第788話目の前で

 それから行われたのは、本当にいつもいつも思うことだが、一体どこでそんな技術を得たのかと疑問に思うほどの乱舞だった。

 特に霧響、なんで俺と同じ生活環境に身を置いていたのにそんなに戦闘し慣れている感じが出ているんだ。


「これ以上は本当に霧響ちゃんのことを傷つけちゃうかもしれないから、別の方法で霧響ちゃんに教えてあげるね」


「別の方法・・・?」


「そーくん、ちょっと良い?」


「な、なんだ?」


 こんな激闘の最中話しかけられてもどう受け答えすれば良いのかわからない・・・頼むからその矛先を俺に向けるのだけはやめてほしい、俺は霧響とは違ってそんな謎の戦闘教育は受けていないんだ。


「そーくんは霧響ちゃんと恋人になりたいの?」


「なりたいわけないだろ!」


「だよね、じゃあちょっと一緒に霧響ちゃんにわからせてあげようよ」


「わからせる、って・・・え!?」


 まさか俺もこの戦闘に参加して霧響を倒せって言うのか・・・?

 ・・・妹に物理的に勝てないと言うのは本当に情けないことであると言うのは自覚しているが、現実的にどう考えても不可能だ。


「違うよ、暴力じゃなくて、もっと簡単で、かつ霧響ちゃんにダメージがあることをするの」


「霧響にダメージ・・・?」


 しかも暴力じゃないのか。

 それで霧響が俺と婚約するなんて言うことを諦めてくれるのであれば長い目で見た場合確かに実行した方がいいだろう。


「その方法っていうのは?」


「簡単、今霧響ちゃんの目の前でそーくんから私にキスするところを見せつけるの、そうすれば霧響ちゃんだってわかってくれるでしょ?」


「何もわかりません!ですからそんな無意味なことはしないでください!」


「霧響ちゃんが痛いからやめてだってそーくん、早くしてよ」


「嫌です!ダメです!!」


 霧響は叫びながら初音の方に突進したが初音はそれを避けた。

 かと思えばそのまま俺の方に突き進んできた。


「って、おい!ぶつか───────んぐっ」


「・・・・・・」


 ・・・え。

 ・・・ん?


「・・・ん?」


 俺が今こんなに動転しているのは、ただ霧響がこっちに突進してきたからというだけではない。

 むしろそれに関しては特に痛くもなくあまりこんな言い方はしたくないがいつも霧響が抱きついてくる時と同じような感覚だ。

 ・・・が。


「少し外してしまいましたが・・・お兄様の頬に接吻することに成功しました、とても誇らしい気分です」


 何故か誇らしがっている。

 ・・・危なかった、本当に危なかった。

 妹に頬・・・でもダメだが唇にキスなんてされていたらもう本当にダメだったな。


「・・・霧響ちゃん、もし今そーくんの唇に当たってたらいくらそーくんの妹だからってちょっと足が不自由になってたかもしれないよ?」


「知りません!お兄様は私のお兄様なんですー!」


 霧響は子供のように喚き散らす。

 ・・・このままじゃ収拾がつかない、俺がどうにかしないと。

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