第3話 雨のち晴れ

 とある休日の日。

 雨で外に出れず曇った空を眺めながら紅茶を飲んでいるステラのもとへやってきたのはカコだった。

「やぁやぁ、こんなとこで黄昏てどうしたんだい?」

「青空が見えないなぁ~って」

「今日は降水確率100%だからね。暇だったら私とメカいじりする?」

「メカってスカイドレス?」

「うん。まぁ、パーツ作ったりシステム組んだりとかだね。メカニック科のテストはオリジナルドレスを作ることだから今のうちからちょっとずつ作ってるんだよ」

「まだ入学してあまり経ってないのに早いね」

「マスターとサポートが何不自由なく戦えるようにするのがメカニックだからね」

 早速カコの部屋に行ってみると案外こざっぱりとしていてメカメカしい感じは一切ない。

「ちょいと待ってね~」

 奥にある扉のパスワードを打つとその先には同じ大きさの部屋がもう一つ広がっていた。

「すごい……。工学って感じがするね!」

 たくさんの道具にパーツの数々。最先端のコンピューターから記憶回路に小型シミュレーター。

「メカニック科は部屋が二つあるの。一人で黙々と作業できるようにっていう配慮なんだけどさすがに驚いたよ。ちなみに四年からはもっと部屋が広くなるらしいよ」

 青空学校は航空技術を扱う学校においてトップの実力を誇るだけあり資金力も圧倒的である、様々な場面で驚かされる。

 入学金が莫大で非難されることも多々あるがそれでも中に入ってしまえば入学金など子どもの小遣いと感じるほどの待遇と支援が待っている。リスクに対してリターンが大きいのだ。

 それは特にマスター科に対しての配慮は多く、将来的に命を懸ける仕事に就くことが多いためのなのだ。

 メカニック科もサポート科もそれ相応の待遇と支援を受けることはできるがマスター科よりは劣ってしまう。

 ちなみにマスター科の由来は初めて空を飛んだ女性をオードリーを誰かが「空の主スカイマスター」と呼んだことからマスターと呼ばれるようになった。

 カコが黙々と機械いじりをしている横でパソコンをいじっていた。

「これをこうすればいいのか」 

 特別なことは教えていないのにぶつぶつと呟きながら作業するステラが気になり画面を覗いてみた。

「これ、ステラが組んだプログラム?」

「うん。そこにあった参考書借りてやってみたんだけどどうかな?」

 初めて書いたプログラムとは思えないほどの完成度仕上がったものにカコは驚いた。

「すごいよ! ステラ、システム作る才能あるよ! これはどういう風にしたいの」

「えーっと、まだいまいちどうすればいいかわからないんだけどさ――」

 二人は結局数時間お互いの作りたい物の構想を話し合って時間を過ごした。

 

 

 夕方になると雨は止んでおり雲もまばらに。

 水たまりを避けながらステラは一人外出した。

 すると、空の上を飛行機が飛んでいき近くの滑走路に止まるのが見えた。

「確かあれはスカイファイター……」

 女性がスカイドレス身に着け空を飛ぶのと同様に男性にも専用の飛行手段がある。

 それがスカイファイター。特殊な鉱石のエネルギーを利用し全長15m~20mある物体に圧倒的な推進力と浮力を持たせ高速飛行を可能としている。

 スカイドレスと違って保管するのに場所を取るがその代わりワンオフではなく量産機が多いためメカニックもサポートも状態の把握もしやすくファイターのパイロットの育成もマスターに比べ簡単だ。

 

 滑走路へ行くとそこにはスカイファイターから降りてきた男性パイロットはヘルメット取って自身の機体を見つめいていた。すぐに近くから缶のドリンクを持ってきたクリーム色の髪で眼鏡をかけた男性のサポートとゴーグルをかけっぱなしで濃い緑色のつなぎに帽子をかぶったメカニックがやってきてタブレットを見ながら話していた。

