第2話 田舎娘と高貴な娘

 入学式を終えてもろもろの話も終わったところで一度寮へと戻ろうと校舎と寮を繋ぐ渡り廊下を歩いていると金髪の巻き髪をした少女がステラの前に立ちふさがった。

「えっと……なんですか?」

「あなたね! 第一航空マスター科で上位の成績を納めたというのは」

「まぁ、一応そういう風になってますけど私より上ならまだいますよ」

「違うそうじゃないの! 空は高貴なものにこそ相応しい! あなたのような田舎娘には似合わないの!」

「田舎娘って……。初対面なのにひどい言い方じゃないかな」

「ふん! 高貴な者こそドレスを着る価値があると思い知らせやるわ! 今度のシミュレーションで覚悟しておくことね」

 この学校は入学金にかなりのお金がかかる。そのため、多くの者はそれなりの金持ちなのだが、小さな田舎町の母子家庭で育ったステラに家にそんなお金はない。では、どうやって入学したのか。

 それは入学資格テストにおいて上位十位以内に入ることで入学金を免除されるというものだ。

 ステラは入学資格テストで七位なっていた。しかも、筆記の凡ミスで七位だ。もし、慎重にテストを受けていたら五位になっていてもおかしくない成績を残していた。

 それゆれに大金を払って入った金持ちからすればあまり好ましく思われていないのだ。

「あっ! 君ってもしかしてステラちゃん?」

 後ろを振り向くと茶髪のボブカットに白いカチューシャを付けた元気な少女が声をかけてきた。

「そうだけど」

「やっぱり! 私はミチ。飛行船で先輩と手を合わせてた子でしょ? うらやましいなぁ~。どこで知り合ったの? ステラって小さな町出身なんでしょ」

「なんで私が小さな町出身って知ってるの?」

「えっ、だってリリーカが言ってたよ」

「リリーカ?」

「ほら、さっき話してたじゃん」

 リリーカとはステラのいちゃもんをつけた金髪の少女のことだった。

「さっきの子か……」

「ねぇ、今暇? まだ話せる人がいなくてさ。よかったら一緒にカフェ行かない」

「いいけど先に荷物おいてくるね」

「じゃあ、私もおいてこよーっと」

 ステラとミチは荷物を置き学校内にあるカフェへと向かった。食堂とは別に設けられたこのスペースは生徒たちの憩いの場だ。

大きなガラス張りの窓の向こうには庭園が見えておりそこにもベンチなど用意されており休憩できるようになっている。中心には大きな噴水があり芝生のエリアも多く木陰で本を読みながら休む生徒やシートを敷いてピクニック気分で食事をとる生徒もる。 

 二人は室内の丸テーブルの席につき談笑していた。

「でね、案外成績はよかったんだけどやっぱ上には上がいるんだよねぇ……。ステラちゃんって何位だったの?」

「入学資格テスト? それとも事前テストほう?」

「じゃあ、両方教えて!」

「入学資格テストは七位で事前テストは六位だったかな」

「やっぱり第一航空隊は違うなぁ~」

 ミチは第二航空隊のマスター科。成績が悪いわけではないがケアレスミスの多さと緊してしまい実技がいまいちだったのだ。

「なになに? 君、第一航空隊なのぉ?」

 二人が話をしていると黒い短めのポニーテールに帽子をかぶった生徒が声をかけてきた。

「私メカニック科のカコ。航空隊の知り合いを作りたかったの。混ぜて混ぜて」

 カコカコはメカニック科の第一整備隊。一年メカニックの中でも優秀な生徒だ。

「あ、そうだそうだ。サポート科の子もいるんだよ。ミライ! こっちこっち」

「勝手にいなくならないでくださいよぉ」

 ピンク色の髪をした生徒が二人分の飲み物を持って小走りでやってきた。

「この子はサポート科のミライ。二人とも仲良くしてね」

「ど、どうも。サポート科第二通信隊のミライです」

 第二通信隊ということでレベル的にはミチと同じくらいだと言えるがマスター科とサポート科では行う内容が違いすぎるためあまり比較にはならない。

 田舎育ちの優秀生徒ステラ。

 小金持ちでそこそこの才能があるミチ。

 開発オタクのカコ。

 おどおどとしているがサポート科一筋のミライ。

 立場の異なる四人は意気投合し盛り上がっていると、再びリリーカがやってきた。

「あらステラさん。もうお仲間を作ってるのね。お仲間さんたちもステラさんがまけるところ見せてあげますわ」

 そういうと笑いながら去っていった。

「もしかしてさっきもあんな感じだったの?」

「う、うん」

「すっごい自信だね」

「確かリリーカさんって名門の家柄の人ですよね。お姉さんとお兄さんが両方ともここの在校生でトップレベルの成績だとか」

「へぇ~、ミライ詳しいね。私、機械いじりしか興味ないからその辺まったくわかんないや」

 

