5_尊敬できない人生の先輩ほど迷惑な存在は皆無 ④

    ♪


「さっきのナニ出してた発言は失礼でしょ」

「ウ●コナンザ誰デモスルダロ。生理現象ダゾ」

「女性にとってはデリケートな話題でしょ」

「ヲ前ノ好キナ女性アイドルダッテ、ウン●ハスルシイビキモカマスシ性欲ダッテたぎラセテルゾ」

「お前の彼女もそうなのか?」

「腑抜ケタコト抜カスンジャネーゾ!? 俺ノ彼女ハ全部一切シテネェワ!」

「それ人間なのか……?」

 何の生産性もない下らない会話を続けながら歩き続け、あと少しで駅に着くだろう。

 ――ってところで、


「おーっ? 新山じゃねーか」


 チビ金髪ピアスのマッチョがニヤニヤしながら新山を指差した。

 その後ろには同様にチンピラな見た目の男が二人。見るからにガラの悪そうな連中だ。

 連中のうちの一人が新山の肩に手を回す。

「新山、お前友達いたのか?」

「……ウッス」

「高校の時は孤立してたお前が!? 休み時間はいつも寝たフリしてて、昼休みは図書室に逃げ込んでたお前がか!?」

 チンピラ三人衆は高笑いをはじめた。いや俺様はコイツと友達なんかじゃないんだけど。

「コノブサイクドモハ新山ノ知リ合イカ?」

「誰がブサイクだオルァ!!」

「あ、あぁ。戸阿帆どあほ高校時代の同級生だ」

「戸阿帆高校!? クソバカヤンキー高校ジャネーカ」

 新山には人間の知能がないとは感じてたが、まさかここまで筋金入りのバカだったとは。

「ちなみに戸阿帆高校の偏差値は35だ」

 新山がまた妙な数字を口走るが、戦闘力か何かのことか?

「ソノヘーサチッテノハ知ランガ、ヴァカノ上ニ素行モ悪イトハ、ヲ前等ハ社会ノオ荷物ヨ。閻魔大魔王様ニ地獄ニ連レテ行カレテ舌抜カレテ死ニ晒セヤ」

「んだとこの角刈り眼鏡!?」

「相当痛ぇ目に遭いてぇようだな!」

 戸阿帆出身の落ちこぼれ軍団は臨戦態勢だが、俺はあくまで冷静に自己紹介をする。

「フッ。聞ケ、たわケ者ドモ! 俺様ハ邦改高校二年ノレジェンドダ!」

 邦改高校の名前を聞いた途端、リーダー格のチビ金髪マッチョが歪んだ顔でわらった。

「……邦改高校? 偏差値は公立の戸阿帆よりはマシな程度で、しかも私立で親の懐に穴開けてる金食い虫の通うオタク高校じゃねーか! そちらの生徒さんですか~」

「新山ヲバカニスルノハイクラデモ構ワンガ、俺様ヲ侮辱スルノハ許サン!!」

 コイツらは高校を卒業してるくせに礼儀というモノを知らないな。

「というか、新山は年下の高校生とつるんでんのか? なに、同年代から相手にされないからって、年下相手にお山の大将気取ってんの?」

「ウ、ウス」

「いるよねー。タメや目上と上手く行かないから目下に逃げる奴」

「……ス」

 新山はすっかり怖気づいているようで、満足に言葉を絞り出せてすらいない。

 コイツらは勘違いしているな。

「ハァ? 大将ハ俺様ナンスケド??」

 俺が颯爽と自分の役職をバカどもに告げると、リーダー格の男が汚い物を見る目で新山を一瞥する。

「お前、年下に主導権握られてんの? だせえ」

「ッスッス」

「コノ世ハ実力主義! 故ニ無能ナ働キ者ガ有力者カラ馬車馬ノヨウニ使イ捨テサレルノハ社会ノ常!」

 上下関係ははっきりしておかないといけないからな。

「ヲ前等モブサイクデ雑魚ソウダガ、俺様ノ奴隷ニシテヤラナイコトモナイ」

「お、おいそれは――」

 血の気が引いた顔で新山が俺を制しようとするが、

「てめぇ舐めてんのか? 上等だゴルァ! この石原いしはら様が痛めつけてやる!」

 瞬時に沸点に到達した瞬間湯沸かし器は俺の元へと正面から突っ込んできた。

 ――が、甘い!

