第4話 波乱の再会

 今日はベーシックスカイドレスを使った先行実技訓練。

 第一航空隊の生徒なかでも重力下におけるシミュレーションを何度もこなし優秀な結果残した者たちだけが先行実技を受けることができる。第二、第三航空隊も見学で来ていた。それ以外にも授業の合間でカコやミライ、そのほかギャラリーが多い。

 ステラもその一人であり、あのリリーカもそこにいた。

「ステラさんもライバルがいなければ張り合いがないでしょう? 本物でも素晴らしい飛行技術をお見せしますわ!」

「シミュレーションみたいに建物に突っ込まないようにね」

「わ、わかっていますわ!」

 リリーカの真骨頂は度胸。

 それが初めてだろうと常に本気で挑む。

 ゆえに重力下のシミュレーションでは機体の重さと重力の影響を受けながらも全速力で飛んだ結果ビルに突っ込んだり家屋を破壊したりと最初の時は中々にひどいものだった。

 しかし、その本気さは誰もにも負けていない。失敗しても全力で取り組むため成長スピードは早かった。

 今ではシミュレーションの上でならアクロバティックな飛行もこなせるほどに成長している。

「では、次。ステラとリリーカ」

 教師のマチルダが二人を呼んだ。

「乗り方はわかりますね」

「はい! もちろんですわ」

 待機状態のスカイドレスはまず足から装着する。

 待機時には靴の部分がステップのようになっておりそこに乗るだけでブーツのように装着される。次に腕パーツに手を通すことで胴体パーツも同時に装着される。

 最後にヘッドギアを装着することで完成だ。

 ヘッドギアと言ってもヘルメットのように顔全体を覆うものではなく。目のところは薄型のアイシールドがついておりモニターの役割も担う。

 髪は露出している物が多くカチューシャのようにギアを装着しそこから電波を受信し通信をする。物によっては耳のように二つのアンテナが伸びたりしているものもある。

 V字型のスラスターが背中に一つ。そこから推進力を発生させる。

 脚パーツには浮力を発生させる装置がありその場で浮いたり着陸時に必要となる。

 用途によって装備品が変わるが今回はD級射撃武器を模したマーカーショットと言われるレーダーの上でのみ反応するダミー武器を腰に二丁据えている。

 スカイドレスを身に着けると機械音声が流れた。

「スカイドレススタンバイ。生体コードを認識。第一航空隊ステラを認識しました。スカイドレススタートアップ」

 ベーシックスカイドレスの装甲を走るラインが光り起動したことをが周りからもわかる。

「では、まずは浮遊。その後、直線に飛びターンしてこちらへ戻ってきてくださ」

「簡単ですわ!」

 リリーカは全速力でターンするポイントまで行き一気に減速した。

「うっ……! 何のこれしき!」

 全速力からの減速は体にかかる重力が強い。

 スカイドレスはブルーストーンと言われる鉱石のおかげで浮力を生み出すと同時に重力制御ができるがそれでも完全になくすわけではない。

 リリーカが苦戦している間にステラは順調にターンをして元の位置に戻ろうとしていた。すると、後ろから高速でリリーカが戻ってきた。

「一番は私ですわ!」

 戻る場所を大きくオーバーしたのちリリーカはゆっくり戻ってきた。

「少々失敗してしまいましたが私の操縦テクニックはどうでしたか!」

「パワフルでとても気合溢れるものでした。あとは繊細さを身に着ければもっとよくなりますよ」

 リリーカはマチルダの言葉に大きく喜んだ。

「ステラは安定した飛行が得意ですね。シミュレーションのデータでも低空飛行では安定しています。低空での高速飛行が今後の課題ですね」

「はいっ」


 次の訓練は高度を上げての飛行訓練。

 この訓練では四年の生徒数人が立ち合いのもと行われる。

 ベーシックスカイドレスには教師側が制御できるように遠隔操作システムがあるがもしもの時のためにスカイドレスの扱いに長けた四年生の生徒がサポートをする。

「今回サポートしてくれるのは四年生第一航空隊のルナ、ソレイユ、ルーチェ、カガリの四人です。空中で何か困ったことがあれば何でも頼ってください」

 ソレイユとステラは目が合うと小さく手を振った。

 すると、リリーカがぼそっとつぶやいた。

「あなたとソレイユさんはどういった関係ですの?」

「入学前に一度あったことがあるだけで深い関係じゃないの。でも、飛行船でソレイユさんは私のことを覚えててくれたんだ」

「いい人ね。私たちも先輩になったら後輩たちにそうしてあげないといけませんわ」

「うん。がんばらなくちゃ」

 ステラとリリーカの番が来ると先ほど同様にスカイドレスを起動さえ空中に浮遊した。

「ここからは私、四年第一航空隊エースのソレイユが教えるね。とりあえず私たちの高さまで飛べるかな」

「ちょっと! あの方エースっていいましたわよ! あなた偶然にもすごい人と繋がってたみたいね」

 エースとはその学年においてアクロバティック飛行、救難支援、戦闘実績など、公に対し様々な成果を出したものにのみ与えられる称号だ。

「こらっ! しっかり話聞いてる?」

「は、はいっ! 来ていますわ!」

「ならよろしい。――二人はすでにシミュレーションで粗方重力下での飛行はこなしてるよね。だから、私が止めるまで自由に飛び回ってみて。高度限界まで、この周辺なら自由に飛んでいいよ」

