第852話霧響の授業参観

「最王子さん、ここをお願いします」


「はい」


 霧響は先生に当てられると、前に出て数式を綴っている。

 ・・・中学生が習う数学、もちろん俺もわかるにはわかるがおそらくあんなにスラスラと書くことではできない、高校二年生平均の俺基準ではあるが、やっぱり霧響は賢い。


「流石最王子さんです」


 先生からも褒められている。

 ・・・先生に流石だと褒められるなんて、俺には早々経験が無いことだ。

 そして休み時間。


「お兄様!見てくださっていましたか?」


「あぁ、もちろん」


 周りから声が聞こえてくる。


「あれが霧響さんのお兄様・・・」


「あの霧響さんがあんなに笑顔に・・・」


「やはり本当にすごい方・・・」


 霧響が俺のことを慕っているところを見て他の生徒たちもなんだか俺に対して敬いの目を向けてきている。


「ちょっ、霧響、本当に普段からこの人たちにどんなことを吹き込んでるんだ?」


「それはもうお兄様の素晴らしさを日々語っていますよ」


 夏休み明け直後で霧響の俺の話なんて記憶から飛んでてもおかしく無いのに、夏休みの約一ヶ月を挟んでも忘れないほどには俺のことを話してたのか。

 ・・・休み時間にも入ったことだし、俺について霧響からどんな風に言われてるのかちょっと聞いてみることにしよう。


「あの・・・霧響から俺についてどんな風に聞かされて?」


「日々、想像もできないような苦行を乗り越えているとお聞かせいただいています」


 ・・・確かに日々苦行を乗り越えてはいることは間違っていないが言い方がかなり大袈裟というか、カッコ良すぎる。


「他にも、人間としての欲望、本能にすら抗う強い意思をお持ちだと、聞き及んでいます」


 本当に物は言いようとは、まさにこういうことを言うんだろうな。

 ・・・それにしてもこんな子が本当に俺よりも年下なのか。

 言葉遣いがどう考えても中学生のそれじゃない。

 近代ではかなり貴重なほどに貴賓がある。


「えぇ、お兄様は本当に素晴らしい方です、自制心に関しては特に世界単位で見たとしても目を見張るものがあると言わざるを得ないほどです」


 周りからは感嘆の声が聞こえてきた。

 難しそうな単語を並べて俺のことを褒められると照れるな、この場に小姫さんとかがいれば、きっとこの難しそうな単語をさらに通り越して想像もできない罵声を浴びせてきたんだろうな。


「本当にすごいです」


「尊敬します」


「お兄様、このように、お兄様は尊敬されるべき存在であるということを改めて自覚して、もっとご自身に自信を持たれてください」


 ・・・ここに居るとおかしくなってしまいそうだ。

 俺は絶対に普通ではない授業参観を終えて、霧響と一緒に家に帰った。

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