第48話 もう一人

 やがて雪はやむ。

「さて、この景色を変えるよ。」

倫弥は立ち上がる。草原と太陽、まばらに木々。近くには川が流れ、橋が架かる。

「この方が気持ちいいだろ。」

風景は変わるが、ここには生きた気配はない。

「そろそろ呼ぶよ。」

倫弥はいつも唐突になにかを始める。姿のないなにかの気配がハッキリと感じられる。

「これじゃ、戸惑いますよ。今はわかりやすくしてください。」

倫弥はその気配に言っているようだ。それは輪郭を表す。女性の姿。倫弥より幾分年上に見える。

「どうだった?」それは倫弥に聞く。

「まだ、途中です。」倫弥は応える。

「知ってる。で、どうだった?」またそれは聞く。

「楽ではないです。」倫弥は応える。

それは倫弥をじっと見ている。

「少し休んで行きなさい。」

それはレイとナズナに向かって言う。丸いテーブルとイスが四脚置いてある。レイとナズナ、倫弥も座るように促される。


 「わたしはドッポ。でいいかな。」

それは名乗って笑う。倫弥はちょっと怪訝な顔をする。

「やっぱりドッポは可愛くないわね。リザでいいかな。」

ドッポは名前をリザに改める。

「それで、なんで呼んだの?」リザは言う。

「先に行きたくて。」倫弥は応える。

「急がなくてもいいんじゃない?」

リザはカップを三個だし紅茶らしきものを注いでいる。

「どうぞ。」と言って、それを三人の前に置く。倫弥はカップを持つ。レイとナズナもカップを持ち、それを飲む。

「ここにしばらくいたら?」リザの口元は笑っている。

「誘惑しないで下さい。」倫弥は目をつぶり、ため息をつく。

「時間なんて関係ないでしょ。ゆっくりして行きなさい。」

リザは微笑んだままテーブルに肘をつく。

「終わったら来ますんで、その時にまた。」

倫弥はリザを真っ直ぐに見て応え、軽く頭を下げる。

「ここで眺めていけばいいのに。ねぇ。」

レイとナズナに向かってリザは言う。

「余計な事言わないで下さい。」

倫弥はリザを見据えて言う。

「どうせ忘れるんだからいいでしょ。」

リザはまだ笑っている。倫弥はなにも応えず、大きなため息をつく。

「わかったわよ。行くんでしょ。なにそんなに急ぐんだか。」

リザは立ち上がる。そして、「つまんないわね。呼び付けておいて、わたしもこう見えて忙しいのよ。あんな態度しなくてもいいじゃないの。」とブツブツ言いながら歩いていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る