼のようなエネルギーが溢れステラは羽ばたく。

「無人機といえどユニットごと真っ二つに切れば動けないはず!」

 ステラはすれ違い様にパワードスーツを青い翼で真っ二つに切り破壊した。

 落ちていく姿を見ているとある事実が発覚した。

「空洞がない……。ということはあれはパワードスーツじゃなくてロボットってことなの? でも、遠距離からあんな精度で動かすなんて……。いや、今は戻るのが先か」

 ステラは出力を抑えミソラの下へやってきた。

「今のはお見事だね。まさか翼が生えるなんて」

「子どものころ夢見てたんだ。翼が生えたらいいなって」

「で、どうだった?」

「最高だよ。――あのロボットだけど、ミソラの知ってるのと同じだった?」

「……いや、わからない。でも、もっと生物感というか生きてる感じはしてた。完全な機械ではなかったと思う」

「謎なままか」

 すると、ミライから通信が入る。

「無事片付いたみたいだね。私、早く部屋に戻らないと行けないから帰りは気を付けてね」

「うん、ありがとう」

 都市に帰る頃には日は沈み空には星が輝いてた。

 ひんやりとした風が吹き戦いの終わりを祝福するようだった。

「見て、ステラ」

 ミソラは地上を指さした。

「……綺麗だね」

 都市の電気や明かりが美しく地上を飾る。

 道路を移動する車両のライトに建物の明かり。

 そして、星空。

 すべてがただただ美しかった。

「今回は突き合わせちゃってごめん。私が責任をもって謝るよ」

「気にしないで。それに、私も飛びたかったから。二人で謝りに行こう。それでさっきのことも伝えないとね」

「うんっ」

 ステラもミソラも真面目な少女だが、空のことになると勢いが止まらなくなる。

 そんな二人の無断飛行は一年の生活中でも大きな思い出であり友情を強くする出来事となった。

 


 

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