第792話天銀と結愛

 俺はあの地獄から抜け出すべく、ベランダの方にでた。

 ベランダに出ると、天銀が本を読んでいた。

 ・・・こんなに暑いのにどうやら帽子は被っているようだ。


「あ、最王子くん、おはようございます」


「あぁ、おはよう」


 ここがこの家の色んな意味での避暑地だな。


「今日は暑いですね、夏の終わりはいつもこうです」


「そうだな」


 確かに言われてみれば夏の終わりはいつも暑くなっているような気がする。

 ・・・俺はふとさっき感じた疑問を聞いてみることにした。


「こんなに暑いのに帽子は取らないのか?」


「帽子は・・・そうですね、取ってしまうとおそらく性別がバレてしまうのでお手洗いやお風呂などの衆人環視でないところ以外では基本的に付けています」


 外だけならともかく家の中でまで付けないといけないとなると大分不便そうだ。


「自分の家に帰ったほうがいいんじゃないか?自分の家ならそんな気遣いも必要ないだろうし」


「いえ、できるだけ長く最王子くんと長く居たいので」


「・・・え?」


 俺と長く居たい・・・?

 ・・・いやいやいや、初音たちと一緒に長く居すぎたせいで脳が恋愛脳になってしまっている。

 普通に友達としてって意味だろう。


「・・・どうかしましたか?」


「・・・なんでもない」


「・・・・・・」


 天銀は少し沈黙して間を開けると、何故か急に本の方に目を向け始めた。


「天銀・・・?」


「・・・いえ、その、そうですね、やっぱり長く居ることによって互いに理解を深めていければ人間性などを知ってより仲も深まると思います」


 いきなりさっきまでとは比にならないほどの早口でそんなことを言い出したかと思えば、帽子を自分の目元まで持っていった。

 帽子を前にしたせいで後ろ髪が少し見えている。


「そーちゃん、あっ、天銀も居たんだ」


 結愛と天銀が話してるところはあまり見たことがないが、険悪な感じはしない。


「天銀、ちょっとそーちゃん借りたいけど良い?」


「はい、大丈夫ですが・・・その、リビングの方で少し喧嘩していたようですが大丈夫ですか?」


 もしかすると天銀はこの家の天使かもしれない。

 この家では流血してないだけ平和だというのに。


「あぁ、大丈夫大丈夫、ああいうのは大抵あの虫が悪いから」


「そうですか・・・」


 ・・・少し天銀が言いたいことがありそうな感じはあるが、この2人は一触即発なんて言うことはなさそうだ。


「じゃあそーちゃん、ちょっと来てもらってもいいかな?」


「え・・・なんの用事なんだ?」


 天銀が身近にいる内に聞いておこう。


「ちょっと暑いからからなのかわかんないんだけど、胸の調子が悪いみたいだからそーちゃんに触診してもらおうと思って」


「触し───────」


「触診!?」


 俺が驚くよりも早く、天銀が驚いた。


「だ、だめですよ!何言ってるんですか!」


「え、何で?」


 ・・・珍しく、この2人が軽くぶつかりそうな気配がする。

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