3巻 空羽葵編

0_プロローグっぽいもの

「みんな! 今日も練習頑張ろう!」

「「「はいっ!」」」

 晴れ晴れとした放課後の空を背景に陸上部員どもの声がグラウンドに響く。

「ソウダゾー、ローマハ一日ニシテナラズ、日々ノ練習ガモノヲ言ウンダゾ。気合イ入レテイケヤ!」

「「「………………」」」

 陸上部部長、鈴木拓朗すずきたくろうの掛け声には部員全員が応じたくせにこの俺、神の申し子の平原ひらはらけい様の有難いお言葉には誰も反応せず。

 無礼な連中ばっかりで嫌になるったらないぜ。だからこの陸上部は俺以外カスな人材しかいないんだよな。

「オイオイ、ヲ前等俺ノヨウニナリタクナイノカヨ?」

「「「………………」」」

 部員どもは全員無言の上に露骨にそっぽを向いてやがる。俺のオーラが禍々まがまがしくて恐れ多いのは分かるけどよ、なにかしら返事はしような。お前らにも一応口はついてるんだからよ。

「圭、いいから君も練習してくれ」

「俺ニ指図スンノカ!?」

 鈴木のくせに生意気な野郎だぜ。

「まぁ俺部長だしね」

「コチトラアノ副部長ノ平原圭ゾ!」

 近い将来内閣総理大臣になってG7だかG9だののおさになる男だぞ!

「いやどの平原だよ。いいから練習練習。ほら、他のみんなはもう走ってるよ」

 先代部長の沖山おきやまのウザ絡みが減って清々したと思えば今度はコイツなの? 作者はふざけ半分で次々とおかしな刺客を送りつけるのもいい加減にしとけや。

「ッタクシャーネェナー」

 バカばっかりの部員どもに辟易へきえきしつつも、俺は自己鍛錬に励んだのだった。


    ♪


「圭は最近陸上の調子はどう?」

 翌日の昼休み。

 いつものルーティーンどおり彼女の空羽そらはねあおいと昼食をとっていると、葵はふいに尋ねてきた。

「ウム、ボチボチダゾ」

 部員どもが俺に無礼な点と鈴木が生意気な点さえ除けば特に述べることはないので気軽に答えると、葵は首を傾げた。

「副部長だと色々と大変なこともあるんじゃない?」

「マァナ。ナンバー2ノ副部長トモナルト責任ガ重イゼ。ソコモ含メテ楽シンデルンダケドナ」

 本来ならば副部長なんぞじゃなく部長になる予定だったが、クソ顧問と前部長の沖山が悪の利権を働かせたせいで俺は理不尽にも副部長にしかなれなかった。そんなんだから日本は衰退する一方なんだよ。

「――圭は陸上部の副部長を頑張ってる。それに引き替え私は……」

「ン? ドウシタ?」

「えっ? なんにも」

「ソ、ソウカ……」

 俺が現状に嘆息たんそくしたあと、葵の表情に陰りが見えた気がしたが気のせいか?

「色々トヤルコトガアルト忙シイ反面ワクワクモスッゼ。コノ感情ニ悪イ気ハシナイヨ」

 俺はミスコンで辱めを受けて以来、クソバスケ部が我が邦改ほうかい高校の者どもにかけた洗脳を解くべくGODに祈りを捧げる日々を送っている。

 ミスコンでは俺の手駒の新山鷹章にいやまたかあき高岩たかいわ由生よしおが俺の足を引っ張り続けた結果、優勝を逃す羽目となった。厄介なのは強敵ではなく無能で使えない味方とは言ったものだぜ。

「……そっか。圭はすごいね」

 葵はふっ、と穏やかな微笑を浮かべて俺を見つめた。

「ヨセヤイ。照レルダロ~」


 だが、この時の俺は全く気づいてやれなかった。

 葵が、大変悩んでいることに。

 俺という天才もまだまだだということを思い知らされることになるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る