6_目指すゴールは一緒でも感情思考は千差万別 ③
「よーい――」
パァン!
「ウォオオオオオオーーーーーーッ!! リャリャリャリャリャリャーーーーーーィ!!」
スターターピストルの合図と同時に鍛え抜かれた身体をフルにいじめて走る。
この世界に、
ふっ、夏風がいい
風を切り、トラックの上をただひたすらに走る。
走る! 走る! ――走る!!
そして、俺は一位でゴールインした。
「おおっ! 大会新記録です!」
記録員がえらく興奮した様子で告げてきたが、俺的には至極当然。走る度にニューレコードでないと高みには登れまい。
「フッショーーーーーーーーウッ!!」
だが、それでも達成感はある。嬉しいともさ。
「なにその雄叫びの上げ方」
沖山が困惑した顔でツッコミを入れてきた。見たか観察眼のない部長よ。
「身体能力だけは化け物クラスだよな」
「その代わり頭脳と人格が壊滅的だけど」
「これが現代が生んだモンスターか」
見たか、
これが、『結果』なんだよ。
俺の能力に嫉妬するモブどもが
こうして俺は最高の結果を邦改にもたらし、俺自身も充実した大会となったのだった。
♪
大会翌日。
三年生は全員予選敗退のため、引退することになった。
「えー、お前たちのこの三年間の努力と流した汗は――」
「俺が引退しても、みんなはチームのために一つになって戦い続けてくれると信じて――」
顧問と沖山があれこれ語っている。
お前ら話長ぇよ。俺の時間は他の奴らのそれと違って濃く、貴重なものなんだぞ。それを浪費させる罪は極めて重い!
「以上だ。ここで次の部長と副部長を決める」
沖山がなんの面白味もない話を終わらせてようやく本題に入った。
ハイ来ました次期部長の選出。これは一択同然。
「次期部長は――――」
沖山は思わせぶりに部員全員の顔を
当然俺も例外ではなかったが、俺を見る時だけその瞳が輝いた。気がする。そうに違いない。
「――――
「ぼ、僕ですか?」
「――――ハイィッ!?」
俺は衝撃のあまり大声を上げちまった。
いや誰だよ!? 鈴木拓朗って誰だよ!? ポッと出の輩に部長の座を奪われるとか緊急事態だ! おまけに鈴木当人だって困惑してるじゃねーかよ。
「聞キ間違イカ!? イヤ、ヲ前ノ言イ間違イダナ!?」
「言い間違いでも聞き間違いでもないぞ。俺は鈴木を指名したんだ」
「俺ノ名字ハ平原ナンダガ?」
「うん、だからお前を指名しちゃいないんだよ」
沖山は息を吐いてから再び口を開く。
「
「ウボエェェェェェッッッーーーー!! オボボボボボボボボ!!」
沖山の理解不能な物言いを聞いた俺の身体は小刻みに震える。
「そんなんで部長に選ばれると思ってるのがおめでたいよな」
哀れな俺に顧問が追撃をかましてきやがった。おいお前うるさいぞ。ちょっと黙っとけや。
「その点鈴木は信頼できる。技能は平原に負けるかもしれないけど、真面目な人柄、部活皆勤賞、周囲への気配り。部長にとって大切なモノを持ってる」
沖山に
ってそんなことよりも、だ!
「沖山ァァァ!! 俺ノ利権トタンパリングハドウシタ!?」
誓いの
「そんな不正を使ってまでお前を部長に仕立て上げるメリットが何一つもないんだが? それどころか俺の思考回路に異常の疑惑をかけられるんだが?」
沖山はタンバリンを叩くジェスチャーをする俺に対して冷めた視線を送ってきた。
「グフゥッ……! ソンナ、ソンナコトッテ……」
俺が部長じゃない……その事実を認めた俺はその場で
「部長に必要なのは部活の実力もそうだが、何よりも人徳がなければな。こういう時に選ばれなくなってしまうんだぞ」
俺の肩に手を置いて優しく諭す沖山。
「だから俺は散々言ってきただろ。態度を改めなって。練習態度もそうだし、とにかく人間性を見直せって。口を酸っぱくして言ってきたじゃないか。けどお前は一切改めなかったな。全てはそこなんだ」
「ブフゥッ、ククッ、クックック……ウグゥ~フフフッフゥーァ……」
「泣いてんだか笑ってんだか分からん奇声を上げるんじゃない」
激しく打ちひしがれている俺に、顧問が冷たい言葉を吐き捨ててきた。おい貴様も顧問なら俺を励ませよ。落ち込むか弱き部員のフォローもお前の義務ではないの?
