予兆

第37話 下剋上

 夏期休暇があけ最初の授業へ向かっていると第二航空隊の教室前で何やらミチと誰かが言い合ってるようだ。

 よく見るとそれはステラと同じクラスのライカ。金髪で一つ結びにしている少し口調が荒い生徒だ。

「あんた、うちのトップのやつらとつるんでるからって生意気なんだよ!」

「変な言いがかりやめてよ! 別にあなたに何かしたわけでもないじゃん!」

 激しくなりそうなところでステラが割って入った。

「二人とも朝からどうしたの?」

「ステラ~、そっちの教室の子がいちゃもんつけてくるからさー」

「ふん! 第二の一位だか知らないけど所詮は第一のおまけよ」

「なにっ!」

 暗黙の了解というものがある。

 ここ言うならば第一は第二より優秀で第二は第三より優秀であるという事実をなるべく公言しないということだ。

 誰かが決めたわけではない。

 しかし、無益な争いを生まないためにみんな言わないほうがいいとわかっていた。

 上にたつ人間にとっては余裕かもしれないが、それは時に牙となって襲いかかる。

「じゃあ、わかったよ! だったら私と――」

 ミチが何か言おうとするとステラが何食わぬ顔で言った。

「だったら下剋上出せばいいんじゃない?」

「ま、まさかステラがそれ言うなんて」

 ミチも下剋上を出そうとはしていたがステラに言われると思ってなくて完全に意表を突かれた。

 ライカはどこか満足げな表情を浮かべている。

「ライカさんもいいよね?」

「断るわけないだろ。だが、いいのか? ステラの友達だろう。一方的な戦いになるぞ」

「ミチは案外強いよ。それにまだあまり話したことないけど私的にはライカさんも友達だよ」

「……ったく。あんたはすぐそうやって笑顔を振り撒く。いつか悪いやつにだまされるぞ」

「さすがにその辺は大丈夫だよ」

 何だかんだで第二航空隊一位ミチと第一航空隊十二位ライカによる下剋上バトルが決まった。

 指定した相手への下剋上は成績で順番に入れ替わるものとは違い、勝利すれば立場が逆転する。

 特にマスター科は決着の付け方がわかりやすくすぐに結果を出せるためほかの科よりも下剋上は通りやすい。

 現に第二と第三は激しく生徒が入れ替わっている。


 食堂でミチは一人黙々とライカの映像を繰り返し見つつ対策をたてていた。

 ステラとミライとカコは邪魔しないためにすぐ隣の席についてご飯を食べていた。

「まさかミチが下校上ね~。でも、もし勝ったらみんな第一ってことになるんだね。ミライはそうそうに第一になったし」

「あれは運がよかったというか先輩からの推薦もあったからね」

「推薦?」

「そっか。第一のステラは推薦知らないよね。成績優秀な生徒や先生が生徒を上の隊へ推薦してくれると下剋上出さなくても入れ替われたり枠を一つ増やしてくれたりするの」

「そんなことできるんだね」

 すると、ミチが頭をくしゃくしゃとかき困ったような表情を浮かべていた。邪魔しないようにしていたが気になったステラは声かけた。

「どうしたの?」

「ライカの戦い方がよめない……。パワフルな近接戦闘が得意なのはわかったけど、どんな相手でも距離を積めて一撃入れる根性が強すぎる……」

 ライカはリリーカにこそ順位を抜かれたが実力で言うならばトップ10入りしても誰も疑わないほどだ。

 戦い方は長い武器を利用する近接戦闘。飛び道具は最低限で戦うことを好む。

「なら両方使って戦ったら」

「両方?」

 ステラの案はシンプルだった。

 ただ、マシンガンとソードで戦うというもの。さらにステラはもう一言。

「私やリリーカ、それにミソラたちの戦いをみた上で挑むといいよ」

「ライカじゃなくてステラたちの戦いを見るの?」

「うん。まずはミチの才能を伸ばさなきゃ」

 ステラはミチのとある才能に本人よりも先に気づいていた。


 数日後、1年第一航空隊と第二航空隊生徒全員が見守る中、ライカ対ミチの下剋上戦が開かれた。

