第656話思惑通り

「わ、わからせる・・・?」


 初音はなんの話をしてるんだ・・・?

 疑問に思う俺に説明口調で、かつ結愛には聞こえないぐらいの小声で言う。


「うん、ここでそーくんは私のってことを、あの女に徹底的にわからせるの」


「て、徹底的に・・・?」


「そう、そのためにも、いつもみたいに私からアプローチするんじゃなくて、今はそーくんから積極的にアプローチして欲しいの」


「え、お、俺から・・・?」


「そうだよ?・・・ねぇ、そーくんさ、前私がえっちなことしよって言った時こう言うのって普通男女逆じゃないのか?」みたいなこと言ったよね」


「え?あ、あぁ、言ったな」


 それは普通にそうだろう。

 少なくともイメージ的には彼女よりも彼氏の方からそう言うことを言うイメージがある。


「じゃあさ、積極的にアプローチするのは一般的に考えれば男の子の方だよね?プロポーズだって一般的には男の子の方からするって感じになってるし」


「そ、それは・・・ま、まぁ、確かに」


 そこを言われると何も言えない。


「だよね?それを踏まえた上で、私にアプローチ、できるよね?」


「で、でもそれは一般的にの話であって──────」


「一番最初に一般論を出してきたのはそーくんなのに、都合が悪くなったらそれを否定するの?」


「そっ、それは・・・」


「・・・何も言えないよね?」


 ・・・確かに今まで俺が散々言ってきたことだ、内心でも性別逆じゃないのかと疑うことが今まで片手じゃ数えられないぐらいにはあったからな。


「何も言えないなら、今回はそーくんからアプローチしてね、実技テストなんて名目も作ってあげたんだから」


「えっ・・・」


 まさかこの実技テストになるまでの流れ全て初音の思惑通りなのか・・・?


「テストって名目なら、そーくんだって色々とやりやすいでしょ?もしあの女が何か言ってきても「これはテストだから」で済ませれば良いからね」


「そ、それって───────」


「さっきから何コソコソ話してるの?」


 と、俺たちが長い間小さい声で話し合っていたのを不審に思ったらしい結愛が話しかけてきた。


「別に?実技の確認してただけだけど」


「・・・そう、後半は私がするんだから、早く前半終わらせちゃってよ」


「わかってるって」


 初音は結愛にそう返すと、俺に目を利かせてきた。

 積極的に初音の服を脱がせろということだろう。

 俺はとりあえず上の服の薄着を脱がせ、初音のスカートに手をかける。


「あっ!そーくんっ!だ、だめ!」


「えっ?あ、わ、悪い・・・」


 そうか、いくら実技と言ってもこれはテストだ、そんなテストなんかでスカートを脱がせるって言うのは流石の初音でも嫌か。

 俺はやりすぎたと自覚し、すぐに手を離──────


「ねぇバカなの?」


「ば、ばか・・・!?」


 初音は普段あまり俺にそういうことは言わないため、俺は少し驚く。


「今ダメって言ったのは雰囲気作りのため、せっかくそーくんが覚悟決めてくれたのに私がダメなんて言うわけないよね?」


「あ、そ、そうか・・・」


 きっとこういうところが女慣れしていない、ということなんだろう。

 俺は改めて認識し、目を逸らしながらも初音のスカートをゆっくりと下ろした。

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