 それを聞きリリーカはステラへ通信を入れる。

「ステラさん。私とどちらがアクロバティック飛行が得意か勝負しましょう!」

「いいけど私もアクロバティック飛行は得意だよ。また負けないようにね」

「ぐぬぬ……言いましたわね!」

 スラスターの出力を上げ二人は一気に高く飛んで行った。

「ねぇ、ソレイユ。確か二年前に会った子ってあの子なんでしょ?」

 黄色のショートカットヘアをしたボーイッシュな生徒であるカガリはソレイユに言った。

「うん」

「やっぱり運命は二人を同じ空へと導くんだね」

「お姉さんのことを知ったらステラはどう思うんだろう」

「教えるの?」

「いや、私からは何も言えない。それはエトワールさんが決めることだから。でも、ステラが入ってきたことは伝えた」

「何か言ってた?」

「心なしか喜んでたと思うよ」

 そのころ、ステラとリリーカは限界高度ギリギリの場所でアクロバティック飛行をこなしていた。

「私の動きについてこれるかしら!」

「それくらい!」

 回転、ターン、逆さ飛び。急降下からの上昇、スクリューターンなど様々なアクロバティック飛行は見ている生徒たちの注目を浴びた。

「はぁ~! たまりませんわ! 私の素晴らしい技術をみなさんが喜んでみているこの時間!」

 すると、突如としてリリーカのスカイドレスからアラート音が鳴り始めた。

 それと同時にマチルダの持っているタブレットからリリーカのスカイドレスへのアクセスが不能に。通信もつながらず唯一会話できるのは近距離にいるステラだけだった。

「リリーカどうしたの?」

「わ、わかりませんわ。スラスターの機能がおかしいですわ。それに脚パーツも不安定に」

「高度限界じゃないはずなのに……」

 四年生は下からその様子をうかがっていたが通信がつながらなくなったため向かおうとしたその瞬間だった。

「ちょっと! なんですのこれ!?」

「リリーカ!?」

「スラスター再起動して出力が――」

  言いかけるとともにスラスターは最大出力で噴射。リリーカは地面へと急降下していった。

 動き始めたリリーカに安心したのか油断していた四年はその場って止まってしまった。

 ステラも最大出力でリリーカを追いかける。四年が異常に気づいたのは二人が下へと通り過ぎてしまってからだった。

 白く長い髪の生徒のルナがソレイユに言う。

「リリーカのドレスからアラート音が!」

「まずい!!」

 ソレイユも慌ててスラスターの出力を上げたがすでに最高速に達していた二人には加速が追い付かない。

 ステラはなんとか手を伸ばし掴もうとするがギリギリで届かない。

「リリーカ! もっと手を伸ばして!!」

「やってますわ! でも、重力がッ!!」

 ステラは考えた。

 あと少しリリーカよりも速く飛べれば手が届くと。

 そこでステラがとった行動は無謀ともいえるものだった。

「脚部パーツをオミットしてパージ!! 武器を捨てて最後にギアもパージ!」

 ふくらはぎについている脚部パーツを外す選択を取った。

 これを外してしまうと浮力が落ちてしまうためその場浮くことができなくなる。しかし、軽力化に成功しリリーカの手を掴むことに成功した。

 しかし、地上まではあと少し。スラスターを減速させても間に合わない。

「どうしますの!?」

「止まれないなら……飛べばいい!!!」

 リリーカと自身のスラスターが地面を向くように体の向きを変える。

 この状況下で背中を地面に向けるなど一年のできる発想ではなかった。

 だが、これが正解だった。

 スラスターを減速せずにいわゆる逆噴射の形をとったことで最大出力を維持したまま空へと急上昇。

