第30話 いまいるべき場所

 あれから三日後。

 まだ完璧ではないが回復したステラは筋肉の回復も兼ねて校舎を散歩していた。

 普段の賑やかな光景が嘘のように1年の校舎は静まり返っていた。

「みんな帰っちゃったんだ」

 3年目からは人によって残った作業をするために残る生徒もいるが、1年と2年はほとんどが帰ってしまう。


 ステラは一人1年の食堂へいくとおばちゃんが一人厨房に立って暇をもて余していた。

 一応、食堂は使えるがほとんど人がいないため作る人間も一人で事足りるのだ。

「おばちゃん、オムライスいいですか?」

「おっと、来てたんだね。……あら? あんたステラちゃんじゃないか。もう体は大丈夫なのかい」

 ステラの活躍はスカイシティや学校、それに軍にも届いていた。

「はい。三日前に起きたんですけど体がまだ弱ってて。今日から歩けるようになりました」

「それはよかったぁ。お友達がここでいっつもステラちゃんの話しててね。帰る前に目覚めたらいいなって」

「お寝坊しちゃいましたね。まさかこんなに静かだなんて思ってなかったですよ」

「毎年この時期は静かなもんさ。おっと、立ち話させちゃってごめんね。すぐ作るから座って待ってて」

「は~い」

 ステラは普段はあまり取れない窓際の席に座った。誰もいない庭園には噴水の音だけがこだましている。

 メールや電話、その他さまざまな機能が使える小型端末エクスデバイスを見ているとミチからビデオメッセージが届いていた。

 開くとそこは第一航空隊の教室。

 ミチやミライ、ミソラにクルミ、ウララにヤマネ、もちろんリリーカもいる。

「ステラー! 体調は大丈夫? 本当はステラが起きるのをみんなで待ってたかったんだけど、もう行かなきゃ行けないから。私が代表してメッセージを送るね。で、みんなから一言ずつメッセージがあるから最後までみてね」

 ミチが下がるとまずはクルミが出てきた。

「今回は何も力を貸せなくてごめんね。次こんなことがあったときにはスナイパーで援護してあげるから安心してね!」

 次にヤマネ。

「あまり関わってないけどステラがすごい人だってのは伝わったよー。あまり模擬戦とか好きじゃないけど戻ったら一戦よろしくねー」

 次はウララ。

「ステラが戦ってる中避難していた自分が情けないよ。でも、次は私だって活躍して見せるからね!」

 次にミライ。

「ステラに頼まれた調べもののおかげでリカの処分は本来より軽いものになったよ。ステラの部屋にレポートがあるから確認してね。――次は全力でステラのことサポートするからね」

 次にミソラ。

「活躍のほどは聞いてる。正直悔しさもあるかな。でも、あなただったら納得できる。次はオリジナルのドレスでいつか一戦交えたい。考えといてね」

 そして、リリーカだ。

「ほんといつもあなたは無茶ばかりしますわね。きっと考えるよりも体が先に動くタイプなんでしょう。でも、そんなあなたが私は好きですわ。また、一緒に空を飛びましょう。そして! 次こそは私が勝ちますわ!!」

 いつも通りのリリーカにステラは小さく笑った。

 最後にミチが出てきた。

「みんなステラのこと心配したし待ってたよ。夏期休暇が終わったらいろんなこと一緒にしようね」

 最後にみんなが手を振り映像は終わった。

「一人じゃ……ないよね。……よし! もっとがんばるぞっ!」

 ステラは自身の頬を軽く叩き決意を新たにした。

「はーい、オムライスだよ」

「あっ、わざわざありがとうございます」

「いいんだよ。どうせ暇だから。あ、スプーン忘れちゃった」

「それくらい自分で取りに行きますよ」

 ステラが立ち上がるがすぐにバランスを崩し倒れかけた。食堂のおばちゃんが支えてくれたおかげで怪我をせずに済んだが、まだ自分の体が思うように動かないことに違和感を感じていた。

「大丈夫かい? 取ってくるから座ってなさい」

「す、すみません」

 ステラの体はまだ完全には回復していなかった。十日もベッドの上で過ごしたのだから筋力は低下し感覚がそれに合わないのだ。

「はい、スプーンだよ」

「ありがとうございます」

 美味しそうにオムライスを食べるステラをおばちゃんはじーっとみていた。

「もしかしてケチャップついてます?」

「いやぁ、そうじゃなくてね。ステラちゃん、最近まで表情が固いというか疲れてたような気がしててね。返事も淡白だったから心配してたんだ」

「自分じゃわからなかったです」

「きっと練習や模擬戦をがんばってたからだろうね。知らず知らずのうちに疲労がたまってたんだよ」

「いまはもとに戻ってます?」

「うん! とっても可愛いよ!」

「そ、そう言われるとなんて返せばいいかわかんないですよー。で、でも。ありがとうございます」


 ステラは家には帰らなかった。

 もっともっと成長した姿を見せるためにいま帰るわけにいかなかった。母をたった一人寂しい思いをさせてしまったことを自身の成長で喜んでもらおうとしたのだ。

 帰りはしないがステラは手紙を出した。

「お母さんへ。私、やっと空を飛ぶことができました。いろんな人たち一緒に飛んだり練習したり模擬戦をしたりと、中々忙しい日々を送ってます。スカイシティの事件のことはもう知ってるかな? 正直にいうと私はあの事件の中心にいました。一歩間違えれば死んでいたかもしれません。ですが、青い髪のマスターが助けてくれてなんとかなってます。自分の未熟さと思い上がりを強く痛感しました。でも、だからこそ。もっと立派になってからお母さんに会いたいとより強くそう思ったから、今回は帰れません。ごめんなさい」

 ステラの母は手紙を読みながら寂しげな誇らしげな表情を浮かべる。

「私にとってたった一人の家族であり帰る場所はお母さんがいる場所です。でも、今はこの学校が居場所であり夢を叶えるステージ。私を青空学校に送ってよかったと本気で思えるようにいっぱいがんばります! いままでありがとう! これからもいっぱい応援してくれたら嬉しいな! お母さんも体に気を付けてね。また手紙を送るから。またね」

 ステラの母は手紙を読み終えてもしばらくそのままでじっと手紙を見つめていた。

「本当に……そっくりなんだから……」

 母は小さく呟いた。

 

 

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