4_人とはスペックと肩書で相手の格を推し量る生き物 ①
「や、やぁ。はじめまして。新山鷹章です」
「………………はじめまして。空羽葵です」
「そ、空羽さん。ハ、ハハ……」
「……………………」
「そ、空は青いなぁーっと」
新山は挙動不審な動きで声もうわずっている。
俺は彼女の葵を含めた四人で
現在に至るまでの過程はというと――――
♪♪♪
「えー!? 私が戸阿帆卒の新山って人とも会わなきゃいけないの?」
「葵ノ不安ト警戒心ヲ緩メルタメニ、顔合ワセシトクノモ悪クナイト考エテナ」
俺の提案に葵は少し考え込んで、
「…………正直すっごく嫌だけど、直接会えばどんな人か分かるかもだし……」
渋々だが、会う方に思考が傾きはじめた。
「安心シテクレ。万ガ一ニモ奴ガ葵ニ手ヲ出ソウトシテキタラ、俺ガ
「それならまぁ、安心かな」
俺の決めの一手で葵は承諾してくれた。
「じゃあ、私の方も幼馴染を紹介しようかな」
葵は幼馴染を紹介してくれるらしい。
可愛い女の子だったら超嬉しい。楽しみにしておこう。
新山鷹章 :『え……俺たちが平原の彼女と会うの……?』
ゴッドスター:『おうよ。向こうは幼馴染を紹介してくれるそうだ』
GBよっしー:『僕人見知りなので、知らない人と会うのは抵抗あるんですけ
ど……』
ゴッドスター:『てかお前誰?』
GBよっしー:『ども、高岩由生です』
新山鷹章 :『俺がグループに招待した』
ゴッドスター:『高岩か。俺がついてるから平気だ』
GBよっしー:『だから不安なんですが……』
新山鷹章 :『俺女の人苦手なんだよ。怖いし、俺を迫害してくるのは大抵女だ
し』
ゴッドスター:『俺の彼女もお前を毛嫌いしてるぞ』
新山鷹章 :『まだ会ってもいない段階で毛嫌いまで行ってるの!? お前、俺のこ
とをどんな風に話してんだよ?』
ゴッドスター:『戸阿帆卒とは伝えてる』
新山鷹章 :『それが原因だとしたら、戸阿帆の負の装備ヤバすぎるな』
ゴッドスター:『恨むなら勉強サボってまともな高校に入れなかった己を恨むこっ
た』
GBよっしー:『僕からすれば、戸阿帆も邦改も大差ないんだよなぁ』
ゴッドスター:『とにかく、次の土曜日に
した。各々バックレずに参加するように』
新山鷹章 :『もし、バックレたら?』
ゴッドスター:『お前の家に大量のクモとムカデを投入してやる』
新山鷹章 :『うわぁ。俺、
れ』
ゴッドスター:『じゃ、当日は絶対に来ること』
GBよっしー:『まーた妙なことに巻き込まれた感がありますが、了解です』
♪
ちなみに今
葵の幼馴染ということで俺とほぼ同年代だとは思うが、なんだ男かよ。女の子だったら口説き落とすところだったのに。
それはさておき、俺は先手必勝でそいつに話しかけた。
「アンタガ葵ノ幼馴染カ?」
葵の幼馴染は俺の声に反応するが、表情を変えずに、
「……はい。
抑揚のない口調で自己紹介をした。
おいおい、感じ悪いじゃねーか。俺は平原圭様だぞ? もっと友好的に来いよ。
しかも自己紹介後も俺に無機質な目を向けたままだ。
「ナンダ? 俺ノフェイスヲマジマジト見テヨォ」
残念ながら、現在サインはNGなんだよな。
「いえ、なんでも」
里見は歯切れ悪く話を打ち切りやがった。
うーむ。顔はかなりイケてる部類だとは思うが、俺に対して敵意ほどじゃないけど、少なくとも好意的ではないな。
一方、しかめっ面の葵は新山に鋭い眼光を向けている。
「そ、空羽さんは、俺を睨んでどうしたのかな?」
「新山さんは戸阿帆卒なんですよね?」
「はぁ、そうだけど」
「あそこって札付きのワルが通う高校ですけど、新山さんは圭に変なこと吹き込んでないでしょうね?」
葵は敵意を隠そうともせず、新山に食ってかかる。
「い、いやいや、むしろ俺が被害者っていうか」