 場所は屋外フィールド。

 今回は公平に判断するため5年第一航空隊アキラが審判兼ヘルパー務める。同時に1年で唯一の個人ドレスを所有するステラもヘルパーを担当することになった。

「あの、アキラさん。ヘルパーって何をすればいいんですか?」

「ヘルパーってのは本来はスカイドレスで救助や支援を行う役のこと。今回は威力は弱めてるけど実弾と実刀を使うから危ないときに止めに入るの」

「重要な役目ですね。しっかり見てないと」

「下剋上はつい熱くなって必要以上に攻撃をかけることもある。そんなときはワンオフ機の性能で守ったりするんだよ」

 アキラはヘルパーとして立ち会うことが多く緊張するステラに優しく親切に教えていた。

 

 ライカとミチはVⅡ型ベーシックスカイドレスを攻撃をセーブモードに変え好みの武器を選び位置についた。

 ライカはすでに黒い長い刀身のソードを手にもっている。最初から格闘戦を仕掛けるつもりだ。

「ハンドガンとか使わないの?」

「このソートだけでいいのさ」

「舐められてるわけだ」

「好きに解釈しな」

「私は使えるものはなんでも使うよ」

「それでなきゃつまらない。第二のトップがソードだけで倒される姿を晒してやる」

 挑発的なライカの態度にステラはどこか違和感を感じていた。

「もしかしてわざとなのかな……」

 アキラが二人の間に入り戦いの説明を行う。

「今回は普段の模擬戦と違い実際の武器を扱う。そのためドレスはセーブモードにしてもらうことになっている。二人とも設定出来てる?」

 二人は頷いた。

「勝利条件は装甲の破損、エネルギー切れ、武器の消失、それと相手の敗北宣言によって決まる」

 実践形式ではあるがマスターが大きな怪我をしないように遠隔で武器やスラスター機能の停止を行う権限をアキラがもっている。

「今回は私、5年第一航空隊アキラと1年第一航空隊のステラでヘルパーを務める。もし何かあればどっちかに通信を送るように」

 余裕な表情を浮かべるライカとは対照的にミチは緊張で胸が苦しくなっていた。鼓動が早まり呼吸が荒くなる。

 気持ちを落ち着かせようとすればするほど鼓動を意識してしまい鼓動の早さにつられ呼吸が荒くなる。

 そんなミチの状態を察したステラはミチのまえに行き呼び掛けた。

「ミチ、緊張してるでしょ」

「ステラ……。うん、いざみんなに見られる場所で戦うってなると怖くなってきちゃって……」

 ステラはミチの両手を握りアイシールドモニター越しにしっかりとミチの目をみた。

「怖いよね。ライカは強い。私も格闘戦だけだったら敵わないかもしれない。でも、ミチには私たちがついてる。ライカを突破する方法はそこにあるよ」

「で、でも。ただの真似事じゃ本物の技術には敵わないよ……」

「信じて。私たちの力を、ミチの力を」

「私の力……。うん、わかった。私、やってみるよ!」

 ミチの瞳に輝きが戻った。

 ステラは笑顔をみせ持ち場に戻ろうとした。

「ステラ、私にはなにかないのか?」

「ライカも緊張してる?」

「まさかんなわけない」

「だよね。でも、一つだけアドバイス」

「アドバイスだと?」

「ミチは一人じゃない。あそこには私たちがいるよ」

 ライカにはステラの言っている意味がさっぱりわからなかった。だが、ステラが意味のないことをこんなタイミングで言うとは思わなかった。

「まぁ、頭の片隅に入れておくさ」

「うん」

 ステラが持ち場についたことを確認したアキラは二人のベーシックスカイドレスに異常がないことを確認し下剋上戦開始のカウントを始めた。

「傷つける覚悟がないと私には勝てないぞ」

「……やってやる。私だってマスターだ。いつまでも同じとこで止まってちゃいけない。私も飛ぶんだ!」

 下剋上戦が始まった。

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