「やりましたわ!! ……でも、これからどうやって止まりますの?」

「ごめん、そこまで考えてなかった……」

 二人は再び空へと上がる。

 そこを四年生がリリーカのスラスターを破壊し減速させて受け止めた。

 その後すぐにステラもソレイユに受け止められ無事に事なきを得た。


 地上に戻ったステラとリリーカと四年生。

 マチルダは安心してステラとリリーカを抱きしめた。

「何もしてあげられなくてごめんね。怖かったでしょう」

「わ、私ならこんなのへっちゃらですわ……!」

「でも、脚震えてるよ」

 ステラは小さく笑いながら指摘した。

「こ、これは武者震いというやつですわ!」

 四年がリリーカのドレスをいじっているとそこから不明なチップをが発見された。

 どうやらそれの影響で遠隔から不具合が起きるように誰かが操作したことがわかった。


 授業が中断されリリーカは念のために医務室へ。 

 ステラもあとで行くことになっていたが緊張でまだ落ち着かなったためベンチに座って空を眺めていた。

 すると、ソレイユがやってきて隣に座った。

「お疲れ様。ほら、冷たい飲みものだよ」

「あっ! ソレイユさん!」

 ステラは咄嗟に立ち上がるがソレイユは座るように促した。

「さっきのすごかったね。私びっくりしちゃったよ」

「い、いえ。無我夢中で私自身よく覚えてないくらいです」

「火事場の力って感じか。でも、咄嗟にあれだけの判断ができるってのは才能だよ。普通はあんな緊急時はサポートを受けながら対応するもんだよ」

「目の前で起きてることの最善がどれかをなんとなくで選んだだけなんです。そんな大したもんじゃないですよ」

 リリーカが落ちていくから追いかけた。

 最大出力だったから自分も最大出力に。

 追いつかないから軽力化してさらに加速。

 止まれないなら飛べばいい。

 言葉にすればシンプルだがステラには決定的な感情が一つ抜けていた。

「怖くなかった?」

「えっ……」

「初めての実技訓練で初めてのトラブル。こういったら悪いけど、まだあってそんなに経っていない友達を助けられなかったとしても誰も咎めない。それでもステラは命がけでリリーカを助けた。怖くなかったの?」

「怖くないですよ」

 ステラはあっさりとそう答えた。

「だって、空は希望です。私が空を信頼してるから空も私を味方になってくれる。だから、私たちは地上に落ちるんじゃなくて空へ飛べたんです」

「……」

 あまりの清々しく答えるものだからソレイユはびっくりして言葉が出なかった。

 そして、小さく一言だけ漏らすように言った。

「似てる……」

「何か言いました?」

「いや、こっちの話だよ。その考え方は結構ぶっとんでるけど私は好きだよ」

「ぶっとんでないですよー! あ、いや飛んではいるんですけど。えーっとそうじゃなくて……」

 こうしてみればただの女の子なのだ。

 ただ、空というフィールドにいるときは誰よりも輝き誰よりも自由に飛ぶ。

 それがステラの真骨頂だ。

「おっと、そろそろ行かないと」

「あの、また会えますか?」

「もちろん。四年と五年は後輩に教えることが多いからきっとまたすぐに会うよ」

「よかった……。あの! いつか私と飛んでくださいね!」

「いいよ。その時を楽しみにしてるね」

 こうして初めての飛行訓練はトラブルに見舞われたが無事に終了した。

 ソレイユとの再会も果たしステラはさらに高く飛べるよう決意をみなぎらせた。

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