第6話 ハナちゃんの唐揚げ
今日は1週間ぶりにニーチェにきた。新学期でバタバタしてなかなか来れなかった。私はハナちゃんの唐揚げをつまみながら異世界の定番ジュースといわれるジャックを飲んでいた。ビールは飲んだことがないけど、多分ビールを知っている人だったらビールそのものだというだろう。とにかく唐揚げによく合ってシュワシュワな炭酸が喉を刺激する。それがまた心地いい。異世界のビールといったところか。人間界では飲めないけど異世界では飲めちゃう特別な嗜み。
ハナちゃんの唐揚げはこの前言っていたリンの大盤振る舞いの料理だった。日本人向け(私向け)の味付けは鶏からを想像させるが、ハナちゃんのいい歯ごたえはタコに近く、スパイシーな味付けが、私の知っている鶏からとはまた少し違う料理になっていた。
もちろん外はカリカリ中はジューシー。中にエキスを注入してるのかと思うくらい、噛めば溢れ出る肉汁。久々にこの至福を体験した。食べる幸せをニーチェが、リンが教えてくれたと言っても過言ではない。
「すんごい幸せそうな顔してる。」
「うひゃ!?」
唐揚げとジャック。そのふたつの味を堪能していたらリンが突然声を掛けてきてびっくりした。
「ちょっとお客も落ち着いてきたから、休憩。」
そう言って、リンは私の隣に座り、唐揚げをひとつ摘んだ。
「あっ」
「まだまだあるじゃん笑」
まだまだあっても私の中では貴重なひとつが。。。
「ねぇ、覚えてる?初めてここに来た時。」
少し真剣な顔で聞いてきた。
「え、うん…たしかちょうど…」
「1年前。」
私が言うより先にリンが答えた。
「ここに来るようになって、ちょうど今日で1年だ。」
「1年か…」
私はグラスを両手で持って机に置いた。
「早かったな…もう高3だよ」
「コウサンは大変なのか?」
「うん。受験があるから、今までみたいにいっぱい来れないかも。今日も1週間空いちゃったしね。」
「そうか…だからってあたしの料理持って帰っちゃだめだからな!笑」
ニヤニヤしながら言ってきた。
「わかってるよー。異世界の掟。異世界のものは持ち帰らない。ちゃんと守ってるよ。」
「それならいいよ。」
「ねぇ、おかわり。」
「あんたは本当に食べることだけだね。笑」
と言って席を立ち、皿を回収して厨房へ消えていった。
でも私は嘘をついた。私は悪い子だ。
リンが笑顔で唐揚げを大量に持ってやってきた。私はそれを直視することが出来なかった。
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