第5話
「こんなとこで何をしてんだ?」
「あ……先生……」
声を掛けてきたのは異能ドクターの滝沢先生だった。
相変わらず医者なのに医者らしからぬ服装で白衣を羽織っている。
本当にこの人は医者なのだろうか?
「お前、目覚めてから異能を使ったか?」
「いえ……先生が使うなって」
「あ、そうだっけ?」
お前が言ったんだろうが!
なんてことを考えていると先生は自販機で飲み物を買い、俺に渡した。
「ほれ、青汁で良かったか?」
「あの、買ってもらって大変申し訳ないんですが、なんで青汁なんですか?」
「俺が好きだから」
変わった趣味を持った医者らしい。
俺は先生から青汁を受け取る。
先生は青汁をごくごく飲みながら俺に話始めた。
「明日、お前の異能の状態を見るために検査をする。それを伝えに来た」
「異能の状態?」
「言っただろ? お前には水系と以外の二系統の異能が備わってる。検査の段階では何の系統なのかが分からない、だから明日詳しく調べてお前の今後を決めなくちゃならねぇ」
「今後って……普通の生活には戻れないんですか?」
「……異能を三個持ってるってことはこの世界ではかなりのレアケースだ。色々な組織機関がお前の体を欲しがるだろう」
「か、体を……」
「あぁ、だからお前の存在はまだ公には出来ないし、その事実を知る人物も増やしてはいけない。だから俺はお前とお前の主治医以外にはこのことは話していない」
「……」
異能を三系統持っているという事は、俺が思っているよりも色々な面で貴重らしい。
そりゃそうだよな。
新種の動物が見つかったようなものだ。
「……まだ三年経った事に慣れないか?」
「当たり前でしょ……こっちは一日寝てただけのつもりだったのに……」
「だろうな……友人はみんな成長し、両親も老け、時代は進んだ。混乱するのも無理はない」
「……俺はこれからどうすれば……」
「それを明日教えてやる、今日は取り合えず休め。あと、お嬢ちゃんなら帰ったぞ」
「え……」
「現実を受け止められないのも分かるが、あんまり放っておくなよ」
滝沢先生はそう言って談話室を後にしていった。
放っておきたいわけじゃない。
ただ……一緒に居るのが苦しいだけだ。
昔は一緒に居るだけであんなに心安らぐ場所だったのに……。
*
「あの……ここで能力を?」
「あぁ、そうだ。いつもやってるようにやってくれ」
翌日、俺は病院の地下にある大きな部屋にやって来た。
周囲をコンクリートの壁が囲っており、大きなガラス窓一枚を隔てて二部屋に区切られている。
ガラスの向こうには滝沢先生と目が覚めた時に最初に見た先生が立って居た。
「どうした? 早くやってみろー」
「わかってるっつの……」
俺はそんな言葉を呟きながら片手を前に突き出し、いつものように水系統の異能を発動する。
とは言っても俺の異能は水を生成して水鉄砲くらいの威力の水を前に飛ばすという、本当に普通の能力だ。
この能力が役立つのは夏休みのバーベキューの後かたずけや花火の後かたずけの時くらいだ。
「どうせそんな威力もないっておわぁぁぁ!!」
俺がいつものように水を出すと、その水はいつもよりも強い勢いで前に飛んだ。
まるで水の玉を前方に発射したような感覚。
明らかに今までにない威力だった。
「な、なんだこれ……」
俺が自分の手を見ながらそんな事を考えていると、今度は手から雷撃が飛び出した。
「うぉっ! な、なんで雷撃が!?」
俺の持っていた水系統のほかに雷系統の異能が備わったってことか?
にしてもどうやって俺は雷を出したんだ?
「なるほど……おい、お前。もう一系統の異能も出せるか?」
「え? いや、そう言われても……」
出し方なんて知らねーよ。
今の雷だってなんか勝手に出たし……。
前から備わっていた水系統の異能と違って発動条件が分からない。
「うーん、えい! 出ろ! 出ろ!」
俺は腕を前に突き出しながらそうつぶやく。
しかし、全く出ない。
なんでさっきは雷が出たんだ?
「うーむ……水の他に雷系の異能が……しかし、なぜもう一つの異能が発動しない
?」
滝沢先生はそんな事をブツブツつぶやきながら俺の事をじーっと見ていた。
そう言えばさっきは水の勢いが強くて驚いて腕に力が入って雷が出たんだっけ……。
「やってみるか」
俺は再び何もないところに向かって水を出す。
「うっ! やっぱり威力が上がってる……」
水を出した後、腕の力を強めるとまたしても雷が出た。
しかし、水のように強く前に飛ぶわけではなく。
手の周りにビリビリ纏わりついている感じだ。
「出た……これが俺の二つ目の異能……」
腕を見ながらそんな事を呟いていると、ガラスの向こうから滝沢が声を掛けてくる。
「よし、もういい。こっちにこい、説明してやる」
今のだけで何かわかったのか?
俺は言われるがまま、ガラスの向こうの滝沢先生ともう一人の先生の元に行く。
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