013話ヨシ! 11ヶ月後(2)、平屋根って陸屋根とも言うの知ってた?

兄から聞いた、オーラを物質形態・輝甲へ変化させるコツ。

それを端的にまとめれば、『オーラの変質』だった。


オーラを、集中したり、圧縮したりしても、大きな変化はない。

大事なのは、『オーラ自体の性質』を変えること。



(……今ひとつ解らん。

 それって光り方が変わるって事?

 あるいは光のリズム?

 でもそんなに色や光の強弱があったような感じもしないし……)



そんなチンプンカンプンな顔をしていると、兄が説明を付け加える。



「うちクラスの教官は、『オーラの鼓動を変える』っていつもいってるけど。

 正直、口では説明しずらいな。

 一度きっかけが掴めると、『ああ、こんな感じなんだ』って解るんだけど……」



『オーラの鼓動』と言われて思い浮かんだのは、心電図の波形。

病院のドラマとかで見る、ピ……ピ……ピ……と鳴ってるアレだ。


電波なら、周波数。

光なら、波長って事か?


あるいは、水が固体・液体・気体に変わるような、温度変化のようなモノがあるのか。


ともかく、今までみたいに、一点集中とか圧縮とか、単純なオーラ操作ではダメらしい。



「なんか、よくわかんない……」


「まあ、そうだろうな……。

 俺も出来るようになるまで苦労したからな。

 まあ、アットが輝士の適性試験に合格して、養成校に入れば、その内に覚えるよ」



そんな事を言って、兄は青色の輝甲きこうを、腕から解除。

なんだか雪が溶けるように、ふわっと消えていく。



(フフッ……甘いな、マイブラザー。

 このアット=エセフドラ、そう簡単に諦めたりしないのだよ!)



この俺は、俺TUEEEE!オレ・ツエ~~と異世界ハーレムのために、人倫を投げ捨てた悪鬼羅刹修羅てんせいしゃなのである。

エロフ、ケモ耳、姫騎士なんかにモッテモテになるためなら、この命などおしくない。


美女美少女だらけPTでキャッキャウフフ!

そんな黄金の鉄のかたまりな意志をもって、異世界転生したと言っても過言ではない!


そんな訳で、養成校に入るまでとか、待ってられないのである。


入学すぐの腕試し(予定)で同じクラス(予定)のお姫様や聖女さまに、

『まさかあの方が、予言の勇者様!?』

とか言ってもらうつもりなので。





▲ ▽ ▲ ▽



兄の話を聞いて思いついた『オーラの性質変化 = オーラの波長』仮説。



「波長が変わるって事は、色が変わってる?

 でも、兄ちゃんのオーラの色は、別に青から変わっなかった気もするし……。

 う~ん……もっとオーラの変化を見ないと解んないか?」



そんな事を考えて、夜、寝静まった家から忍び出る。

夜間外出の目的は、プロ輝士きしが使うオーラの観察だ。


我が家のパパが所属する軍の部隊・防衛隊の仕事の一つに、夜警がある。

夜行性の魔物から都市を守るという、ローテーション制の夜勤任務だ。

その際には、ほとんどの隊員が鎧姿 ── つまり輝甲きこうというオーラ鎧を装着しているらしい。



「それをじっく見れば、何かヒントに……

 ……とか言ってると、今からまさに変身してようとしている人が……」



城壁まわりの巡回路を見張っていると、兵士の詰所つめしょから夜警のおじさん達が出てきた。

見たことあるような顔の人が、ちらほらいる。

父さんと同じ部隊なのだろう。


観察の前に、顔見知りの大人から補導されないようにしないといけない。

俺は近くの民家の壁をよじ登る。



(さすがに、こんな時間の屋上には、人影はなさそうだな。

 右ヨシ! 左ヨシ! 見晴らしヨシ!)



念入りに、指さし確認。

泥棒と間違えられたら困るからね。


俺は、3階建て民家の平屋根に登ると、煙突の陰に身を潜めて観察を始める。



(ふむふむ。

 昼間に見た、兄ちゃんの変身と似てるな……)



隊員の人の、身体の周りをホタルみたいな光が飛び回り始めた。

光は、徐々に身体に付着していき、10秒ほどで鎧ができあがる。


違いと言えば、オーラの色くらい。

兄は、海みたいな青色のオーラ。

父を含めた防衛隊の人達は、みんな黒っぽいオーラだ。

いや、黒というか灰色っぽい、という方が近いか。


金属と言うよりも、石か甲羅みたいな質感だ。



(しかし、色が変化した感じはないよな……)



どうしたもんんか。


それに、さすがに遠いし暗いし、様子が見づらい。

なんか良い方法がないかな。

双眼鏡というか望遠レンズ的な方法でのぞき見できれば ──



(── あ、そういえばっ……!?)