 その姿を眺めているとパイロットがステラのことに気づいた。

「君! もしかして青空高校の一年?」

「はい! この前入学しました!」

 少し距離があるためお互いに大きな声で話していると男性パイロットはこっちへくるように手を動かした。

 近づくとパイロットステラのことをジロジロとみて言った。

「君の眼は青空のように透き通って綺麗だね。でも、まるで鳥かごの鳥のように空へ飛びたいとうずうずしている。違うかい?」

「そうかもしれません。まだスカイドレスで空に飛んだことがないので」

「ちょっと違うかもしれないけどこれ、一緒に乗ってみるかい?」

 パイロットは自身のスカイファイターを親指で指しながら言った。

「えっ、でも」

「大丈夫。今日はテスト用に複座を用意してるからさ」

「ちょっとラニ! レッドとブルーは一応犬猿の仲なんだからそんな簡単に――」

 サポートの男性がそういうがパイロットのラニは笑いながらごまかしつつ返した。

「犬猿の仲と言ってもそれは上のやつらの話だろう。同じ空を飛ぶものとして仲良くしてて損はないさ。有事になればスカイドレスもスカイファイターも、場合によっては海や陸のマスターとも協力することだってある。そういうときに現場に行く俺らが仲悪かったら連携取れないだろう」

「まぁ、そうだけど……。タクミも何か言ってよ」

「いいんじゃない? 別に女の子乗せたからと言ってレッドストーンが誤作動を起こすわけじゃないし」

「タクミまでぇ……」

「じゃあ、決まり! さっ! 乗って乗って」

 ステラは背中を押され梯子を上る。

「スカート気をつけろよ」

 メカニックのタクミが言った言葉の意味が一瞬わからなかったすぐに意味を理解した。制服のままだったため梯子を上り複座に乗る際にスカートの中が見えてしまうからだ。

「み、見ないでくださいよっ!」

「早く乗らないとみるぞ」

「ちょ、ちょっとまってくださいって!」

 パイロットのラニも乗り込み二人ともヘルメットを被り機体はゆっくりと動き始めた。

「最初はちょっと重力が強いかもしれないが慌てずにな」

「はい!」

 ヘルメットにはスカイドレスのヘッドギアと同じで様々なデータが映し出されている。ヘルメットなしで直接キャノピーに映像を映し出したりすることもできる。

 加速がかかったスカイファイターによりかなりの重力がステラを襲う。

「うっ……」

「大丈夫、すぐに楽になる」

 スカイファイターが空に飛びすぐに重力から解き放たれたように体が楽になった。

 少しだけ怖かったステラはつい目をつむってしまったがラニが周りを見るように呼び掛けた。

「見てみろ。いい景色だぞ」

 ゆっくりと目を開けるとそこには美しい夕日に照らされる広大な景色が広がっていた。

「すごい…………」

 そんなシンプルな言葉しかステラは言えなかった。

 あまりの感動にそれ以上言葉が出なかったのだ。

 どこまで続くような大自然を沈んでいく夕日は最後の時までずっと温かく照らしている。雨が上がり水により光は普段よりも強く反射して幻想的な風景がそこにはあった。

「よし、ここで停止してみようか」

「えっ?」

 スカイファイターはその場で停止した。

「その場で浮いてる……」

「その場滞空状態を維持できるのはスカイドレスだけじゃないんだぜ」

 すると、ラニはキャノピーを開いた。

「腰のワイヤーをベルトにつけておけ。そしたらヘルメット取って直接みていいぞ」

 指示された通りベルトにワイヤーを取り付けヘルメットを取った。

「きもちいい……」

 自然の光が、自然の風が、自然の匂いが、ステラの五感を優しく刺激する。

「立ってみろよ。もっと気持ちいぞ」

「いいんですか?」

「ああ」

 ステラは複座に立ち、雄大な自然を手を広げて体いっぱいに感じていた。

 青い髪が風揺れる。

 肌に夕日の温もり伝わる。

 鳥の鳴く声が聞こえる。

「どうだ! すっごく気持ちいいだろう!」

「はい……! 私、青空学校に来てよかった! 私も早く空を飛びたい! みんなに空を見てほしい!」

「それが君の夢か?」

「はいっ!」

「いい夢だな」

 夕日が山の向こう沈むその瞬間まで、二人はそこで自然と共にいた。

 滑走路に到着すると想像していたよりも飛行時間が長かったことにサポートのリクが怒っていた。

 どうやら、ラニが意図的に通信を切っていたらしい。

「ステラ! また乗りに来いよ!」

「ぜひ! あ、でも。次は一緒に飛びたいです! では、また!」

 ステラは元気に手を振って帰っていった。

 三人はその姿を眺めていた。

「ねぇ、ラニ。あの子どうだった?」

「いい子さ。空が大好きでみんなに空を見てほしいんだってさ」

「ラニのお姉さんみたいだね」

「そうだな」

 ステラの姿はどこか懐かしく希望に満ち溢れていた。 

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