7_予想の遥か斜め上を行く発想こそが成功への道 ②

    ♪


「敵ハコノビルノ四階ニアリィィ!」

 階段をひたすら往復しながら昇っていく。

 こちとら超一流アスリート、エレベーターで横着するビール腹オヤジどもとは一味も百味も違うぜ!

「アラヨットゥー!」

 階段を昇り終え、四階到達の記念にド派手にジャンプした。

「コノフロアノドコカニ新山ガイル」

 フロアにはいくつかのテナント企業が入っているが、新山が面接を受ける会社名は奴から提示されているので迷うことはない。

 あった――【御間貫毛おまぬけ株式会社】。

 会社によっては入り口にセキュリティ対策が施されていたり、受付のお姉さんが待ち受けていたりするが、この会社はその辺がガバガバなのか、誰でも自由に出入りできるようだ。

 今時そんなゆるゆるで大丈夫なのかと心配にはなるが、俺にとっては好都合。

「何ノ障害モナク、アッサリト目的ノ場所マデ侵入デキソウダナ」

 俺は会社への入り口の扉を颯爽と開けて、室内へと入った。



    ――――※ ここからは新山視点でお楽しみください ※――――



「では、貴方の長所と短所を教えてください」

 現在、新卒採用試験の面接中。

 既に五十社以上の企業から書類選考の段階でお祈りされているが、ここは面接を実施してくれた珍しい会社だ。

 この会社は中小IT企業で、客先に常駐しての作業や受託開発の案件で利益を得ている。

 俺が短大で学んでいる内容を生かすことができそうで、あわよくば良いご縁があればと考えている。

 なので、できる限りの力で奮闘したい。

 セキュリティ面が非常に緩いのが気にかかる部分ではあるけれども……。

「はい。まず短所からですが、私はせっかちな部分があり、言葉も早口になってしまいます。ですが裏を返せば、物事をテキパキとこなす長所にも繋がると考えることもできるため、上手くコントロールできればと常々改善努力をしております」

 志望動機と自己PR以外は、その場でパッと答えられる程度のアドリブ力がないと働いていけないと考えたので対策はしてないがそれが功を奏し、今のところは案外すらすらと受け答えができている。

「確かに早口ですね。改善努力と仰いましたが、具体的にはどのような対策を?」

 やはり来たか。回答に対する深堀りも想定していたさ。

「喋る前に早口に気をつけろと自分に言い聞かせております」

「それでも早口になってしまうんですね」

 うーん、地雷を踏んだかな。その場合は素直に認めるしかないよね。

「元より一朝一夕では直らない認識のため、これからも辛抱強く日々精進いたします」

「そうですか。では長所は――――」


「新山鷹章ノ首打チ取ッタリ!!」


 突如、面接室の扉が乱暴に開かれ、予想だにしない人物が室内に乗り込んできた。


「だ、誰だね?」

「お前……っ!」

 以前、短大からターミナル駅までの道中をともにしたイカレた格闘高校生!

 しかも彼女持ち! もう一度言う、彼女持ち!! リア充はくたばりやがれ!!

「彼は新山さんのお知り合いですか?」

「え、えぇまぁ……」

 俺は今、奴と知り合いである悲しい現実に後悔している。

「我ハ無駄ナ時間ヲ過ゴス者ドモヲ救ウ救世主ナリ!」

「……新山さんには救世主の知人がいたんですか」

「恐縮です」

「褒めてないんですけどね」

「コノ歪ナ空間ノ無駄ヲ仕分ケニ天界カラ舞イ降リタ神童コソガ、コノ俺様ヨ!!」

 招かれざる客は理解不能な台詞を吐くなり、俺と面接官二名を隔てている机の上に土足で立ち、俺の顔を指差した。

「ヲ前ヲ必要トシテイル企業ナドコノ世ニハナイ。来世ニ期待シロ」

「突然わざわざここまで現れてまで言いたかったのはそれ?」

 まさか面接に乱入してまで俺を罵倒したいとは、とんでもない嗜好の持ち主だ。俺にはそんなことをしようなどと考える思考回路は生憎持ち合わせていない。

 いやぁ、マジで大物は何考えてるか分からないなぁ……。

「チャウチャウ、言ッタロ? 救イニ来タンダ。ヲ前ミタイナカス野郎ヲ採用スル会社ハコノ世ニ存在シナイ。シタ場合、ソノヨウナ著シク見ル目ガナイ会社ハ数年後ニ倒産スルデアロウ」

