2巻 平原圭編その2

0_プロローグ的なあれ

「今日ノ俺モイケメンダナァ。読者ノヲ前等モソウ思ウダロ?」

 神は不公平だ。何をやっても大して目立たない有象無象とこの俺、平原ひらはらけいが同じ人間など、一般ピープルが哀れすぎる。

「うっわ。平原じゃん。目を合わせちゃダメよ」

「絡まれないよーにそろーりと」

 おっ、見目麗しいギャルズが俺の横を通り過ぎようとしている。学校の廊下は様々な人と出会えるからイベントの宝庫だよなぁ。

「ヤァヤァギャルタチ! イケテル俺トイケナイコトシナイカァーイ?」

「うわっ、最悪……」

「話しかけてくんなってーの」

 ギャルズは明らかに嫌がっているが、俺は知っているぞ。

 それはズバリ、好き避け。照れ隠し。思春期の女の子は色々と難しいお年頃だからな。扱いが難しいが、逆に腕が鳴るぜ。

「素直ニナレヨ。俺トデートデキルコトハ光栄ナコトナルゾ。クラスメイトニ自慢デキル」

「そんなことが他の人に知られるとか、一生の汚点よ!」

「大体、あんたと遊んでも私たちにはメリットがないのよ!」

「イヤイヤ、俺様ハ――――」


「女子たちが嫌がってるぞ。その辺でやめとけ」


 知らぬうちに茶髪でアイドルばりの容姿の男子生徒が、俺とギャルズの間に割り込んでいた。

「ナンダヲ前?」

「田村せんぱーい!」

「今日もカッコイイ~!」

 男子生徒の登場に、ギャルズの瞳がキラキラと輝いている。おい、それは本来俺に向ける視線だろうがよ。

「俺は三年の田村たむらしょう。お前は二年の平原だな。女子たちに不愉快な思いを強いるのはよせ」

 自分語りの激しい奴だな。俺は自己紹介しろとは一言も頼んでないぞ。

「何ヲ勘グッテンダ。俺ハタダ、下心デ女子生徒ヲ誘ッタダケダゾ」

「下心って普通に言っちゃってるのがもうダメでしょ……」

 ギャルズだけではなく田村さんとやらもドン引きしているが、俺は構わずに続ける。

「現代ノ若者ニハ積極性ガ足リナイ! 草食系男子ガノサバル日本デハ少子化ハ悪化スル一方!」

「あんたに少子化を解消する能力はないでしょ。偉そうに語るなし」

「そーだそーだ、おとといきやがれー!」

 田村さんの影に隠れたギャルズは先ほど以上に強く出てきた。いやはや、集団を形成すると気が大きくなるのはしょっぱい人間の悪い習性なんだよな。

「――と、そうだ」

 田村さんは思い出したかのようにこぼしはじめる。

「俺はバスケ部なんだ。この前の平原軍団の乱には参加できなかった」

「ソノ軍団ハ乱闘開始序盤デ崩壊シタケドナ。ヲ前等バスケ部ノセイデヨ!」

 実に短命な軍団だった。信者がいた安心感が懐かしいぜ。もはや遠い昔の話だがな!

「信者がお前のやり方に耐え切れなくなっていなくなったと聞いたんだが?」

「笑止千万! 価値観ガ相違シテタダケノコトヨ!」

 まったく、そんなデマを広めやがったのはどこのどいつだよ。

「笑止どころかめっちゃブチ切れた顔してんじゃん」

「こわ……」

 ギャルズが俺の爽やかなルックスに圧倒されているが、それはそれ。

「乱闘ニ参加シテナイアンタニハ、俺ハ負ケテナイッテコトダヨナ」

「まぁ、戦ったことないからね」

 田村さんは涼しい表情を崩さないが、その余裕も今のうち。俺の武力をの当たりにしたら、そんな澄まし顔もできなくなるに違いない。

 俺は拳に力を入れる。

 が――


 キーンコーンカーンコーン――


「おっと。休み時間が終わったぞ。みんな自分の教室に戻ろうか」

「はぁーい!」

「先輩、ありがとうございました。よければお礼に今日の放課後、私たちとお茶しませんか?」

「今日は部活も休みだし、いいよ」

「やったーっ!」

 向こうは何やら盛り上がっている。なんで俺のことは邪険にしたくせに田村さんにはデレデレなんだよ。これも日本の謎の一つだな。


 しかし、田村さんか。


 いけ好かないな。あの悪名高いバスケ部で、俺ほどではないが女子からモテる。俺ほどではないがルックスも良い。

 あれは脅威になるな。芽は小さいうちに摘んでおくに限る。

永田ながた大地だいちト並ンデ対策ガ必要ダナ。フ、面白イ」

 永田大地とは、毎度毎度俺と争いを繰り広げる愚か者よ。何やら自分は常識人で? 俺のことを悪役のように扱ってくるが、どうにも間違ってるんだよな。

 永田大地プラスで田村さん。やはりバスケ部はこの学校のガンだな。

 敵が増えてこれまで以上に面倒になりそうだが、それでも俺は自身の歩みを止める気はさらさらない。


 そう。

 俺の武勇伝の数々が再び幕を開けるんだぜ。

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