第13話 穢れうつし

 ペイント戦は決闘方法の一つ。

 スカイドレス1世代のころはまだ素材もなにもかも不足していた。こんなふうに量産型のドレスなどなく、自身のドレスは命と堂々の価値だった。

 そんなときに発案された傷つけずに白黒つける決闘方法。

 昔は簡単には取れないペイントを使用し相手が汚れた自身のドレスを洗う姿をあざ笑うことが勝者の特権と言われるほど。

 現代ではドレスはたくさんあるがそれでも汚されるのはマスターとして黙ってはいられない。そのプライドは今の時代にも引き継がれている。


 ミコトは軽く飛んだ状態で低空を支配していた。ステラはその理由を瞬時に見抜く。

「武器狙いか」

「ご名答! ハンドガン、さらにペイント弾となれば発射されてからでも余裕で避けられるわ!」

 ステラはすかさずハンドガンでミコト撃ちまくった。

 最初は狙いを定め少しずつ予測しながら撃つがミコトは華麗に避けていく。ハンドガンでは当てることが難しい。倒しにいくならステラも低空に降りて戦うしかない。

 しかし、ステラは降りなかった。

 空にいることを選んだのだ。

「案外頑固なのね~。まぁ、だったら武器は取らせもらうよ!」

 別の生徒がグラウンドの中央に武器を設置。

 設置された武器はマルチマシンガン。

 モードを切り替えることで通常の連射、連射を抑え命中精度上げたり、単発の威力を上げるモードなどが搭載されている。

「さぁ、私のターンよ! ――ってどこいんのよ!?」

 ミコトは武器を取るために低空を支配し陣取っていた。

 だが、武器を取ったことで低空にいる必要のないミコトは必然的にステラを追いかけなければならない。マシンガンの有効射程範囲の外にステラは飛んでいた。

「ペイント弾は弾丸を打ち出すのではなく液体を勢いよく射出し弾丸のように飛ばすもの。だから、弾速は襲い。弾丸よりも勢いがないということは、それだけ重力の影響も受けやすい。上方向ならなおさら。先輩はここまでくるほかないですよ!」