「何を根拠にそんなことを……」

「ソラ俺ノ勘ヨ!!」

 不躾ぶしつけな乱入者は自分のこめかみを人差し指で二回つんつんする。

 俺のことは構わないが、あわよくば内定が欲しい会社をふんぞり返りつつ堂々とけなすのはご遠慮願いたいんだけど。

「新山さん、この高校生の名前は?」

 面接官が俺に乱入者のフルネームの開示を求めるが――――


「えーっと、ゴッドスター――ですかね」


 今更気がついたが俺も知らんぞ。

「それは本名なのかね!?」

 すみません。チャットのニックネームをそのままお伝えしただけで、僕にも分かりません。

 だってコイツ、俺は名前を名乗ったのに、自分は教えてくれなかったからな!

 面接官がこいつ大丈夫か的な視線を俺に向けてくる。待ってくださいよ、その視線はあのイケイケ男子高校生に向けるべきでしょうよ。

「ソウ我ハ!! 私立邦改高校のナンバーワン、平原圭ゾ!」

「お前、平原圭って名前なのか」

「なぜ知人の新山さんが知らなかったのか……」

 面接官は平原にはもちろんとして、俺にもドン引きしている。

 この角刈りのせいで俺の評価が急降下しているのは到底納得できないぞ。

「新山! ヲ前ガ初登場シタ時ニ教エタロ!」

「いいえ、一切ご教授いただいておりませんでしたが?」

 かの有名な者なり、としか聞いた覚えがないんですけど。

 コイツは鳥頭か? 俺も記憶力にはイマイチ自信がないが、平原のそれは次元が違うぞ。

 いや。伝えてないことを忘れてるのと、伝えてないことを伝えたつもりでいるのとでは、似て非なる気もするな。

「ナラ今名乗リマシタ! ――ドッコイショットゥー」

 平原は面接官二人の間の空席に座り、

「ココカラハ俺様ガ貴様ノ実力、人柄ヲ丸裸ニシテ弊社ニ相応シイカあぶッテ差シ上ゲマショウ。ヲ前等モソレデイイヨナ?」

 平原の謎の迫力に圧された面接官二人は勝手にやってくれとばかりに沈黙している。

「デハデハ。世界平和ノタメニ愛ハ必須ダガ、愛ヲヨリ強クスルニハドウスレバヨイカ?」

「なんですかその質問」

「質問ヲ質問デ返スナ!! サッサト回答シロヨ!!」

 パチモンの面接官から理不尽な質問を受けた上に、机をバンと叩かれて理不尽に怒鳴られる俺って一体……。

 まっ、適当に回答しておけばコイツも飽きて出ていくだろう。そのあとから何事もなかったかのように本来の面接を再開してもらえばいい。

「愛で世界が救える、というのは幻想だと考えます。私は現実を見て動いていきたいです」

「ヲ前ハソンナンダカラ進歩シネェンダヨ!! ソンナ体タラクデ会社デ戦力ニナルト思ッテンノカ!?」

「いってえ!?」

 再度口汚く罵られた上に、本物の面接官が使っていたボールペンを顔面に投げつけられたんだけど。これ、傷害罪で訴えれば勝てる?

 顔を押さえていると平原が、

「コレヲ前ノ顔ナノカ? 最終処分場ノ模型ダト思ッテタワ」

 至極おかしな言葉の暴力を放ちやがった。

「さすがにどう見ても顔にしか見えなくない!?」

「面接官ニハ敬語ヲ使ワンカ無礼者ガ!! 人事強権ヲ発動シテ今スグオ祈リシテヤッテモ構ワナインダゾ!?」

「痛い痛い!」

 横暴な面接官もどきから二発目のミサイルを顔に食らう。

 ボールペンの次はシャーペンか――もはや圧迫面接とかそんな生易しいものですらないぞ。

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