第859話あゆは演技派
俺は次の休み時間、いち早く俺が体育の時用に持ってきているタオルを取り、天銀の居る校舎裏へ向かう。
もちろん今日は体育が無いためこのタオルは使っていない。
俺がタオルを持って走っていると、後ろから背中を突かれた。
「ん・・・?」
「そんなに急いじゃってどうしたんですか〜?せんぱ〜い」
「なんだ、あゆか」
「なんだってなんですか〜!」
申し訳ないが、今はあゆに構っている場合じゃない。
「悪い、ちょっと急いでるんだ」
「え、なんですか〜?今なら私が手伝ってあげますよ〜?」
「絶対にやめてくれ!」
着いてこられたら天銀の性別があゆにバレてしまう。
「そ、んなに、強く、言わなくたって、私は、優しさで・・・」
あゆはその場でしゃがみ込んで涙声になった。
「あ、わ、悪い、そんなつもりじゃ・・・」
「・・・少し1人にしてください」
いつもならここで嘘泣きでしたとかって茶化してくるところだったと思うが、あゆはまだ涙声になっている。
「・・・わ、わかった、後でまた来るから、ちょっと待っててくれ」
俺は天銀の件が無事解決したらすぐあゆのところに戻ると決め、急いで校舎裏に向かった。
校舎裏に向かうと、天銀が影になっている場所にしゃがんでいた。
「天銀!悪い、授業が始まって遅れた、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
俺は持ってきたタオルを天銀に渡した。
「ありがとうございます・・・申し訳ないんですが最王子くん、少しあっちを向いていてください」
「あ、あぁ、わかった」
俺は天銀とは逆の俺がさっき入ってきた校舎裏の入り口の方を見る。
俺のすぐ後ろでは衣擦れの音がする、きっと天銀が今晒しを巻いているんだろう・・・天銀に悪いしあまり想像はしないでおこう。
「・・・ん?」
俺たちが居る校舎裏へと続く道の方から、砂を踏む音が聞こえてくる。
「天銀、誰か来る」
「・・・わかりました、背を向けているので大丈夫です、少しだけ待ってください」
誰かがもし近づいてきても軽く話して俺に集中を集めようと思っていたが、来た人物はその一声で誰かわかった。
「せんぱ〜い、こんなところで何してるんですかぁ?」
「あ、あゆ!?」
「あれ〜?天銀先輩も居るじゃないですか〜、2人でこそこそ何してるんですかぁ」
さっきまで涙を流していたはずのあゆが今となってはその痕跡が全く無いほどにいつも通りの表情で何故かここまできている、何から何まで疑問点が多すぎる。
「あゆ、そ、そうだ、さっき泣かせたし、お礼に何か───────」
「あんなの演技に決まってるじゃないですかぁ、先輩がなんか珍しく急いでて着いてきて欲しくなさそうだったので泣いたふりで油断させただけですよ〜」
「えっ・・・!?」
何から何まで計算していたのか・・・
「それよりそれより〜、先輩とお話しするのも楽しいんですけど、その後ろで天銀先輩は何をしてるんですかぁ〜?」
「え?あぁ、ちょっと服が濡れたらしくて、ちょっと着替えをしてるんだ、覗いたりするなよ?」
「は〜い、わかってますよ〜」
あゆは俺たちに背を向けた・・・今回もこれで一安心───────かと思ったが、そう思った直後にあゆが天銀の方を覗き込んだ。
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