「鈴木。頑張れよ。なに、お前が全部一人で背負う必要はないんだ。みんなで協力し合えばいいさ。気負わず、気楽にな」
「はいっ、僕でよければ精一杯頑張ります!」
あっ、思い出したぞ。鈴木って、さっき田村と会話してたモブじゃねーか。どうでもいいけど。
俺以外の全員が一致団結しているが、俺はとてもその輪に加わる気にはなれない。
……というか普段から加わってなかったわ。俺様はアウトローで孤高の存在だし?
「グッ……ススス~」
俺は握りしめた拳を震わせて
「モウエエワ! 俺ハコンナ部活退部シテヤル!」
俺はランニングシューズを脱いで地面に叩きつけた。
つまんね。マジつまんね。やってられっかよ。
「そう駄々こねていじけるな。部長が全てじゃないだろ」
「部長ニナレナインジャ意味ナインジャイ!」
俺は沖山の慰めを突っぱねた。そんな安っぽい説得で俺の心が揺れ動くとでも? 薄ら寒いんだよ。
「分かった分かった。じゃ、お前は副部長だ。それでどうだ?」
ここで沖山から妥協案が提示された。
副部長か……なくはないか?
陰から部長の鈴木を蹴落として俺が実質的な支配者になれば部内での地位が更に向上する。内閣総理大臣への近道にもなるだろう。
「仕方ネェナ。ソレデ妥協シテヤル。俺ノ太平洋ヨリモドデカイ器ニ感謝シロヨナ」
「あぁ、どうもありがとな」
沖山は面倒なのか返答が雑だった。その場の他の面々も冷ややかな様子で事の成り行きを見守っている。
「この陸上部の副部長は名ばかりの職だけどな……」
「ナニカ言ッタカ?」
「いや?」
沖山が何やらぼそぼそ言ってた気がしたが空耳だったようだ。
こうして三年生は引退し、俺は副部長となった。
♪
「へぇ! 大会新記録樹立! おめでとう!」
「サンキューナ、葵」
たまたま吹奏楽部の練習で学校に来ていた葵とばったり会ったので俺は先の陸上大会の結果と副部長に任命された件を報告した。
「それに副部長なんてすごいね! これも圭が頑張った結果だね!」
「イヤァソレホドデモ――アルナ?」
本当は部長がよかったんだがな。沖山とクソ顧問の好き嫌いによって鈴木とかいうモブが指名される波乱の展開となってしまった。そのような腐敗した部内構造も俺が内閣総理大臣になって
「おいっ、調子に乗るな~」
葵は俺の肩をポンと軽く叩いてきた。全然痛くなく、くすぐったいくらいの優しい感触だ。
「そっか。……それに比べて、私は駄目だなあ」
葵は溜息とともに何やら呟いた気がするけど聞き取れなかった。
「ナニカ言ッタカ?」
「ううん。それよりもさ、これからも部活頑張りなよ」
「勿論ダトモ。葵モ頑張レヨ!」
「うんっ、頑張るねっ」
葵は両手で握り拳を作って気合いを入れる。おいおい可愛い仕草でしかないなぁ。天使かよ。
「炎天下デノ運動部ノ応援ハ大変ダト思ウガ、無理セズニ頑張レヨ」
「ありがとっ。じゃあ、またね」
「オウヨ」
葵と別れた俺は明日からの副部長ライフに思いを馳せながら帰宅したのだった。
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