第29話 まだ見ぬ空

「ん……」

 ステラが次に目覚めるとそこは医務室だった。

 白いカーテンが揺れ隙間から透き通るような青い空が見える。窓から優しく撫でるような心地よい風が流れる。葉っぱが擦れる音が僅かに聞こえ唄うような鳥の囀ずりが穏やかな気分にさせてくれる。

 体をゆっくり起こすと前には白衣を来た茶色いショートの髪を外はねさせた女性が古めかしい木の机で何やら書類にペンを走らせている。

「あの……」

「あっ、起きた?」

 女性はゆっくりと振り返り優しい声でステラに言った。

「体はどう?」

 女性はベッドの横にある背もたれのない丸い椅子に座り問いかけた。

「大丈夫です。その、私はどうやってここへ?」

「どこまで覚えてるかな」

「えーっと、キューブの爆風から青い髪の……なんだっけ。スター・ロードの人が守ってくれたんです。それで、その人とお話ししてやっと終わったと安心して気づいたらいまです」

「その青い髪の人は誰だかわかる?」

「お会いしたのは二度目なんですけど名前は聞いてないです。二回とも助けてくれたんです。いい人ですよね」

「そうだね。今度は名前聞いておくといいよ」

「そうですねっ! 忘れないようにしないと」

 ステラは少しずつサマーフェスティバルの記憶を思いだし気になることがあった。

「そうだ、サマーフェスティバルってどうなりました?」

「君のおかげで死傷者はゼロだよ。次の日は開催できなかったけどもいろんな学校の協力もあって一週間で元通り」

「よかった……。え、……いま一週間っていいました? 私、もしかしてあの日からずっと」

「寝てたんだよ。一週間ね」 

 爆発の衝撃は完全にスター・ロードのスカイドレスが防いだがいままで積み重なってきた疲労が一気に体を襲いステラは長い眠りについたという。

 そもそもが1年にしては戦いすぎたのだ。

 スカイドレスを自由自在に扱えるからと言っても体はその負荷に慣れていない。

 思えば実技訓練の初日からステラはトラブルに遭遇した。あれからステラは何があっても対応できるように人一倍スカイドレスのシュミレーションをこなし練習を怠らなかった。

 その間にクルミとのシミュレーションマシンでのバトル、大地学校との模擬戦、ペイント戦、パトフライヤーでシミュレートモードによる戦闘、そしてサマーフェスティバル。

 そのどれもで勝利を納めた。

 今までまるっきり違う生活に体は限界を向かえた。

 だが、それを精神力でねじ伏せ最後の最後まで死の恐怖に苛まれながらも都市を救った。

 常人ではなしえないことをやってのけた。

「今は夏期休暇で学校ないはとっても静かだよ。といってもここはいつも静かだけどね」

「みんな家に帰るんですか?」

「だいたい帰るかな。でも、残ってる人もいるよ。君の友達も帰る前にここに来てた。ミチとかミライとか。あと、クルミにウララとかミソラとかね。ソレイユも来てたね」

「みんなに心配かけちゃったな……」

 女性は小さく笑い言った。

「あなたが気にすることないよ。あなたは次会うときのためにしっかり体調管理することだよ」

「……そうですね。もっと高く飛ばないと」

 

 ステラがいるこの場所は旧校舎の医務室。

 旧校舎そのものはもう存在しないが、医務室が対応できなくなったときにこちらで対応する。

 女性の名はマリー。

 旧校舎のためセキュリティが薄く常に担当する人間がそばについている。

 そもそもステラがここへ運ばれたのは処置が終わったさいに、ミチやミライなどが起きたときに空が見えるほうが喜ぶだろうという気を聞かせてくれたからだ。


 マリーは作業に戻り再び机で書き物をしていた。

 ステラは横になり窓から見える青い空を眺めていた。

「リバースの人たちもこの青い空に思いを馳せたりするんでしょうか?」

「するかもしれないね。もしかしたら私たちと何らかわりないかもしれない。少しだけ使う力が違うだけ。いつかはまともに調査ができるといいんだけどね」

「調査できてないんですか?」

「フロントとリバースの境界線にはオーロラベールっていう特殊なバリアみたいなのがあるの。私たちの力はそれを越えると使えない。向こうも同様なんだけどなぜかリバースの力がたまにこっちへ来るんだよ」

「その調査が進めばこんなことはもうなくなりますよね」

「今より減るんじゃないかな。同じ星に住むもの同士仲良くできればいいけど。お互いの力の質が違いすぎて価値観もずれてるんだ。だから、出会わないようになってるのかもしれない」

 ちょうど星の半分がフロントでもう半分をリバースが所有している。

 明かされていない不思議の総本山のような場所だ。

 未知なる領域であり新鮮な場所であり入ったら戻ってこれないという話しさえも。

「いつかそこへ行ってみたいです。大地も海も空も繋がってるんです。きっとわかり会えると思います」

「そうだね。でも、まずあなた自身の体の回復を優先してね」

「はいっ」

 リバース。オーロラベール。未知なる領域。

 そして、宇宙。

 まだ、ステラの知らない空がたくさんある。

 ステラの空は新たな高みへと進もうとしていた。

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