022話ヨシ!  アー●ズな世界よ、よおこそ!

俺は、すぐに大木に身を隠し、その陰から投石を開始して、翼付き魔物の群を挑発。


『飛猿魔』 ── とか言ったか、サルとコウモリを足したような人間の子供大の魔物たちは、さすがにプロの兵士3人に守られた少年を再度襲うほど、バカではないらしい。


代わりにこっちに狙ってきた。



(だろうね、と思ってました!)



おっさん大好きなTV番組ナショ●ル・ジオ・グラフィックでも、だいたい群からはぐれたインパラの子とかが、肉食獣に『いただきます』されるパターンだからね!



(アット君がエサにされちゃうのかなぁ?

 ── 可哀想だけど、しかたないね!)



俺は、そうやって魔物の動きを予想していたので、躊躇ちゅうちょなく森の中に駆け込んでいく。


うっそうと茂る、雑木林。

不規則に樹木が生えていて、見通しも悪い。


体長1m~1.5mくらいで、翼を広げると横に3~4mある魔物たちにとって、最悪の飛行空間だろう。


見るからに、飛行速度が落ちた。

間抜けな事に、枝や幹にぶつかり、落下していく物も少なくない。


作戦通り!、である。



(バーカ!

 サルもどきが人間様と知恵比べして、勝てると思うなよっ)



俺は、内心勝ち誇りながら、森の奥に入り込んだ所で足を止める。

そして、ひときわ太い樹木に隠れながら、追跡してくる魔物の様子を伺った。



「── ……ん……何だ、今の……?」



なんだか、一瞬、暗闇の中に変な物が見えた。

真っ白い、蛇の顔だった。

ただし、顔の大きさだけで、成人男性の胴体くらいありそうな、超巨大な蛇。


あまりに異様だったので、何かの見間違いかな?、と目をこすってみる。

しかし、その答えは、劇的だった。



── ギィッ ギィッ



狭い枝の間をくぐりぬけ、飛びにくそうに追ってくる、飛猿魔。

それを、横合いから、白い閃光が貫いた。



── グギャァ!?



いや、白い閃光ではない。

そう見えるほど早く飛び出した、巨大な蛇の首だ。

悲鳴を上げるサル顔の魔物を、丸呑みにしていく。



── ギャ! ギャァ! 



仲間が数体ヤられると、飛猿魔たちは森から逃げだそうと、あわてて翼をはためかせる。

だが、もはや遅かった。

ここは、白い巨大蛇首の狩り場だったのだ。



(そう言えば、さっき護衛官の人達が『ロングネックがどうとか』って言ってたな……)



飛猿魔くそサルを引きつけて、被害者少年を逃がす事だけで精一杯だったので、まるで気が回ってなかった。

うっかり、魔物の巣に飛び込んでしまっていたらしい。



── ギィッ ギャァッ!?

── ヒュンッ グシャン!


── ギィイッ! ギィイッ! ギィイッ!

── ヒュンッ グシャン!



いくつも巨大な鎌首が、薄暗い森の中を、風を切って飛び交う。

そのたびに飛燕魔は捕食され、次々と呑み込まれていく。


体格差があるとはいえ、『戦い』にすらならない。

弱肉強食という自然の摂理そのものの。

一方的な捕食ほしょく行為。


飛猿魔という魔物に出来るのは、断末魔だんまつまをあげる事だけ。


それを見ていると、次は自分の番かも、と思わず身震いしてしまうのだった。





▲ ▽ ▲ ▽



「や……やべえ……」



俺は、唾を飲み込み、オーラによる視覚強化『瞬瞳』を起動。

暗視や望遠機能を使い、白蛇の魔物の位置を把握するためだった。


途端に、薄暗い森の光景が、クリアに見渡せるようになる。


同時に、魔物のオーラも観測できるようになった。

飛猿魔も巨大白蛇も、オーラは暗い赤色。


俺が、魔物の位置を覚えて脱出しようとした時に、ある事に気づく。



(── 白蛇の身体、相当長いぞ……

 10m……いや、20m近くある……しかも、尻尾の先が巨大に……

 いや、違う……こっちが胴体なのか?)



小屋くらいの胴体から、10~20mの巨大な首を伸ばす、巨大な魔物。

重量級の胴体が動けない代わりに、長く伸びる首が、木々の合間をすり抜け、獲物を捕らえる。

それが、このロングネックというらしい魔物の生態なのだろう。


その証拠に、1体の白蛇の首が縮められ、狩りの準備態勢に入った。



(なんだ、急にオーラの色が濃く……

 ……オーラの密度を高めてるのか?)



暗い赤色オーラが、極限まで黒に近づいた。

そしてすぐに、放たれた弓矢のような速さで首が伸びて、また1体飛猿魔が捕食される。


同時に、オーラの色が元の薄さに戻っていった。



(オーラの密度ってまさか……伸縮を制御する方法なのか!?)



俺は、はっとして、右手に装着したままのオーラ籠手を見つめる。

今までは、腕を振り回す勢い(遠心力)と、ゴムのような引き戻し(復元力)だけで、半熟オーラを伸び縮みさせていた。



(確かに、半熟オーラ自体の密度を変化させた事はなかったな。

 それをやったら、あんなに勢いよく伸ばせるのか……?)



早速、試してみる。


まずは、オーラの密度を高める。

いや、偏らせる、と表現したほうが近いか。

すると、きゅっと、腕が締め付けられるような、圧迫感がある。


そして、反転してオーラの密度低下、つまり薄く引き延ばす。

ヒュンッ、と風を切り裂いて、オーラの籠手が伸びていく。

しかも、今までどおりの2mにとどまらない。

4m、いや5mは伸びたか。


再度、右籠手こてのオーラを密にする。

5m伸びていた籠手が、勢いよく引き戻される。



(これはスゲー、スゲーぞっ!!

 これを利用したら、走るよりずっと早く移動できるんじゃね?)



赤スーツのクモ男ヒーロースパ●ダーマンがニューヨーク市のビルの谷間を飛んで回るような、空中移動のイメージが思い浮かぶ。

あるいは、『壁に囲まれた街』という共通点だけに、立体起動装置をあやつる調査兵団だろうか。


俺は、隠れていた大木の枝を見上げると、それに向かって籠手を発射。

さらに、伸びた小手が枝に当たった瞬間、籠手こての掌の部分だけに密度上昇を施す。


狙い通り、籠手が枝を握り込んんだ。

さらに腕部分のオーラを制御して、自分自身を引き上げる。



(いける!

 これなら、サルみたいに木の枝と枝を飛び回れるっ)



そういう事なら自信がある。

何せ、今世でも半年以上は『うんてい』をやってきたのだ。

2段飛ばし3段飛ばしで『うんてい』したりもしていた。

腕や肩を鍛えるため、実質サルみたいな訓練をしていた、と言っても過言ではない。


俺は、自己流の輝甲の籠手を、伸ばしたり縮めたりしながら、枝から枝へと飛び回る。



(もー転生神かみさま、早く言ってよぉ!

 いきなりオーラとか言われるから、ドラゴン●ールな世界かと思っただろ?

 でも、これじゃあ、実質ARMSアー●ズな世界じゃん!?)



ちなみに言うと、アー●ズって言っても一杯あってアレだから一応注意しとくけど。


腕が伸びる対戦ゲームの方じゃねぞ!

腕が伸びる少年マンガの方だからな!!

(この注釈でも、今ひとつ解らんだろうが)


そんな風に、新技を手に入れて、調子に乗っていたのが悪かったのだろう。


進行方向から、白い影が、一気に迫ってきた。

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