 その数日後のことである。

 今日はマスター科全員揃ってのシミュレーションの日。基礎的な飛行方法を学び終え成績順、もしくは挙手制で一対一の模擬戦闘を行う。

 スカイドレスの用途の一つとして戦闘訓練は絶対なのだ。

「では、次は上位の生徒たちだ。手を挙げるものがいなければこっちて勝手に決めるぞ」

「はい!」

 リリーカは大きな返事と共に手を挙げた。

「リリーカか。ほかには?」

「やります!」

 ステラも同様に手を挙げた。

「よし。じゃあ、二人はシミュレーターマシンの中に入れ」

 大きな卵型のマシンに入ると機械から伸びたアームの先端についている機具を腕と脚にはめて最後にヘッドギアが自動で装着される。

 上下左右全方向に体を向けることができるが今回は設定の上では無重力状態となっている。いきなり重力下の高速戦闘を行ってしまうと体に負担が大きいためだ。

 ヘッドギアの視界が鮮明になるとそこには都市を模したバーチャル世界が広がっている。

「今回の模擬戦闘のルールはD級通常射撃武器二丁装備状態のスカイドレスで相手を一定の耐久度を削った方の勝利となる。その数値は目に見えるものではないがダメージを受けるとスカイドレスの動かし方に変化が現れる。煙なども出ることもある。そういう観察力も鍛えつつ攻撃のチャンスをうかがえ」

 D級通常射撃武器とは拳銃を模した二丁実弾武器である。

 もちろんシミュレーションなので実際にダメージはないが衝撃は伝わる。

「では、模擬戦スタート!!」

 ほかの生徒たちからは大きなモニターでシミュレーション映像を見ることできる。

 模擬戦が始まるとどこからかスカイドレスのスラスター音が響き渡る。

 都市には車や人間はおらず大きな音を出せばすぐにばれてしまう。慎重に行こうと思ってたのもつかの間。

「見つけましたわ!!」

 ビルの角からいきなり現れたリリーカは一気に銃を乱射。

 腰に据えた銃をすぐに取って右手で応戦しつつなんとかビルの陰に隠れた。

リリーカは休む間も与えずすぐに追いかけてくる。

「思考させませんわ!」

「違う。おびき寄せたんだよ」

 ビルの角を曲がると目の前に銃を向けたステラの姿。

 ステラの銃弾の一発はリリーカのスカイドレスの腹部にヒット。

「うっ……! まだですわ!」

 それなりの衝撃が発生したはずなのにすぐに体勢を立て直し連射。

 そろそろリロードするであろうと予想したステラは建物や標識を盾にしつつ攻撃を避けまた都市のどこかへ隠れた。

 


「おっ! やってるねぇ~。ほら、ミライも見てよ」

「今は……ステラさんが若干優勢みたいですね」

 カコとミライは観戦室のモニターからステラとリリーカの戦いを見ていた。

「D級射撃武器か。それに模擬用のベーシックドレス。白い装甲は脚と腕と胴体についてるけどカバー範囲が狭いからあまり耐久度がないんだよね」

「じゃあ、もしかした一瞬で戦いが終わったりすることもあるの?」

「うん。少なくともC+級の武器とかなら一撃でベーシックドレスを破壊できるよ。まぁ、この場合だとそんなものもないからある程度激戦になるかもだけど。ステラが機転を利かせて意外な終わり方をしたしてね」

 カコは笑いながら言った。

 

 カコの想定通り模擬戦はかなり激しいものとなった。

 低空飛行から奇襲をしかけたりビルの隙間を縫う空中戦。建物を利用した変則射撃。

 実践経験などないはずの二人だというのにその戦いはまるで歴戦の戦士。

 ステラは類まれな才能によりそれを可能としているがリリーカもそれに一切劣らず攻めの姿勢を貫いている。

「ステラさん、中々やりますわね」

「リリーカさんこそね。態度がでかいだけあるよ。正直隙がなくて困ってる」

「謙遜はよしてください。あなたが本気を出してないことくらいお見通しですわ」

「それはそっちが本気を出してないからだよ。そろそろ終わらせよう。私は本物の空を飛びたいから、バーチャルの世界で飛んでる暇はない」

「なら、お望み通り終わらせてあげますわ!!」

 連射しながら近づいてくるリリーカに対しステラは最低限避けるだけでその場をあまり動かなかった。当然避けきれない攻撃があたりその分のダメージが入る。

「このまま行きますわ!!」

「いいや、私の番だよ」

「何を言ってます? ――はっ!?」

 リリーカはブーストをかけて連射しながら近づいてきたがその途中で弾切れを起こしてしまった。減速したところで間に合わない。

 さらに、ステラはブーストをかけて迫ってきたのだ。

「一気に終わらせる!」

 リリーカを掴みそのままビルへと急降下。ビルの屋上の角にリリーカをぶつける。減速せずに相手物理ダメージを与えるテクニックだ。

 しかし、ビルの角を破壊することになりリリーカはそのまま地上に落下していく。

 まだ耐久度はノルマより下回ってないことを確認するとリリーカが空中で復帰するよりも早く銃を連射。

 そこでブザーが鳴り響いた。

「そこまで! 勝者ステラ!!」

 シミュレーションマシンから出てきた二人は握手を交わす。

「はぁ……。完敗でしたわ。もしかしてずっとあんな奇想天外な攻撃を考えてたのかしら?」

「リリーカさんは強いから。だから、たくさん攻めてもらって油断をしてもらうしかなったの。攻める側ってのは守る側と違って思考をせずに感覚で動いちゃうから。もし、戦略を立てられてたらどうなってたかわからない」

「終わった後も謙遜なんて。……ごめんなさい。私、あなたのことを田舎から来たからというだけで馬鹿にしてしまいましたわ。でも、あなたのスカイドレスの扱いは本物。どうか、こんな私だけど許してくれる?」

「うん。これからは一緒に成長する仲間でありライバル。一緒に頑張ろう」

 シミュレーションにおいて二人の戦いは生徒たちの注目を集めるものとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る