新山はあたふたしながら弁解するが、葵の抗戦モードは解除されず。
「被害者面ですか?」
「事実、平原からはそうなんだけど……」
「戸阿帆は他校の生徒を含めた近隣にどれだけ迷惑をかけてるか分かってますか? 私の知り合いの男の子も前に恐喝されたって泣いてたんですよ!?」
戸阿帆の悪行は近辺では有名だ。カツアゲ、暴行、窃盗、器物破損などで、度々警察のお世話になっている。
「それは申し訳ない。けど、俺は見ての通り地味な隠キャだし、周りに迷惑をかけたことはほとんどないよ」
新山は謝罪こそするが、あくまで自身は悪事を働いていないと主張する。
「自覚がないのが一番タチが悪いんですよ」
しかし、葵はそれを
「ちょ――おい平原、なんとか言ってやってくれよ」
新山は俺に助け船を求めてきた。ったく、しゃーねーな。俺は彼女持ちだから、冷静な対処もお手の物よ。
「安心シロ。コイツハ紛レモナイゴミクズダガ、暴走シナイヨウニ俺ガ制御シテイル」
「なに堂々と嘘
俺の発言を聞いた新山は飛び出しそうな勢いで目を見開いて反抗してきやがった。お前をフォローしてやったのにずいぶんな態度だな。あとでボコろ。
俺の救済措置が効いたのか、葵は新山から目を離す。
と、今度は俺に視線を移してきた。
「ところで、圭の知り合いはもう一人いるんじゃなかった?」
この場には本来五名いるはずだったが、一人欠けた状態だ。
「悪ィナ。モウ一人は寝坊で遅刻ダ。マッタク困ッタ坊主ヨ」
「………………」
俺の話を聞いた里見は、再び俺に粘っこい視線を投げつけてきた。さすがに気になる。
「オイ、ヲ前サッキカラ俺ヲ凝視シテドウシタヨ? 俺ニ一目惚レシタカ? スマンガ俺ハコノ葵ト付キ合ッテルガユエ――」
「いえ、遅刻するような人と交友関係があるんだなって思っただけです」
「ナンダト?」
葵の肩を抱いてお断りの返事をする俺に、里見は冷ややかな表情で私見をぶつけてきた。
「戸阿帆OB、時間にルーズな人。そんな人たちとつるんでいる平原さんも、葵の彼氏としてふさわしいかいささか疑問です」
どうやら里見は俺を葵の彼氏として認めてはいないらしい。
「ヲ前、言ウジャネーカ。彼氏彼女トハ、フサワシイカドウカデハナイ――愛ヨ!」
「精神論で葵を守れますか?」
「コノ筋肉ヲモッテ、結果デ証明シテヤル!」
「腕力でしか解決できませんか? 精神面は?」
「タカガ幼馴染ガ人様ノ恋路ニ干渉スンジャネーヨ!」
そもそも、精神論云々言ってたのはどこのどいつだよ。
「良くない人と付き合ってたら心配するのは当然でしょ」
俺と里見が至近距離で
「ちょっ、会って早々どうして一触即発の空気になってるの!?」
葵が間に割って入って俺と里見の腹に手を当てて止めにかかる。
「デモヨォ、俺ガ悪ク言ワレル、即チ葵モ悪ク言ワレテルッテ思ウト言イ返サズニハイラレネェヨ!」
「平原さんだけを悪く言ってるんです!」
「ツイニディス発言ヲオフィシャルニシヤガッタナ!?」
と、再熱しかけた俺たちに、今度は身の程を知らない男が絡んできた。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれよ」
「仲裁してるフリをして、なにを企んでるんですか?」
「なにも企んでませんけど!?」
善意百%で仲裁を試みた新山に、葵は言葉のジャブを繰り出した。
「戸阿帆にはみんな迷惑してるんです。かつて私にナンパしてきた人も戸阿帆の制服を着てましたしね」
そうだったのか。俺は全く覚えてないし意識もしてなかったけど。あの時はただただ五十円玉をネコババしたかっただけで。
っと、これは俺だけの秘密だ。墓場まで持っていかないと。世の中黙ってたままの方が幸せなことだってある。
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