第34話 英雄

 夏期休暇も残すは半分足らず。

 Soraシステムの最終調整はブルースカイの完成後になるためステラは時間をもて余していた。

 食堂でカコと二人で朝食をとっているとカコが突如行った。

「よし! 街に出よう!」

「唐突だね」

「だって、やることないも~ん。私の方もだいぶ終わりかけでさ。だから、夏を楽しもうよ! それに、ステラは都市を救ったことをもっと自覚した方がいいよ」

 唐突な提案だったがステラはそれを乗り気だ。まだサマーフェスティバル意外でスカイシティには行ったことがなかったから興味津々だった。


 青空学校から専用のオートパイロットバスでスカイシティのバスターミナルへと向かう。

 賑やかなバスターミナルへ到着するとエスカレーターで移動した先には高く吹き抜けた広いフロアに大きなモニター。屋内だというのに噴水があり各地には音声ガイド。

 走る子どもたち、楽しそうにベンチに座って話している男女。賑やかで穏やかな光景が広がっていた。

「みんな楽しそう」

「ステラは来るの初めてだったね。ここは数ある都市の中でもトップレベルの科学力に広さなんだよ」

 一時はリバースの兵器により都市は壊滅の危機に陥ったが、ステラの活躍によりいつもの日々を取り戻した。

 自慢するわけでもない、してあげたなんて思ってもいないが、ステラはほんの少しだけ守れたことに誇りを感じた。

 弱いものを守る。助けてあげる。手を貸してあげる。それはステラにとっては普通のこと。しかし、そんなことをする機会は今までなかった。

 そして、ステラは空を飛ぶ力を手に入れ、戦う力を、守る力を手に入れた。

 まだ未熟で不安定なものであるが確かな可能性とぶれない精神をもっている。

 ステラはこの光景を守りたいと、心の底から感じていた。

「あっ! もしかしてステラさんですか?」

 制服の女子高生が三人やってきた。

「は、はいっ」

 ステラは戸惑っていた。

「こんなとこで会えるなんて嬉しいです! あの写真一緒に撮ってもいいですか?」

「あーずるい! 私もツーショットお願いします!」

「邪魔しちゃ悪いよ」

 ステラはスカイシティで英雄的存在として認知されていた。サマーフェスティバルで都市を救う偉業など軍人でさえも中々体験することじゃない。

 それに加えまだ1年で女の子。

 それが都市の人たちの心を鷲掴みにしたのだ。

 もちろん、様々なマスターやパイロットにも賛美の声は上がったが、爆発を避けながらスカイタワーへ飛ぶ姿。キューブをもって天高く昇る姿は英雄そのものだった。

「ありがとうございます!」

「私、握手してもらっちゃった」

「優しそうな子だったね」

 三人組の女子高生は最後まで興奮気味にステラに話しかけ満足そうに戻っていった。

「ねっ。ステラって今となっては英雄なんだよ」

「なんだな恥ずかしいね。その場にいたからできることやっただけなのに」

「例え別の人間が同じ立場になったとして、ステラと同じことができるとは限らない。行動で示したからこそ英雄なんだよ」

「そういうものなのかな」

 人を守るということの本質などはまだ理解できないが、自身がその立場になれたことをステラは喜んだ。


 スカイシティは科学の街。

 最先端技術の科学が集まり老若男女とはず暮らせるように設計されている。

 しかし、小さな事件は起きてしまう。

 科学力が高いゆえにそれを組み合わせることで簡単に武器を作れてしまったり、曲がった方向に進んでしまった科学者なども出てきてしまう。

 それに加え経済の回りがいいこの都市では外部からやってきた人間が強盗やスリなどで悪どい稼ぎをすることもある。

 そんなときに活躍するのがスカイドレスである。

 科学力の向上による犯人を取り押さえる武器はいくつもあるがそれは相手も同じ。

 そんな時にスカイドレスは女性専用で設計開発もブルーストーンという特殊な鉱石がなければ行けない。弱点が解析しづらいと同時に上空も地上も制圧する。

 以前は人間スケールの武器を使い取り押さえを行っていたが相手も賢くなり今では全身を包むパワードスーツなどで対抗を始めた。

 そこからは対犯罪用ではなく対ドレス、対ファイターなど様々な場所で力を発揮する高性能な汎用武器を搭載している。


 カフェで楽しく話している二人に頼んでもいないデザートがやってきた。

「すみません。これ頼んでないです」

 すると、カフェの女性店員は笑顔で答えた。

「店長からのサービスです。私の気持ちも添えておきますねっ」

 奥にはサングラスをかけたスキンヘッドの店長が親指をたててステラとカコをみていた。

「ありがとうございます!」

 美味しそうに食べるステラに店長も満足していた。

 

 今日は多くの人たちと接する機会があった。

 そもそも青空学校というだけでも注目されるというのにそれに加え英雄という肩書きまで重なれば誰も放っては置かない。

 しかし、ステラに会った誰もが思ったこと。

 それは、英雄は何も特別ではない純粋な少女だったということだ。

 エリートで傲慢でもなく、お嬢様でもなく、ただの普通の少女。それに、何事も経験の浅い小さな町で育った田舎娘であるということ。

 逆に言えばそれこそがみんなの心に響いた。

 少女が一歩踏み出し、広大な空で多く人間を救った。たった一歩から始まったことだ。


 日が落ち始め夕日が街を照らす。

 バスターミナルへと向かう道中、ステラは黒いツインテールの見た目10歳程度の少女に呼び止められた。

「あ、あの! 私も、私にも。ステラさんみたいに勇気を出して一歩を踏み出せますか?」

「もちろん。誰だって目の前に道は広がってる。自分の意思で選択して一歩を踏み出す。みんなできるよ。君もね」

「で、でも! 怖いんです。失敗したらどうしようって。笑われたらどうしようって。そう考えると怖くて震えるんです」

 少女には夢がある。

 しかし、恐怖で前が見えず歩みを止めようとしていた。

 ステラは目線を会わせて答えた。

「一歩を踏み出すために大事なのは、信じること。それだけだよ」

「信じる?」

「うんっ。家族や友人や近所の人、なんでもいい。でも、一番信じなくちゃ行けないのは自分だよ」

「私を信じる……」

「自分を信じれば回りも答えてくれる。私なら空が答えてくれる。君も、もっと自分と夢を信じて」

 ステラは空で死の恐怖を体験した。

 大好きな空で、夢描いた空で、恐怖したのだ。

 そんな時に家族や夢が走馬灯のように駆け巡り、みんなを信じ、自分を信じ、空が答えてくれた。

 再び前に進む。いや、空へ飛ぶ勇気を授けてくれた。

 その信頼は周りの人間さえも動かし、ステラのために力を貸した。

 信じること。

 何の変哲もないことだが、ステラのまっすぐな精神と経験が少女の心の奥深くまで届いた。

「ステラ、もうすぐ時間だよ!」

「わかった。――がんばってね」

 ステラがバスターミナルへと向かい走ると。

「ホープ! 私の名前はホープです! いつか、また会いたいです!」

 希望の名を持つ少女に答え、ステラも大きな声で返事をした。

「ステラ! 私はマスターのステラ! 何かあったら、いつでも飛んでいくよ!」

 ステラは手を振り、カコと共にバスターミナルへと走った。

「ステラさん……。私、がんばります!」

 

 強い思いは自らを限界の先へと導いてくれる。

 ステラの純粋な瞳の先にあるものは果てのない空。

 大きく揺るぎない夢を叶えるために努力を続ける少女に魅せられたものに希望を与える。

 その一人目がホープだった。

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