俺は、今さらながらに、一ヶ月前の夜中散歩の時に、新技を開発した事を思い出した。

寒空の下で服を脱がされたり、チ●コ切るぞと脅されたり、色々散々だったので忘れていた。



(── いくぜ、新技・視力強化っ!)



ムダにポーズ取りながら発動してみる。

特に意味は無い。

なんとなく、だ。


オーラを両目の周りに集中。

グワッと、周囲が迫ってくるような視覚の変化。

ズームアップした視界では、夜目が利くのか、暗がりも明るく、オーラの光はまぶしいほどだ。



(さて、変身の様子は、っと……)



隊員の身体からあふれ出したオーラが、集中して丸く纏まり、蛍のような小さな光の球を、数十個か、あるいは数百個の単位で作り出す。


光の球は隊員の周りを飛び回り、その間、どんどんオーラは強まっているのか、輝きが増していく。

輝きが極限まで達し、目が痛いほどの輝きになると、光の球は隊員の身体へ戻っていく。


身体に張り付いた光の球は、色あせたように急に輝きを失い、装甲の一部へと変化する。



(第一段階は、オーラの放出と集中。

 第二段階は、オーラの強化?いや変化か?

 第三段階は、オーラの物質化と装着か)



夜警のおじさん達が輝甲の装着を、全員一斉にではなく、数人ずつ順番にやっているのもありがたかった。

おかげで、変身(?)の作業工程を、何度も確認できる。



(しかし、色が変化した……というか、色が褪せたみたいな、感じがしたけど)



そんな事を思っていると、プツッと、目の周りからオーラが途切れた。

同時に、視界が暗くなり、ほとんど見えなくなる。


不思議に思って目の周りに手をやると、すごい量の涙が出ていた。

あと、目がしばしばする。


まるで、前世で液晶画面に見入って瞬きせずにいた時みたいだ。

眼精疲労ってヤツだろうか。



(光が強かったから、目が疲れたのかな?

 それとも、目の強化は制限時間があるのか?)



涙を袖で拭き、目蓋や米神をもんだりすると、多少マシになった。

そして、2度目の『視力強化』を試す。



(これって、単に目が良くなるって感じじゃないな……)



普通の視界から、『視力強化』の視界に切り替わった途端、オーラの見え方が変わった。


例えるなら、サーモグラフィみたいな感じだ。

オーラの強さが、輝きの強弱で分かるみたいだ。



(『視力』強化というより『視覚』強化だな。

 ある意味、戦闘力測定器スカ●ターみたいな。

 戦闘力の代わりにオーラを測れる機能がある感じ)



これを活用すれば、今まで漠然ばくぜんとオーラの光を見ながら感覚だけでやっていた訓練が、もっと精密にできるのかもしれない。



(これ、地味に超便利な技かも……)



俺は、そんな事を考えながらも、暗灰色の輝甲きこうをまとうプロ輝士きしのおじさん達をながめ続ける。

やはり、みんな同じ手順だ。



(しかし、第三段階のオーラの物質化が、何をやってるのか解らん。

 なんで、すごい輝いてたのが一気に色あせるんだ?

 その瞬間、何が起こってるんだ?)



俺が首を傾げて考え込んでいると、点呼の声が聞こえだした。

防衛隊のおじさん達は、全員が変身を終えたようだ。

彼らが隊列を組んで、夜警に出発するのを見送る。


俺は、そのまま民家の3階屋上に居座り、色々オーラを操ってみる。


だが、見よう見まねを再現しようとしても、今ひとつ上手くいかない。



「もしかして、オーラの色が違うせいとか……?」



兄は青色で、父や防衛隊は黒っぽい色。

だが、俺のオーラは、蝋燭の火のような、黄色い色。


色によって、オーラの特性が違い得意分野も異なる、という可能性もありそうだ。


俺は、しばらく寒空の下、手探りのオーラ訓練を続ける。


だが、民家の主らしい中年夫婦の、酔っ払ったような大声が、集中力をさまたげる。

さらに、しばらくすると、ギシギシ、アンアンという音が聞こえだしたので、なにか気まずい心地になる。



「……そだね、他人様の家だからね」



今日のところは、おとなしく家に帰ることにした。

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