「ぐぬぬ……。考えたなぁちくしょう!」

 ミコトは決して空での戦いが苦手はない。だが、事前に聞いている異名やうわさからステラのことを過度に警戒していた。

 ここでギャラリーが見ていることもあり無様に負けるわけにもいかない。

「いくしか……ないか……」

 ミコトはステラの高さまで浮上した。

 ステラはそれを眺めている。

「撃つチャンスをみすみす逃したけどいいの?」

「空なら私のほうが上ですから。せめて上がってくるのくらいは見ておこうかなって」

「中々挑発的じゃない……。いいわ! 先輩の恐ろしさ見せてあげる!!」

 ミコトは右手にマシンガン、左手にハンドガンを構え接近しながら撃ってきた。

 ステラはそれを縦横無尽に飛び回りながら避けていく。それはさながら踊りのように美しいものだった。


「いいないいな。ステラ楽しそうじゃん」

 下から見ているカコはステラの楽しそうな姿に満足していた。

「空にあの子は本当に別人ですわね。挑発的で好戦的で。でも、気づいたら空で舞っている。さすがに私でもついていけませんわ」

「クルミに勝った時もモエに勝った時も、リリーカに勝った時も。ステラはいつも相手より上にいる。あれが私より順位が下なんておかしいよ」

「私のドレスが不調を起こした時もそうだったわ。あの子は空へと飛んだ」

「1年であれだからね。今後ステラのドレスをいじったりできたら楽しいだろうなぁ」

 3人のイメージするステラは常に空にいた。

 地上にいるステラも好きだが、空にいるステラは曇りなき希望の光。

 雨上がりの太陽のように輝かしい存在だった。

 同じ1年であるというのに大きなさがそこにはあった。


「チッ! なんでまったく当たんないの!?」

 ミコトの命中精度決して悪くない。

 むしろ、ミコトは高速戦闘よりも射撃が得意なタイプ。それにすべてが虚しく外れてるわけではなくところどころ当たりそうだからこそ余計に歯がゆかった。

「リロードか」

 ミコトがカートリッジを入れ替え始めた瞬間。

 一気にステラは迫ってきた。

「狙ってたな!」

 急接近したステラマシンガンを蹴り落とした。ミコトはすかさずハンドガンを向けようとするが勢いよくたいあたりを仕掛け武器を落とさせた。

「案外、乱暴ね!」

 ミコトは真上から撃ってくるステラの攻撃を交わしつつ落下するマシンガンを取りに行く。だが、すでに中央に武器が配置されているのも見えた。

「あれはショットガン。あれならステラを仕留めやすいかも!」

 ミコトは落下するマシンガンを無視し全速力で武器を取りに行った。

 そこでステラがとった行動は予想外のものだった。

 普通、破棄された武器を奪ったりうまく攻撃するところだが、あろうことかステラはハンドガンをショットガンがおかれている付近に投げつけた。

 ミコトにあてようなどとは考えていない。

 そもそもこのルールでは相手を汚さなければ意味がない。例えハンドガンをぶつけても無意味。

「よし! ショットガンゲット!! ってうわぁ!?」

 真上のステラを向くとハンドガンが落ちてきた。

「武器を捨ててなんのつもり? いまそこまで行って仕留めてあげるわ」

 すると。

「そこまでですわ!」 

 リリーカが戦いを止めた。

 まだステラもミコトもペイント弾を当ててないというのにだ。

「なに? まだ終わってないはずよ」

「いや、もう終わりましたわ」

「はぁ? 私はまだ一撃もペイント弾をくらってないけど」

「この戦いのルールは理解されてますよね」

「ドレスを汚されることでしょ。マスターにとって命ともいえるドレスを汚されるのは屈辱の証。だからこその決闘。そして、ペイント弾」

「足元よく見てくださいな」

「足元? ――こ、これはッ!?」

 ミコトの脚パーツは泥で汚れていたのだ。

「ど、どうして?」

「先ほどのハンドガンですわ。もし、あなたがそれでも自身のドレスは汚されていないと判断するのならまだ続けていいでしょう。しかし、その泥はステラの意思によって汚されたもの。それは理解できますわね」

 午前中に降っていた雨の影響で地面にはまだ水たまりができていた。

 ステラはそれを利用してドレスを汚したのだ。

 そもそもペイント戦というのは現代になってつけられた名称。 

 古くは「穢れうつし」と言われるものだった。

 ペイント弾を利用するのは武器に装填できるということから利用していたが、本来では手段は問わない。

 相手の意思によって自身のドレスが汚れてしまう。穢されてしまうことがこの決闘の敗北なのだ。

 ミコトは負けず嫌いだ。

 しかし、リリーカ言っていることは理解できるしステラが意図的にハンドガンを投げたことも理解できる。

 ミコトは深呼吸をして落ち着き答える。

「あーあ。私の負けだよ。まったくこんなこと普通考えつくかね」

 ミコトの敗北宣言。

 ステラは3年のマスターに勝利することができたのだ。


 ステラは名残惜しそうな表情を浮かべるがゆっくりと降りてきた。

「やりましたわね! あなた、現状無敗ですわよ」

「そろそろ順位抜かれそうだけどステラだったら素直に渡せるかも」

「ありがとありがとぉ~。助かったよぉ~」

 もっと空を飛んでいたかったステラであったが、みんなの喜ぶ姿をみてやっと地に足を付けた。

「カコ、ドリルの用途聞いてなかったけど何に使うの?」

 ステラの疑問はウララやリリーカも気になっていた。

「あ、言ってなかったね。綿あめ作るの!」

「えっ?」

 3人は同時に言った。

「だから、綿あめだって。あれってくるくる棒にくっつけるでしょ。ドリルでやったらおもしろくなりそうじゃん? だから、使おうと思ってさ」

「ステラさん。あなたの頑張りは綿あめのためだったのですね」

「こっちも忙しいってのに手を焼かせた結果がそれかぁ」

 リリーカとウララがげんなりしているがステラは清々しかった。

「空を飛べる機会をもらえたからなんでもいいかな」

「本当にあなたは空のことしか考えてませんわね」

 第一航空隊の準備もまだ進んでいない中、はたしてサマーフェスティバルに間に合うのだろうか。

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