「うぐぅっ!」

「…………烏合うごうガ」

 俺はそれを華麗に見切り、すかさず石原とほざく男の膝に蹴りを入れる。

「おおっ、さすがは邦改のレジェンド!」

 俺を称える新山を見るなり、リーダー格が奴に睨みを利かせる。

「オイ新山ァ! てんめぇ分かってんだろうな!? 同じ釜の飯を食った同級生よりもソイツを取るってのか!?」

「グホォッ!」

 リーダー格の攻撃が俺の鳩尾に入り、俺は痛みで地面に倒れ込んだ。

 その様子を見た新山は、


「もちろん俺は戸阿帆同盟の一員でごわす!」

「新山ァ! 貴様裏切ンノカ!?」


 こともあろうに、リーダー格に土下座して向こう側に寝返りやがった。

松田まつださん、あんなヤツ軽くやっちゃってくださいよ」

「お前ごときが俺に偉そうに指図すんな!」

「ぐほおっ!?」

 新山は松田とかいうリーダー格のチビ金髪マッチョから顔面に張り手を食らい、そのまま倒れ込む。ふん、簡単に掌を返すからそういう目に遭うんだよ。

「行け、向井むかい、新山!」

「はいよっ!」

「ウスウース!」

 新山と、向井とかいうチンピラが同時に俺の方に攻め込んできた。

 俺は瞬時に身体を起こし、ターゲットをあのバカ新山に絞る。

 突っ走ってきた新山の腕を俺の美しい手で掴み、

「食ラエッ! 新山ミサイル!」

「うごぁあっ!!」

 向井の元へと投げ飛ばした。

 その結果、二人は衝突し戦闘不能となった。

「コレデアトハ貴様一人ダ」

 正義のヒーローの前では、悪は必ず滅ぶ運命にあるんだよ。

「なかなかやるじゃねえか。関心関心。だが、俺はそう簡単には倒せないぜ!」

 松田と俺で胸倉を掴み合うが――

「グッ、ナンツーパワーダ」

「俺は元高校球児で引退後もずっとジム通いを欠かしてないんだよ。柔道と合気道の黒帯も持ってるぞ」

 こいつは別格でマジモンに強い。

 他の二人は見た目と態度だけいかつくしただけの雑魚だったが、こいつだけは自身満々にイキるだけあって、相当な武術があると見た。

 ――――それなら戦法を変えるまでよ!

「な、なんだ!? ホールドか?」

 俺は松田の背中に手を回し、


「チュッチュッチュッ!」

 松田の顔の至る所にキッスをした。


「レロレロレロレロ~」

「あああああ! 顔を舐めんじゃねぇ気持ち悪ぃな! お前、そっち系か……!?」

 松田の顔色が怒の赤から怖の青へと変化していく。

「ぐぐっ……気味悪ぃ! ――オイお前ら掃けるぞ!!」

 松田の一声により、戸阿帆OBのドアホどもは俺から背を向けて逃げ出した。

「マタ一ツ、悪ヲ挫イチマッタゼ……」

 心地良い風が戦いを終えた俺の全身に染み渡る。

 戦いが終わるや否や、新山が俺の元へとやってきて肩に手を置いた。

「さっすがレジェンド! 俺ははじめから信じてたがはっ!」

「ヲ前ヲ筆頭ニ戸阿帆ノバカドモハ恥ヲ知レヤ」

 劣悪な日和り男に制裁の一撃をおみまいしておいた。ったく油断も隙もない男だな。

「ホラ行クゾェ!」

「痛い! ケツを蹴るなよ!」

 余計な邪魔が入ったが、これで本来の行動に戻れる。


    ♪


「おかしいな。そろそろ着くはずなんだけど」

 空が完全に闇に覆われた頃。

 俺たちは未だに駅まで辿りつけずにいた。

「既ニ三時間以上経ッテマスケド? ドウナッテル」

「ダメだ! この地図アプリは壊れている!」

「壊レテンノハヲ前ノ頭ダロ! ドウシテクレルンダヨ! 今スグ詐欺罪デ家庭裁判所ニ連レテ行ッテモイインダゾ!」

「勘弁してください」


 結局、数時間路頭に迷った末にようやく駅に到着したのだが、俺たちが短大から出発した頃には既に電車が復旧していたことに気がついたのは、電車の中で運行情報を確認した時だった。

「新山ノ野郎、アイツマジデ無能ダナ……」

 こうして俺の貴重な平日ホリデーは幕を閉じたのだった。


    ♪


「何度でも言うけど、サボりで休むのはどうかと思うよ!」

「スマンスマン。トコロデ帰リニクソ野郎ト知リ合ッタンダガ……」

 翌日の昼休み。

 葵のお叱りを受けた後、彼女に新山という人類のちりとのあれこれをかいつまんで説明した。

「えーその人絶対変だよ! 人格が普通じゃないと思う」

「奇遇ダナ。俺モソウ感ジタ。ケド、珍妙ナ生物ヲ観察スルコトデ、新タナ視点ヲ見ツケルコトモデキルト思ッタノデ連絡先モ交換シタヨ」

「しかもその人、あの悪名高い戸阿帆の卒業生なんでしょ? 圭がその人から変な影響を受けないか心配……」

「案ズルナ。新山ガ地底カラ足ヲ引ッ張ッテコヨウガ、俺ノ葵ヘノ愛ハ変ワラナイ!」

「は、恥ずかしいからストレートに言わないで……」

 ド直球のダイレクトアタックに葵はとても照れていた。

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