∞_エピローグという名の何か

 乱闘の翌日。

 俺は全身に軽い打撲を負ったものの、幸いにも大きな外傷までには至らなかった。

 強いて言えば心に深いダメージを負ったが、周りはそれを知る由もない。

「今日ノ北風ハ俺ノハートニ染ミルナァ」

「どした?」

 微笑をたたえた葵が俺に問うてくる。

「人生ガナカナカ上手ク行カナクテナ……」

 俺の雰囲気がいつもより暗いことに気づいたのか、葵は一瞬心配そうな表情をするが、すぐに笑顔に戻って俺の頭を優しく撫でてくる。

「人生は上手く行かないことの方が多いもんね。でもさ」

 葵は俺の頭を撫で続ける。

 葵の甘い匂いが広がって鼻を刺激してくれるのでこの北風も悪くはないな、と思った。

「だからこそ頑張ろうって思えるんじゃないかな。それに苦労すればするほど、目標が叶った時の喜びはひとしおだしね」

 あぁ、葵には本当に叶わない。

 気分が落ちてたのにものの一瞬で引き戻してくれた。お前が彼女で本当によかった。

「ソウダナ。失敗シテモ、何度デモ再チャレンジスレバイイヨナ。生キテル限リハイクラデモヤリ直セル」

 逆に俺は葵に何をしてあげられるのだろう。

「アリガトナ、葵」

「ううん、お互い様だよ」

 葵の頭に手を伸ばす。

「あっ、友達に呼び出されちゃった! ごめん、行くね!」

 俺の手が伸びる前に、唐突に鳴り響いたスマホの通知音に葵は慌てた表情で立ち上がり、校内へと駆けていった。

「葵モ色々アルノカナ」

 もしそうなら――辛いことがあるなら、彼氏の俺を頼ってほしい。俺ならば必ずや解決への糸口が掴めるから。


「ソロソロ教室ニ戻ルカ」

 しばし一人で北風に当たりながら考えにふけっていたら、昼休みはあっという間に終了に差しかかっていた。


    ♪


 むむむっ!? あれは――――


「オイ永田大地! 卑怯ナ手段デ俺ニ勝テテ満足カ!? ソレデ満足カ!?」

 廊下を歩いていると、にっくき永田大地が視界に映り込んだ。

 永田大地は俺と目が合うなり、ものすごく嫌そうな顔で無視を決め込んでいる。

「オイ無視シテンジャネーゾ! 結局ヲ前ハ俺ガ怖イママナノカ!?」

 俺が真理を突いてやると永田大地は足を止めてこちらを振り返った。

「怖いと感じたことはないが、ヤバい奴だとは思ってるから関わりたくもないのよ」

「アァーハァン? 情ケナイ台詞ダナ。俺ヲ見習エヨ」

「お前はこの地球上で一番見習っちゃいけない人間だと思うんだが」

「イヤァ参ッタナァ。所詮三流ニハ俺ノ素晴ラシサハ理解デキナイカ」

 永田大地が俺に歯向かってくる理由はコイツ自身が三流だから。これに尽きるぜ。

「どうでもいいけど教室戻れよ。休み時間はもう終わるぞ」

ていノイイ逃ゲ台詞ダナ。男ラシクネェゼヲ前ハヨォ」

「……アホが」

「放課後ニマタ貴様ノ邪魔ヲシテヤル。覚悟シテオケ!」

 俺は永田大地の顔に指を差して自分の教室へと向かう。


「普通に迷惑なんだよなぁ。そろそろ先生に助けを求めようかなぁ」


 そう。

 俺の戦いはまだまだこれからだ。

 たかだか数回の敗北で諦める俺様じゃないんだぜ!


 俺の覇道への試練はこれからも続くしかないんだよなぁ。

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