第7話
「ま、入学はどうせまだ先だ、その間に三年の遅れを取り戻しておけよ」
滝沢先生はそう言いながら病室を後にした。
ここ最近は色々な事がありすぎて正直混乱している。
それでも俺は現実と向き合おうと少しずつ行動を始めた。
まずは新聞やネットのニュースで三年間に起きたニュースを見て、眠っていた三年間に起きた出来事を調べた。
「え!? あのアイドルって引退したの!?」
好きだったアイドルが引退していたり、人気だった俳優が麻薬所持で捕まっていたりなど、驚くニュースばかりだった。
そして俺の退院の日、俺は石川先生と滝沢先生に見送られながら我が家に帰った。
三年ぶりの帰宅のはずなのに、そんな感覚は無い。
二週間ぶりに家に帰ってきた感覚だ。
「部屋はそのままにしてあるから……ゆっくり休みなさい」
「うん」
俺は家に帰り母親にそう言われ、自分の部屋に向かった。
いつも通りの俺の部屋……だが、よく見ると確かに少し違った。
部屋の隅には埃が溜まり、本棚にも薄っすら埃が溜まって居た。
窓の近くに置かれた本は日焼けしていた。
「三年か……」
机を見ると、そこには恐らく卒業式の日に俺が貰うはずだった卒業証書や記念品、卒業アルバムがおいてあった。
一応俺は中学を卒業した事になっているらしい。
「………」
卒業アルバムをめくるとそこにはまだ、俺の記憶に新しいクラスメイトの顔があった。
正直皆代わり過ぎて誰が誰なのか分からなかった。
あぁ……いやだなぁ……こういうの見ると考えちまう。
なんで……なんで俺だけの時間が止まってしまったんだ。
そんな事を考えていると、卒業アルバムの間に何かが挟まれているのを見つけた。
それはピンク色の便箋に入った手紙だった。
「なんだこれ?」
便箋には『水面へ』と掛かれていた。
字を見て直ぐに舞の字だと気が付いた。
恐らく学校から舞が卒業アルバムや証書を持ってきてくれたのだろう。
一体何が掛かれているのだろうか?
俺はそんな事を考えながら、便箋を開けようとした。
しかし、その瞬間一階の母親から声が掛かった。
「水面! お客さんよぉ!!」
「え!? あ、わかった!」
俺は便箋を置いて、一階に降りていく。
そこにはスーツ姿の男が二人、リビングのソファーに座っていた。
一体誰だろうか?
こんな知り合いは居なかったはずだが?
俺がそんな事を考えていると、スーツの男達は俺に頭を下げ手帳を見せてきた。
「初めまして、私たちは警視庁の異能犯罪対策課の物です」
「は、はぁ……」
「退院早々で申し訳ないのですが……君を氷漬けにした犯人の特徴を覚えていれば教えて欲しい」
「え?」
警察の人たちは俺から事件当時の事を聞いてきた。
俺はフードの男の特徴を話した。
正直言うと俺もあの時は必死で犯人の特徴なんてあまり覚えていない。
でも、知っていることは話たつもりだ。
てか、三年経っても捕まってないのかよ。
まぁ、犯人が捕まってたら俺ももっと早く氷から解放されてたかもだしな。
「なるほど……君はその男とは面識はなかったんだね?」
「はい」
「……言いにくいんだが、君を氷漬けにした犯人は見つかっていないどころか、犯人の目途すらついていない」
「そうなんですか」
氷を扱う異能者を当たれば簡単に目途が立ちそうなものだが、どうやらことはそこまで簡単な事ではないらしい。
「三年の間に施設や歴史的に価値のある物が凍らされる事件が続いている、我々はその犯人と君を襲った人物を同一人物として考えているのだが……三年間何も成果はない」
警察の人達は悔しそうにそう話ていた。
一体犯人の目的はなんだったのだろうか?
なんで俺を氷漬けにして、舞には何もしなかったのだろうか?
口止めをするつもりで舞も氷漬けにしても良かったはずなのに……。
警察の人たちはその後、もしかしたらまた狙われる可能性があるため、しばらくは家の周囲や外出先を警備してくれるらしい。
「あのフードの男……なんで俺にあんなことを……」
警察が帰った後も俺は部屋で考えていた。
何が目的だったのだろうか?
あいつは何者なのだろうか?
『……凍れ……その日がくるまで』
あの言葉の意味は何だったのだろうか?
その日ってなんだ?
しかも舞の炎でも氷は溶けなかったし……。
「あ、そう言えば手紙!」
俺は舞からの手紙の存在を思い出し、再び便箋を手に取った。
薄いピンクの便箋を開け、俺は中に入っていた手紙を読む。
『水面へ。これを読んでるってことは目が覚めたんだよね? 退院おめでとう。私は今日卒業式だったよ、本当は水面と一緒に出席したかったけど無理になっちゃったね。あの日、水面が何を言いかけたのか、私は何となくわかってるよ。いつ目が覚めるか分からないけど……あの時水面が言いたかったことが私の予想通りだったのであれば、私はきっと笑顔で首を縦に振っていたと思う。でも予想と違ったときの為に、私も水面に言いたかった事をこの手紙に書いておきます。好きだよ』
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